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「……え?」
「あんたは異世界に転移して、三日間で魔王を倒して平和を取り戻すのよ!」
思わず、訳が分からずに呟いたオレに。
女神は、3時間前と全く同じ発言を繰り返した。
「えっと、具体的な説明を頼む」
「夢じゃな―――
これは夢なのかーとか言わないの? やぁねぇ、冷めた若者は」
「あ、ああ……ごめん。
いや、驚いてて、どう反応していいのか……」
驚いている。確かに、驚いている。
でも、それ以上に。
都合の良い事態を夢想し、もしかして、ひょっとしてと立ち上がった女神を見上げる。
「そうね。かいつまんで説明するわ。
時間がないから一度しか言わないわ、ちゃんと聞きなさいね?」
「わかった」
ところどころ、3時間前と同じセリフを告げる女神に。
3時間前とは違い、正座する勢いで居住まいを正し話を聞くオレ。
「今更だけど説明すると、転移者は自由にいくらでも送れるわけじゃないわ。
大雑把に言うと『異世界から連れてくる』『魂を世界にあわせて変形させる』『器を作る』『送り込む』などを、神力的なもので行う必要があるの」
「そうやって、オレがあの世界に送り込まれたんだな」
「そういうこと。
だから、本来なら700年ごとの機会に、一人ずつしか送り込めないわ」
そりゃまあ、当然だよな。
今更、実はオレ以外にも転移勇者が居ましたとか言われたら、なんか泣いちゃうかもしれない。
「なので、今回もあなたを送り込んだから、これで終了―――の、はずだったのよ」
「本来なら、はずだった……ってことは、まさか」
「ええ、そうよ。
あなたの頑張りの成果ね」
オレの……頑張り?
オレの頑張りなんて、たかが知れているのに。
女神の語った、今も泣いているというリメルの姿。泣き顔を思い描くこともできないことに、胸が痛い。
「破邪結界を使用し、聖戦の代償を使い、膨大な力で魔王に手傷を負わせたことよ」
「魔王にダメージを与えたから、女神の力が回復したってことか?」
「んー、ちょっと違うわね。でも理解しようと考え続ける姿勢は好印象よ」
えらいえらいと呟きつつ、女神は続ける。
「破邪結界内で魔王に傷を負わせ弱まらせたことで、限定空間内の瞬間的な事だけど、私を阻む邪神の力は大幅に弱まったわ」
邪神の力を取り除く、破邪結界。
邪神の力を振るう、魔王の弱体化。
その相乗効果ってことか。
「この状況であなたが聖戦の代償を使った」
「ああ」
「聖戦の代償は魔王の身体を一部吹き飛ばしたけど、力の大半は余波としてそのまま虚空へ放たれたわ。
その放たれた神力を、少しだけ手出しできるようになった私が、自分の力の一部として回収したってわけ」
「……なるほど」
結界は、あくまで呪いを弱めて解呪を成功させるために使ったんだけど、思いもしない効果があったんだな。
いや、邪神の力を取り除くって効果で言えば、当然だったのかもしれない。
「この神力を使って、私は異世界から勇者を召喚しようと思っているわ」
ジャージの女神が、オレに向いてにやりと笑う。
不覚にも、ちょっとだけかっこいいと思ってしまった。
「さて、北村 宿禰よ」
「はい」
笑顔の女神に、頷き返す。
オレは今―――どんな顔をしているんだろうか?
「あんたにはこれから、勇者として異世界に転移して、魔王を倒してもらうわ。
ただし!
異世界に居られる期間は三日間だけ」
三度、女神は繰り返す。
オレを誘うその言葉を。
「あんたは異世界に転移して、三日間で魔王を倒して平和を取り戻すのよ!」
二人きりの白い空間には、つい5分前と、何より3時間前とは全く違う空気が流れている。
何よりも、今までとは全く違う、熱が宿っている。
「わかった。
魔王を倒すと約束は出来ないけれど―――」
遥かな過去に感じる、たった3時間前。
3時間前の自分と、今の自分と。確かに、違う何かを胸に感じながら。
「今度こそ、三日間全力で頑張ってみるよ」




