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三日で終わらす異世界転移  作者: 岸野 遙
エピローグ、その後に
22/60

1/10 03:19

「……え?」

「あんたは異世界に転移して、三日間で魔王を倒して平和を取り戻すのよ!」


 思わず、訳が分からずに呟いたオレに。

 女神は、3時間前と全く同じ発言を繰り返した。


「えっと、具体的な説明を頼む」


「夢じゃな―――

 これは夢なのかーとか言わないの? やぁねぇ、冷めた若者は」

「あ、ああ……ごめん。

 いや、驚いてて、どう反応していいのか……」


 驚いている。確かに、驚いている。


 でも、それ以上に。

 都合の良い事態を夢想し、もしかして、ひょっとしてと立ち上がった女神を見上げる。


「そうね。かいつまんで説明するわ。

 時間がないから一度しか言わないわ、ちゃんと聞きなさいね?」

「わかった」


 ところどころ、3時間前と同じセリフを告げる女神に。

 3時間前とは違い、正座する勢いで居住まいを正し話を聞くオレ。


「今更だけど説明すると、転移者は自由にいくらでも送れるわけじゃないわ。

 大雑把に言うと『異世界から連れてくる』『魂を世界にあわせて変形させる』『器を作る』『送り込む』などを、神力的なもので行う必要があるの」

「そうやって、オレがあの世界に送り込まれたんだな」

「そういうこと。

 だから、本来なら700年ごとの機会に、一人ずつしか送り込めないわ」


 そりゃまあ、当然だよな。

 今更、実はオレ以外にも転移勇者が居ましたとか言われたら、なんか泣いちゃうかもしれない。


「なので、今回もあなたを送り込んだから、これで終了―――の、はずだったのよ」

「本来なら、はずだった……ってことは、まさか」

「ええ、そうよ。

 あなたの頑張りの成果ね」


 オレの……頑張り?


 オレの頑張りなんて、たかが知れているのに。

 女神の語った、今も泣いているというリメルの姿。泣き顔を思い描くこともできないことに、胸が痛い。


「破邪結界を使用し、聖戦の代償を使い、膨大な力で魔王に手傷を負わせたことよ」

「魔王にダメージを与えたから、女神の力が回復したってことか?」

「んー、ちょっと違うわね。でも理解しようと考え続ける姿勢は好印象よ」


 えらいえらいと呟きつつ、女神は続ける。


「破邪結界内で魔王に傷を負わせ弱まらせたことで、限定空間内の瞬間的な事だけど、私を阻む邪神の力は大幅に弱まったわ」


 邪神の力を取り除く、破邪結界。

 邪神の力を振るう、魔王の弱体化。

 その相乗効果ってことか。


「この状況であなたが聖戦の代償を使った」

「ああ」

「聖戦の代償は魔王の身体を一部吹き飛ばしたけど、力の大半は余波としてそのまま虚空へ放たれたわ。

 その放たれた神力を、少しだけ手出しできるようになった私が、自分の力の一部として回収したってわけ」

「……なるほど」


 結界は、あくまで呪いを弱めて解呪を成功させるために使ったんだけど、思いもしない効果があったんだな。

 いや、邪神の力を取り除くって効果で言えば、当然だったのかもしれない。


「この神力を使って、私は異世界から勇者を召喚しようと思っているわ」


 ジャージの女神が、オレに向いてにやりと笑う。

 不覚にも、ちょっとだけかっこいいと思ってしまった。


「さて、北村きたむら 宿禰すくねよ」

「はい」


 笑顔の女神に、頷き返す。

 オレは今―――どんな顔をしているんだろうか?


「あんたにはこれから、勇者として異世界に転移して、魔王を倒してもらうわ。

 ただし!

 異世界に居られる期間は三日間だけ」


 三度、女神は繰り返す。

 オレを誘うその言葉を。


「あんたは異世界に転移して、三日間で魔王を倒して平和を取り戻すのよ!」


 二人きりの白い空間には、つい5分前と、何より3時間前とは全く違う空気が流れている。

 何よりも、今までとは全く違う、熱が宿っている。


「わかった。

 魔王を倒すと約束は出来ないけれど―――」


 遥かな過去に感じる、たった3時間前。

 3時間前の自分と、今の自分と。確かに、違う何かを胸に感じながら。


「今度こそ、三日間全力で頑張ってみるよ」


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