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「リメル!」
背後で扉の開く音がして、白く輝く部屋の中に王様達が駆け込んでくるのが分かった。
それでも、今オレがそちらを向く事はない。なぜなら―――
「きっ、きさまぁぁっ!」
魔力切れで半ば倒れて動けないオレは今、身を起こした姫様に抱きつかれて唇を奪われていたからだ。
あ、あああ、なんだこの柔らかさ、とろける、とろけてまう!
それにいい匂いがするし、ちょっと触れた鼻も慎ましやかで可愛らしいし、閉じたまぶたの端に輝く涙の雫がすごく綺麗で
「ん、ふ……ちゅ、んんぅ」
艶かしい声を漏らしながら、激しく姫様がオレに口付ける。
流れ込んでくるのが魔力なのか幸せ力なのかもうどうでもいいくらいに流れ込んでこれが幸せ力か!
ああ、もうこれだけで死んじゃいそう、我が人生に一遍の悔いなし!
と思ったけど、胸元で潰れてる巨大なおっぱいをもっと感じたいし、も、揉みたい!
やっぱり死ねない、まだまだいっぱいしたい!
「ん……
スクネ、様?」
「は、はい」
そんな不埒な事を考えてたのがバレたのかとどきどきしながら、目を開けた姫様と至近距離で見詰め合う。
姫様はにこりと微笑むと、耳元に口を寄せて、誰にも聞こえないように囁いた。
「ありがとうございます、私の勇者様」
「っ、こちらこそ、その、ちゃんとできて良かったです!」
嬉しそうに微笑むと、姫様が身体を離して背を向けた。
気分が悪そうだった侍女が傍により、毛布で姿を隠し着替えを手伝う。
そんな様を、姫様のキスでやっと起き上がれるようになったオレは夢見心地のままぼんやりと眺めていた。
ちなみに背後では、オレと一緒に跳ね飛ばされた侍女が、一人で王様とジャルカさん二人の猛攻を凌いでいるところでした。
……なにげに、この人凄かったんだなぁ。姫様の侍女につくだけの事はあるわけだ。
「スクネ様のおかげで、無事に呪いは解け、核は砕け散りました。
お父様、ジャルカ、心配をお掛けしました」
「うむ……
ありがとう、スクネ君?」
王様が、娘に近寄る悪い虫を睨み殺す!とばかりに力いっぱい睨みつけてくる。
でもつぶらなおめめのせいで、どことなく可愛いというか愛嬌があるというか。
いや、そんなこと言ったらいけないよな。王様なんだし。
「これで、ジャルカさんとの約束も果たせたな」
「何か、約束をしてらしたのですか?」
姫様と王様に頷く。そう言えば、特に言ってなかったっけ。
「オレが、姫様の声を取り戻す。そのために、ジャルカさんが協力する。
そういう約束をしていたんだよ」
「うむ、牢屋の中で脱獄の手伝いをさせられたのじゃ」
犯罪者の脱獄手伝いを、国の重鎮がした。
そんな事実に、苦笑する王族の方々。だが
「ついでに、の。
見事、姫様の声を取り戻した暁には、わしの身を好きにして良いと約束したのじゃ」
続くジャルカさんのいい加減な発言に、姫様の顔色が変わった。
くしゃり、と。えらく軽々しい音を立て、その手の中のカップが握り砕かれる。
「す、スクネ様!?
それは一体どういうことですか!」
「え?
いやジャルカさん、そんな約束してないし!」
「何を言うておるんじゃ。
わしの全てを託すと言うたじゃろう?」
言ったっけ?
なんか、ニュアンス違くない?
「だいたい、ジャルカさんをもらったところでなぁ。
誰かとキャッチボールするくらいしか、役に立たないような」
「な、なんじゃと!?
裸で何一つ持たぬお前に、服を着せてちんこを隠させ、ここまで大きく育ててやったのは誰だと思うておるのじゃ!」
「変な言い方すんな!」
パワーレベリングは感謝してるし、服も感謝してるけど!
時々錯乱するし、姫様の前ではオレのこと処刑しようとしたし、意外とこいつ油断ならねぇ!
「余としても、ジャルカにはまだリーンスニルで働いて欲しいものだ」
「なぁに、人の生涯なぞわしの寿命からすればほんの一時じゃよ。
わしららぶらぶじゃからな、他の者など不要じゃ。楽しい2人旅じゃ!」
なぜか嬉しそうに答えるジャルカさんに、王様も呆れ顔だ。
今度は姫様がジャルカさんに詰め寄る。頑張って!
「なっ、なりません!
ジャルカにはもう随分長いこと、牢屋(別荘)暮らしという休暇を与えました。
この上でスクネ様と旅に出るなど、お父様が許しても私が許しません!」
あの牢屋、別荘だったんだ。
確かに、普通に鉄格子の隙間出入りできたようだし、寒くもなく快適だったけどさ。
「そもそも、ジャルカさんが来てもキャッチボールの相手が居ないし……」
―――いや、待てよ?
あの戦闘力と知識量に加えて、あの予想外の動きをする小さな球体。
これって、そう言えば魔王を倒すためには、かなりありがたい戦力なんじゃないか?
そもそもオレ、魔王を倒しに来たんじゃなかったっけ?
それで仲間が欲しかったんじゃなかったっけ?
あれ? あれ?
「くくく、スクネはわしの真の姿を見ておらんからそんなことが言えるのじゃ」
「え?」
「勘違いしておるようじゃが。
わし、人間の性別で言えば女じゃよ?」