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「これより、解呪を開始する!」
何の道具もないし、何の準備もない。
それでもオレは、宣言をすると両袖をまくりあげた。
前後には2人の侍女が待機し、必要とあらば手伝おうとタオルやら洗面器やら用意してくれている。
確かに、核を取り出したら傷ができるかもしれない。何が起こるかわからない。
だから、せっかくここに居るんだし、立ってる人間は誰でも協力してもらおう。
人間じゃなくて魔族だけどな!
「さあ、行きます」
「はい……スクネ様、お願いします」
姫様の言葉に頷いて、オレは手を伸ばした。
指先で触れた核は、熱く、心臓のように脈打っていて。
オレがしようとしている事が分かるのか、じりじりと温度を上げていく。
「姫様を蝕む邪悪な呪いよ、我が力により浄化され消え去るがいい」
焼けるように熱い指の痛みを堪え、最高ランクまで上げた解呪スキルを発動する!
「天聖浄化!」
身体から何か―――おそらく魔力が抜けていく脱力感に耐える。
ネットゲーと妄想で培った強固なオレのイメージが、指を伝わって呪いの核に注ぎ込まれ―――
「ぐあっ」
「きゃあっ!」
強烈な力に、オレは背後の侍女もろとも吹き飛ばされた。
「ぐ、ぅ……
すまない、大丈夫?」
「は、はい……ありがとうございます」
突然オレに跳ね飛ばされつつも、しっかりとオレを抱き支えて受身を取った侍女に謝りつつ、手を取って引き起こす。
ベッドに戻って見れば、呪いの核はさらに鈍く暗い光を放っていた。
「う、うあ……」
その光を見て、跳ね飛ばされなかった方の侍女がしゃがみこんだ。
「ぅ、くね、ぁ……」
見れば、後ろの侍女も姫様も眉を顰めてどことなく気分が悪そうにしている。
「大丈夫、不安にさせてごめん。
今度こそ、解き放って見せる」
安心させるために姫様の手を握ると、辛そうな顔で、それでも笑顔を見せてくれた。ただし、無言で。
おそらくだが、呪いの力が強まっているんだろう。
オレに解呪されまいと、敵も必死なんだろう。
だから、周りの皆が気分が悪くなっているようだし、触れた核も強烈な熱を発しているんだろう。
時間は掛けられない、これ以上姫様に負担をさせたくない。
「よし」
オレはもう一度、珠に指で触れた。
さっきよりもっと熱くなっており、触れた指が痺れるほど痛い。
明らかに、オレを拒んでいるのがわかる。
―――だが。
強烈な熱と力を発してくれたおかげで、朧げにだがこれが何なのか理解できた。
「今度こそ、いける」
相手を理解することが出来た。
だからオレは、スキル画面を開き、1つのスキルを習得した。
破邪結界。
スキルランクの存在しない、女神が作った転移勇者専用のスキルだ。
100ものスキルポイントをつぎ込み、たった一つのスキルを習得する。
「さあ、これで最後だ。今度こそ!」
火傷を越え痛みも通り越し、感覚のなくなった指先に力を込める。
「姫様。
これから呪いを解きます。何が起きるか分かりませんが、警戒だけはしておいて下さい」
「……」
また声が出なくなっているのか、姫様は口をぱくぱくさせた後にしっかりと頷いてくれた。
思わず、もう一度口付けたくなるが―――それは、うまくいったらにしよう。よし、そうしよう!
「我、異界より降り立つ勇者、北村 宿禰が命ずる」
オレの指から、全身から、純白の光が溢れ出す。
「世界を乱し、破壊し、滅する邪なる者よ」
それは、オレに託された、女神の力。女神の光。
「この世界を守護せし、尊き女神の名の下に」
指先から広がった光が、やがてこの部屋全体を満たし。
「全ての力も意思も、この世界から消え去るがいい!」
白光が視界を埋め尽くすほどに高まり、邪神の力を退ける聖域が生み出される!
「神聖領域」
今取得した、一つ目のスキル。破邪結界、発動。
痛みを通り越して何も感じない指先に、破邪結界の力と共に、解呪の力が集い解き放たれる。
「女神聖浄化!」
光に塗りつぶされた、部屋の中で。
確かにオレは、指先で触れた珠が砕け散るのを感じ取っていた―――