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可愛らしく微笑む姫様から断腸の思いで視線を引き剥がし、一度深呼吸する。
「それでは、解呪に取り掛かります。
まずは、横になって下さい」
「分かりました」
姫様のベッドへ、皆で移動する。
仰向けに横たわる姫様の上で、巨大な胸が聳え立つように存在をこれでもかと主張していた。
そうだ! こっ、この胸を揉まないと、解呪できないことにすれば……!
「不埒な事を考えるようであれば、分かっておるな?」
一瞬横道に逸れた思考が、耳元で囁くジャルカさんの声で本街道に戻ってきた。
危ない危ない、姫様の魅力は魔性の領域だ。
気をしっかり持たないと、いや気じゃなくておっぱいをしっかりと持って
「ええい、ばかちんが!」
「いてぇっ」
さっきよりさらに強いジャルカ体当たりをくらい、真横に吹っ飛ぶ。
姫様がくすくす笑うのが聞こえて、ちょっと恥ずかしいけど嬉しかった!
「―――さて、と。
姫様。呪いを与えると共に埋め込まれたものとか、刻印とか、そういった『核』のようなものはございますか?」
「は……はい」
オレの問いかけに、姫様はちょっとだけ言いよどみながら頷いた。
少しだけ顔を向こうに向けてて、その表情を伺うことはできない。
「すみませんが、それを見せて下さい。
取り出すかどうするかは見てみないと分かりませんが、まずは呪いの核を確認したい」
「分かりました。
お父様、ジャルカ、皆。部屋を出て下さいますか?」
「………」
「………」
王様とジャルカさんが、顔を向け合って何事か思案を……多分している。
顔なのか脳天なのか分からないけど。
やがて数秒の沈黙の後、重い息を吐きながら王様が言った。
「わかった、余らは席を外そう。
ただし侍女は残す。かまわぬな?」
「分かりました、ありがとうございます」
王様の言葉に従い、オレ達と侍女以外が部屋を出る。
人が減り、さらに静かに、広くなった部屋で。
「スクネ様。
さあ、見てください」
身体を起こした姫様は。
滑らかな肌からすべり落とすように、するりと寝着を脱いだ。
これまで服に隠されていた、姫様の肩やらお腹。
痛いほどうるさい心臓やら何やらを押さえ込み、のどを鳴らしてツバを飲み込む。
「スクネ様……」
「は……はい」
深夜。
姫様のベッドの上で。
下半身には毛布を掛け、上半身は寝着を脱いだ姫様が。
ゆっくりと、巨大な胸元を覆う布をずらして、深い谷間をオレに向けた。
あああやばいやばい、理性がやばい信頼がやばい!
姫様の眼差しが匂いがおっぱいがあああああ
「―――」
消し飛びそうな理性さんにしがみついて絶叫しているオレの視界に。
ソレが、抉るように、視界を通って心の中まで突き刺さった。
「それ、は……」
「はい。
これが、スクネ様のおっしゃる呪いの『核』だと思われます」
深い深い峡谷を両手でなんとか割り開いた胸の中心、心臓の拍動のように緩やかに明滅するそれは。
黒とも緑ともつかぬ、深い深い色をした目玉程度の大きさの珠。
何の力も、この世界の常識さえも持たないオレでも理解できるほど。
禍々しい、邪悪な呪いの力だった。
魅入られたわけではない、はずだけど。
気づけばオレは、姫様の巨大な胸を両手で押し開き、その核をじっと凝視していた。
「これが、呪い―――」
「はい。
魔王が私に掛けた、声を出せなくなる呪いです」
聞けば、現れた魔王が呪いを掛けた時に、この珠を姫様の胸の中心に埋め込んだ。
無理に外そうとすれば激痛が走るが、声を出せない以外に表面上で目立った実害はない。
それから約10年、大きく育った胸で呪いの珠を隠し、生きてきたそうだ。
時折、不気味に脈動して存在を主張する、この呪いの核と共に。
「スクネ様」
「……はい」
「呪いは、解けそうでしょうか?」
息がかかるほどの至近距離で。
胸を押さえて珠を覗き込むオレを、初めて不安そうな表情を浮かべて、見つめてくれる姫様。
「―――オレは、あなたの呪いを解くために、ここへ来ました。
だから大丈夫ですよ。オレがあなたを、必ず助けます」
力なく伸ばされた手を握り締めて、姫様の瞳を見つめ返す。
その不安を少しでも拭い去りたくて、笑顔で姫様を見つめる。
その濡れた瞳には、不安と、期待と、喜びと。
オレの姿と、きっとオレへの、うぬぼれではなくて、感情が揺れていて。
それは、呪いを解くための行動では、なかったけれど。
呪いを解くことを願う、お互いの心に必要な力だったのかもしれない。
まだお互いに、名前以外ろくに知らぬまま。
異世界の、異種族の姫君と。
三日限りの旅路の途中、ただの偶然でここに降り立ったオレとの。
確かに、ここに道が交わった。
そんな『証』となる、初めての口付けだった―――