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まず最初に、姫様にオレと会って最初の声が出た後のことを教えてもらった。
姫様の話によると、ちゃんと声が出たのはあの悲鳴だけで、その後はまたうまく声が出なかったらしい。
起こされて飛んできた王様の前でも声が出ず、みなが落胆したとかなんとか。
それですぐに捕らえたオレを呼び出す事になったが、行ってみれば牢屋はもぬけの空。
ある程度の捜索だけと巡回の増員をして、いったん朝までは保留ということになった。
その直後に、オレが姿を現したって流れだ。
なんで夜通し捜索したりせず、朝まで保留になったのかを聞いたら、ジャルカさんから『出かける、朝には戻る』と聞いていたらしい。
それでオレとの関連が予想され、ジャルカさん待ちということで保留になったんだとか。
信頼されてるんだなぁ。毛玉なのに。
あと、それってようするに脱獄じゃなくて普通にお出かけだったってことだよな?
姫様の話し中ずっと、声が出たことに嬉し泣きしていた毛玉|(涙は出てなかった)を見下ろしつつ、ため息と共にこっそり感謝もしておいた。
そんなこんながありまして。
裸族とかガン見とか誤解とか快感とか色々ありまして。いや快感はなかったけど。ありまして。
今ここには、オレと姫様以外にも何人かの人が居る。
ジャルカさんと王様、それに兵士と侍女が2名ずつだ。
兵士と侍女は後方に居並び、他4名が丸いテーブルについている。
もちろん3名は椅子に座り、毛玉だけ卓上にハンカチを敷いてその上に転がしてあった。
ばりばり武闘派で筋肉質な巨体だが、意外と目はつぶらで可愛らしい感じの王様である。
額に生えた二本の角も小さめで帽子とかかぶってしまえば分からなくなりそうだ。
姫様の額のサークレットから生えてると思っていた角も、実は自前だったらしい。なるほど、輝くほど綺麗なわけだ!
と言うかさぁ。
巨体で筋肉質だし、角2本生えてるし。
ジャラーン様のお姿と大差ないじゃん!
ちょっと目がもう1つ増えてて、尻尾に蛇が生えてるだけじゃん! 同じ魔族じゃん!
と言ったら、宙を自在に飛ぶジャルカさんに後頭部をどつかれた。痛かったです。
「さて、スクネとやら。
君がリメルの声を治すと言うのは本当かね?」
リメルというのが、姫様のお名前でした。
本名、リメルシア=ファン=オードラング=リースニル。お名前からも高貴さが滲み出しててすごい!
「はい、そのためにジャルカさんに案内されてここに来ました」
「なるほど。
確かに、君の前ではリメルの声が出ているのだ。疑う余地はないのだろうが……」
そうなのだ。
姫様は、オレの前でだけ普通に声が出ているという。
むしろオレにとっては声の出ない状態を知らないので、詳しい話を聞いていたところなのである。
「うさんくさい奴じゃし、阿呆で人間なのじゃが。
姫様の声を治すという一点においては、信用して良いとわしは思っておる」
「誰が阿呆だ、誰が」
「スクネのことに決まっておろう、阿呆め」
ジャルカさんと、お互いにぐりぐりしあう。
そんな様子を、姫様が微笑みとともに見つめてくれた。
嗚呼、その視線だけで心が張り裂けそうです、今すぐ何でもしてあげます!
「ジャルカが信用しているなら、余も信用しよう。
スクネ君、よろしく頼む」
「分かりました。
必ずとは言えませんが、全力を尽くします」
机の向こう側から頭を下げる王様に、オレも頭を下げる。
これまで会った王様達は、大体が玉座に座ってるか高い位置に立ってたからな。同じ高さで同じ卓につくとか、新鮮だよ。
ん、これまでの王様達?
もちろん、ガイレインマギア内の話だよ。当たり前じゃん。
「スクネよ。わしからも、改めてよろしく頼むぞ」
「うん、ジャルカさんもここまでありがとう。頑張るよ」
王様、ジャルカさんと続き。最後に、姫様を見つめる。
「スクネ様。
あなたのお手で、リメルを、魔王から解き放って下さいまし」
う、うおおお!
姫様が両手で包み込むようにオレの手を握ってくれて、そりゃぁもう色んな意味で天に昇る!
「任せて下さい!」
がしっと握り返し、澄んだ瞳をじっと見つめる。
ああ、このまま吸い込まれたい、溶け合い―――
「しっかりせんか」
「はっ」
ジャルカさんの体当たりを横っ面にくらい(かなり痛い)正気を取り戻したのでした。