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魔族に変身したオレを見たジャルカ先生の反応は……毛玉だから分かりませんでした。
毛玉にも表情とかあるんだろうか?
先生に聞いたら、あるって言うんだろうなぁ。
変身を覚えた後は、さくさくと17レベルまで上げてもらってから荷物を抱えて城に戻ってきた。
その結果、今のステータスはこんな感じである。
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■ 詳細ステータス
● 基本情報
名前 : 北村 宿禰 【漢字書けない】
職業 : 性犯罪者 【ルが上がった】
レベル: 17 【ゴミカス程度】
性別 : 男 【童貞】
年齢 : 20歳 【彼女イナイ歴】
● 能力値 【平均より低い】
筋力: 88 (68)
体力: 163(102)
敏捷: 85
器用: 119
知力: 136
精神: 153
魅力: 165 【女神の贈り物】
幸運: 18 【多分すぐ死ぬ】
● スキル 【効率厨乙】
SPボーナス(10)
経験値ボーナス(10)
解呪(10)
変身(4)
頑強(3)
残りポイント 105
● 称号
裸族 異世界人 勇者の無精卵 寄生厨
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「職業と、職業のコメント直せよ!」
レベルアップした筋力フルパワーで地面にたたきつけたが、相変わらずステータス画面はぽよんと弾むだけだった。
突っ込みどころ多いな、しかし!
どんだけ喧嘩売ってんのか知らない上に、コメント欄が手抜きすぎだろおい。
ちゃんと直せよ、ついでに職業も直せよ。性犯罪者じゃないから! ……たぶん違うはず。
「スクネは時々、訳の分からん叫び声をあげるのぅ。
見つかって困るのは、お前じゃと思うんじゃがの?」
「すみません、ちょっと頭に来る事が。
でも見つかったら困るの、ジャルカさんもじゃない?」
「わしか?
わしはぷりちーじゃから大丈夫じゃろ」
犯罪者がぷりちーで済むなら、そもそも牢屋に入れられてないと思うんだが。
肩に乗ったジャルカさんにちょっと呆れつつ、案内に従い廊下を進む。
どことなくざわついた城内を進むが、運よく誰かに見つかることもなく目的地が見えた。
「本当に行くんじゃな?」
「一番早い方法を取りたいんですよ。時間がないもんでね」
「そういえば、森でも言っておったのぅ。三日だけとかどうとか。
何をそんなに急いでいるんじゃ?」
「後で、時間が出来たら話しますよ」
オレの転生ストーリーは、出会う人と悠長に話し込んだりする余裕がないんだ。
ジャルカさんが仲間になってずっと一緒に居てくれるなら話す事もあるだろうが、今は後回し。
まずやる事は、ジャルカさんと約束したとおり、姫様の声を直すことである。
転移直後は詰みゲーだと思ったが、蓋を開けてみればジャルカ先生のおかげでスムーズにレベル上げと衣服の調達ができた。
この城での犯罪者の汚名を返上し、ここの人たちを味方に付けることが出来ればその後の展開もかなり順調になるはずだ。
ここが最初の正念場である。
―――よし、頑張るぞ。
視線の先にある、衛兵に護られた扉。その向こうにいるはずの、偉い人。
話す内容は決めた。
よし、頑張るぞ!
行くぞ!
行っちゃうぞ!
「……」
「……行かんのか?」
「ちょ、ちょっと緊張して」
すーはーすーはー、いかん、緊張してきた。
うまくやれるか分からない。
いや、こんなときこそスキルだ!
今欲しいのは、度胸、とかかな?
残りポイントのうち、100は解呪に成功するまでは保険に取っておきたい。
だから使えるのは5ポイントだけ。
たった5だし、遠慮なく使い果たしてしまおう!
そう考えて、交渉2、度胸1、魅力補正1を取得する。
これで大丈夫なはずだ、よし頑張ろう!
「そろそろ見回りの兵士が来ると思うんじゃがの。
行くなら早くせい、行かないなら引き上げた方が良いじゃろうて」
「い、行きます!」
小声でジャルカさんに返事をして、最後にもう一度深呼吸。
よし、今度こそ行くぜ!
「ふ、ふはははは!
私は魔族の解呪学者、スクネである!
リーンスニルの姫君の呪い、我が力で解いてみせようぞ。さあ、姫君の元へ案内いたせい!」
言った!
言っちゃいました!
「なっ、何奴!
まさか、牢屋から逃げ出した変態か!?」
「変態ちげーし!」
変態で知れ渡ってるとか、勘弁してくれ!
「っと、失礼。
逃げ出したとは失礼な奴め、姫君の呪いを解くためにやってきたのだ!」
兵士に見えるよう、廊下に姿を現し。大声で叫んだ。
その瞬間―――
「ぎゃ、ぎゃああ、悪魔だ、悪魔がいる!
出会え、敵襲だー!」
兵士がいきなり叫び出して、オレに向かって剣を抜いた!?
「えっ、ちょっと!
魔族だよ、魔族。悪魔じゃないよ、仲間だよ!」
「な、何を言っているんだこの悪魔め!
何を企んでいるのか知らんが、姫様には指一本触れさせんぞ!」
辺りがにわかに騒がしくなり、あちこちから足音が近づいてくる。
あれ、なんでこうなってんの!?
すぐに周りを、武装した兵士の皆さんに囲まれてしまう。
廊下の明かりをぎらりと反射する剣が、かっこよくないです! 怖いです!
「ま、待って待って!
悪乗りして悪かった、話し合おう! ぼくは交渉が得意なんだよ!」
「交渉が得意な悪魔などと、誰が話し合いをするものか!」
「あ、そりゃそうか」
この兵士さん、うまいこと言うな。言われてみれば、すごく納得だ。
「―――いや、そうじゃなくて! 姫様の声が治るんですよ、呪いが解けるんですよ!?」
「うさんくさい事を言う奴め、怪しげな奴の力など必要ない!
貴様はここで打ち倒してくれる!」
う、うわーやばいよやばいよ!
「どうしようジャルカ先生!」
困った時の先生頼み!
オレは肩のジャルカ先生に熱い眼差しを向けた。
しばしの沈黙の後。
ジャルカ先生は、深いため息と共に言った。
「……阿呆じゃな」
「阿呆って言うな!」
思わず毛玉を肩から引っぺがす。
「ていうか、この姿を見られただけでこんなことになるなんて!」
「当たり前じゃろうて。
お前さん、今自分がどういう姿をしているか、分かっておるのか?」
「分かってますよ!」
当然だ、オレがイメージして変身したんだからな。
変身スキルはイメージが大事だって書いてあった。
オレは細部まで緻密で具体的なイメージをするために、幾度となく戦ったネットゲーの魔族ボスキャラをイメージしてその通りに変身しているんだ。
頭の両脇から生える、大きくねじくれた角。
真っ赤なお肌に目が3つ、口は大きく裂けて牙が覗いている。
ちなみに頭髪は怒髪天をつく感じで、垂直に逆立っています。昔はこの頭でフライング頭突きとかしてきたんだ。ぐさって効果音がするネタ攻撃。
真っ赤な拳で握るのは、モーニングスターと三つ又の槍。
手足の先を真っ黒い鎧で包み、上半身は鍛え上げられた赤銅のごとき腹筋を見せ付けている。
腰には獣の皮で作った腰巻をつけ、そこからにょろりと伸びる尾は蛇の頭。時々襲ってきて、凶悪な毒を流し込んできたりするマジ憎い奴である。
腰を落とし、少しガニ股気味な立ち方をするのが演じるポイントだ!
「―――うん、どこからどう見ても完璧な正統派魔族だな」
「どこがじゃ!
常識知らずじゃとは思っておったが、まさか自分の格好を魔族だと思うておったのか!
わしはてっきり、城の兵士を脅すために悪魔の格好をしたんじゃとばかり思うておったわ!」
「嘘だっ、これが由緒正しい魔族の姿なのに!」
ガイレインマギアの世界で、一番有名な魔族のジャラーン様のお姿なんだぞ!
「わしの知る限り、そんな見た目をした魔族なぞおらんわ!」
やべぇ、知恵袋ことジャルカ先生に勘違いされてた!
嘘だ、魔族に見えるように変身するって言ったじゃん!
……言ったよね?
「そんな危険な悪魔が、姫様のところへ案内しろなどと。
人間が城に現れる以上に、即刻打ち首処刑で決まりじゃ!」
「決めないでよ、人間のままより余計に悪化してるじゃんか!」
「ええいうるさい、わしが処刑してくれるわ!」
味方のはずのジャルカ先生までご乱心なされた!?
やべぇ、これもう挽回しようがない!
よく分かるガイレインマギア大辞典
○ 炎獄の妖王ジャラーン
ガイレインマギアの世界で幾度となくプレイヤーの前に立ちはだかる、成長するNPCとも呼ぶべきボス。
真っ赤な身体に両手の武器、上半身裸で割れた腹筋を見せ付けてくる火属性の武闘派ボス。
と言うのは最初の一戦だけで、ゲームが進む程に己自身を鍛えなおし、魔術の才能を開花させていく。
2016年1月時点、最も強くなったジャラーンはすでに魔法系ボスとして扱われており、直撃すれば必殺魔法一発でパーティが全滅するという恐るべき相手である。
公式の設定によると、尻尾の蛇は幼い頃に人間に殺されたペットのくーちゃん|(魔龍)らしい。
今日も体内で生成した毒で、大好きなご主人様を襲う人間たちを噛み噛みしちゃうぞ!
そのくーちゃんの毒が、自分の胴体から一身同体となっているご主人様に逆流しているせいでご主人様は便秘に苦しんでいるのだが、その事はまだゲーム内では語られていない。