表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三日で終わらす異世界転移  作者: 岸野 遙
一日目 ~旅立ち編~
10/60

1/10 00:42

 ジャルカさんの案内で立ち寄った部屋で、まずはお召し物。

 材質とかはよく分からないけど、肌触りのいい長袖のシャツと濃紺のジャケットを羽織り、腰にはナイフのついたベルトを通す。


「ふむ、平凡なわりに似合っておるんじゃないか?」

「すいませんね、平凡で」

「平凡は嫌というわけか……

 なら仕方ない、ズボンじゃなくスカートを履くが良いぞ。さすれば平凡から変態にレベルアップじゃ!」

「アップしてねーよ! 底辺に逆戻りなだけだよ!」

「裸族とは別の方向性で、変態レベルがアップしてると言えなくもないぞ」

「言いたくもねえ!」


 そんな感じで、差し出されたスカートで毛玉を包み込み、オレは着替えを終えた。

 洋服はさほど問題なかったが、靴だけ少し窮屈だった。とりあえず今は我慢するしかないね。

 これでようやく、変態から人間にレベルアップです!



 服装の次は、空腹を気にしないようにして城外へ忍び出る。

 隠し通路らしき場所に案内され、完全に真っ暗な廊下を渡された松明で進む。


 周囲3マスくらいまでしか光が届かないって、本当なんだなぁ。

 リアルRPGに感動を覚えつつ、隠し通路の終端へ。


「ざっざっざ」

「なんじゃ、それは?」

「オレのいた国の、階段を上り下りする効果音です」


 燃える松明を持ったままで非常に苦戦したが、なんとか梯子を登って外に出た。


「スクネは、わりといつでも訳のわからん奴じゃのぅ」

「ジャルカさんの髪と眉毛の差ほどじゃないですよ」

「ははは、こやつ言いよるわ」


 なんて軽口を叩きあいつつ。

 毛先が汚れちゃうと不満を口にするジャルカさんを肩に乗せ、大きく体を伸ばす。


 抜け出た場所は、なんの変哲もない森だった。

 葉の隙間からかすかに星空が望める、真夜中の森。

 大木の中を通って森に抜け出したオレは、ジャルカさんの指示通りに出口が見つかりにくいようカモフラージュした。


「さて、まずはへっぽこスクネのレベル上げじゃな」

「へっぽこは否定できないので、よろしくお願いします」

「うむうむ、素直なのは良いことじゃ」

「強くなって見返してやりますからね」


 肩でぐるりと輪を描くように一度転がってから、ぽーんと地面に飛び降り?て弾むジャルカさん。

 オレも気を引き締めて、弾みながら先導するジャルカさんの後をゆっくりと歩いた。


 松明は危険なので消したから、明かりは星月の光だけである。

 しんと静まり返る、静謐な森。

 強烈な緑の匂いと、音のしない空間。


「……ジャルカ、先生」

「なんじゃな?」

「よく考えたら、ここって魔物のいる森なんですよね?」

「そうじゃ。レベル上げじゃからな」

「ええ……

 つまり、魔物が出てくるわけですよね?」

「当たり前じゃな」


 魔物を倒してレベルを上げるために、森にきた。

 だから、森では魔物が出る。うん、当たり前じゃな。


「ちなみに、もしぼくが魔物の攻撃くらったりしたら」

「くらうな」

「いえ、あの……」

「絶対くらうな。死んでもくらうな。

……まあ、くらう事と死ぬ事を比べたら、どっちも同じじゃけどなー」

「ワンミス即死!?」

「スリリングじゃろー?」

「スリル過ぎます!」


 うわ、やっべぇ!

 RPGの序盤のつもりでいたけど、普通にアクションゲームだった!

 キノコで巨大化しないとワンミス即死するやつだった!


 そう思うと、目の前で弾んでるジャルカ先生も羽の生えた亀の動きに思えてくるから不思議だ。

 踏んづけて蹴っ飛ばしたらワンアップできるんだろうか?

 すごく現実逃避です。


「お、居たようじゃぞ」

「ひぃ……」


 恐怖で漏れ出す声をなんとか飲み込んで、じっと固まって耳を澄ます。

 別に、変な声は聞こえない。

 足音も特に聞こえない。

 静かな森の中、ジャルカ先生の弾む音だけがリズムよく響き―――


 突然ジャルカ先生の姿が消え、めきゃぐちゃっ、といった鈍い破砕音と水の飛び散るような音が混じって聞こえ。

 脳裏に、ステータス画面を開いたときとは別種の、景気の良いファンファーレが鳴り響いた!


 急いでステータス画面を見てみる。



--------------------

■ ステータス

名前 : 北村 宿禰 【スクネはレベ】

職業 : 性犯罪者  【ルが上がった】

レベル: 2 ▼

称号 : 裸族

--------------------



「完全にメッセージ画面じゃねーか!」


 力いっぱいステータス地面を地面に叩きつけると、ぽよんと気の抜けた音を立ててバウンドしやがった。

 このメッセージ欄、どうやら6文字制限らしい。すごくどうでもいいです。


「何かあったのか?」

「あ、すみません。無事にレベルが上がりました、ありがとうございます」


 ジャルカさんの言葉に、続く不満や突込みを声に出すのを一生懸命我慢しました。

 職業と称号を憎々しげに睨みつつ、詳細ステータス……も、きっとむかつくので見ないでおこう。

 スキル欄を表示して見ると、スキルポイントが予想通り20点増えていた。

 迷わず『SPボーナス』をランク2にする。これで次回は30点だ。


 レベル欄に増えた表示 ▼ を押してみると、獲得経験値が多すぎて、一度に複数レベル上がっているようだった。

 なるほど、SPボーナスを取得せずにレベルが上がらないように、一時的にプールしてくれてるのか。親切だな。


 たぶんジャージの女神に感謝しつつ、プール経験値でレベルアップとSPボーナスのランク上げを済ませる。

 その結果、一度に4レベル&SPボーナス ランク4まで上げることが出来た。


「一気に4レベルですよ、ありがとうございますね」

「順調じゃの、良きかな良きかな」


 目の前でまた、ぽーんぽーんと弾んでいるジャルカさん。

……そういえば、魔物を倒したんだよな?


「ところで、魔物ってどこにいるんでしょう?」

「木の幹に張り付いて夜間は眠る、昆虫型の魔物じゃよ。

 夜は全く動かぬから、見つけられれば子供でも狩れるおいしい経験値じゃな」

「おおお、そんなのが居るとは。

 さすが先生、安全です!」

「はっはっは、そうじゃろうそうじゃろう。スクネくん、もっと褒めるがよいぞ」

「ははー、先生最高! 先生についていけば世界平和間違いなしです!」

「世界平和とは大きく出たの。

 じゃがまぁ、リーンスニルがわしの世界である以上、悪くはないな」


 眼前で機嫌よく弾むジャルカ先生。

 ちなみに魔物の居た場所を教えてもらうと、確かにそこに砕けて潰れた虫の残骸があった。

 南無。


「魔石も回収してあるし、この調子でぽんぽんといくかの」

「先生、よろしくお願いします!」



 言葉通りに、ジャルカ先生はぽんぽんと弾みながらぽんぽんと昆虫魔物を潰していく。

 すぐに10レベルとなりSPボーナスがランク10でマックスになった。

 SPボーナスに振り終わったので、11レベルではジャルカ先生お待ちかねの『解呪』を上げる。


 解呪のランクアップに必要なスキルポイント倍率は1。つまり、ランク1で1ポイント、最高のランク10でも10ポイントだ。

 だからスキルランクをマックスにするのに必要なポイントはたったの55。

 倍率10だったSPボーナスをマックスにするのに550ポイントも必要だったので、どんだけ差が大きいかお分かりいただけるだろう。

 解呪は一瞬でマックスになったので、余ったポイントで経験値ボーナス|(倍率10)をランク2まで上げた。


 どうしてこんなに解呪の倍率が低いのかというと、解呪スキルは呪いを解くことしかできないからだ、と思われる。

 解呪とは、文字通り呪いを解くスキル。それ以上でもそれ以下でもなく、10あればほぼ全ての呪いが解ける反面、擦り傷ひとつ治すことはできない。

 白魔術のスキルであれば、よくある回復魔法や解毒、病の治療なんかもできるようになる。レベルを上げれば呪いだって解ける。

 でも色々できる分だけ必要なポイント倍率も高いし、呪いを解く力に限って言えば白魔術10よりも解呪10の方が強いようだ。

 なので、姫様の呪いを解くために、解呪10を取った。


 さらにもう少し敵を倒してもらい、もう2つのスキルを取得した。

 一つは『変身』で、ランクは今4。見た目のみを任意で変化させるスキルだ。

 このスキルで魔族の姿になれば、オレが人間だとばれることはなくなるだろう。

 一応変身ランクより高いランクの感知系スキルを持つ相手は欺けないかもしれないが、誰でも持ってるわけじゃないし考えすぎたらキリがないよな。

 突然、あまりにも完璧な変身をするのも怪しいし。匂いか何かで分かるらしきジャルカ先生には人間だとばれてるんだから、こんなもんでいい。


 ちなみに、同系列のスキルには能力も含めて眼前の相手に変身する『鏡変身』というスキルもあった。こちらは倍率10。

 誰かの真似をしたいわけじゃなく、人間とばれたくないだけなのでこのスキルは不要。持続時間とかの制限も多かったしね。


 もう一つの取得スキルは『頑強』で、生命力とかしぶとさ関連の色々複合したスキルである。ランクは今のところ3。


「おい、スクネ」

「あ、はい」

「予定の12レベルになったが、これで戻って良いのかの?」

「うーん、思ったよりも短時間で上がりましたね。これもジャルカさんのおかげですよ」

「ふふん、わしはすごいからなー。

 姫様の声のためじゃし、このくらいは軽いもんじゃよ」


 本当に軽々といった感じで、軽快に弾んでるジャルカ先生。

……考えてみれば、この毛玉って何者なんだろうな?


「そうだ。城へ戻る前に、見た目を変える方法を思い出しましたので。ちょっと向こう向いててもらえますか?」

「ふむ? こうかの」


 弾むのを止めて、毛玉がころりんと転がった気がした。

 今さらながら、前なんだか後ろなんだか上なんだか斜めなんだかわかりゃしない。


「……見ないでくださいね」


 目隠ししようにも目があるのかどうかもわからん。諦めよう、毛玉だし。


 正体不明の毛玉のことは考えないようにしつつ、変身スキルを発動した。

 これでオレも、即殺される人間ではなく、安全の保証された魔族のお仲間だ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ