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クロスストーリー  作者: 月龍月
6/8

5章

5月2日


 お昼も近くなった頃の第2営業部。

 大亮はチラッと喜洋を見た。

 喜洋はボーっとした様子でパソコンをカチャカチャと打っていた。

「あの~藍先輩。喜洋先輩の様子がおかしいのですが…」

 藍は喜洋を横目で見た。

「いつも通りでしょ」

「えっ?いつも通り?」

 大亮は喜洋をもう1度見た。

「昨日までのテンションと大違いなんですけど」

 確かにいつも通りのテンションじゃない喜洋。いつもなら無駄にハイテンションで騒いでいるはずなのに。

「テンションが高かっても低かってもおかしいのならいつも通りよ。喜洋はいつもおかしいんだから」

「はぁ」

 戸惑う大亮。

 それも仕方ないことだろう。しかし、おかしいのがいつも通りとは、酷い言われようだな。

「酷くないわよ。一般常識よ」

「しかし、このままでは面倒だからな」

 喜洋の背後に立った弘忠は、

「シャキッとせい!」

 一喝とともに頭を殴り付けた。

 すると、喜洋は声をあげずに机に突っ伏し、動かなくなった。

 さすがにこれはと思ったのか、全員が喜洋を覗きこんだ。

 そのまま10秒ほどの静寂の後、喜洋は倒れ伏したまま顔を横に向け、目だけを動かしてみんなを見上げた。

「あれ?みんなどうしイテテテテッ!」

 突然あげた喜洋の悲鳴に全員がビクッとした。

「いきなり悲鳴をあげてどうしたのですか?」

 逢が代表するように問いかけた。

「き、筋…肉…痛…」

 その答えに一瞬固まる面々。

「でも、さっきまでそんな素振りなかったですよね」

 信晴の素朴な疑問。

 信晴の言う通り、ボーっとしていたもののさっきまでは何事もなく作業をしていた喜洋。

「それは、多分他のことを考えていたからでしょう」

「他のことですか」

「そう。その考えで頭が一杯になってたから痛みを忘れてたうえにボーっとしてたんでしょう。まぁ、一種の精神的な麻酔といったところかしら」

 なるほどなるほど。

 藍の答えに俺を含めた全員が納得して頷いた。

 しかし、そうなってくると気になるのが、

「どんなことを考えていたのかってことよね」

 藍が悪い笑みを浮かべて俺を見てきた。

「作者。今朝の喜洋の行動の回想いれて」

 アイアイサー!


        ▼  ▼  ▼


 朝。いつもなら夕凪達と一緒に家を出るはずの喜洋だが、今日はテーブルに突っ伏していた。

「あなた。もう夕凪達は出たわよ」

「わかってる。しかし、筋肉痛が」

「何か筋肉痛になることでもしたの?」

 自分が原因のくせしてしれっと彩菜が問いかけると、喜洋は悩みだした。

「これといってないはずなんだが、1つ気になることといえば、昨日の夕方の記憶が少しの間ないんだよな」

 なるほど。記憶喪失にして無かったことにすることで完全犯罪成立ってわけか。

「犯罪って、人聞きの悪いこと言わないでくれるかしら」

「作者。何か知ってるのか?」

 あぁ。お前のき

"AN"

 1撃で作者をKOした彩菜は喜洋を見ました。

「あなた。作者の戯れ言なんて聞いてないで」

 何が戯れ言だー!

"あら。今回は早いお目覚めで"

「ホント。意外ね~。別にどうでもいいけど」

 どうでもよくねーよ!俺は作者なんだぞ!暴力ふるうな!少しは敬え!

「駄作者を敬う気はないわ」

"敬われることを何一つしていませんし"

 ガーン。

「そんなことよりあなた、早く行かないといけないんじゃないのかしら」

「そうだな。頑張って行くか」

 言葉通り頑張って起き上がった喜洋。しかし、腰は曲がった状態のうえに足はプルプル震え、ヨボヨボのお爺さんみたいだった。

「あなた。大丈夫?」

「多分…いける?」

 ヨボヨボのお爺さんのくせに?

 キッ!とこちらを睨んできた喜洋だが、

「アァァァァァァァァァ!」

 筋肉痛の痛みで叫びながら両手を膝に乗せさらにプルプル震え出す。

「仕方ないわね~」

 クスクス笑いながら喜洋に近づいた彩菜は、下から喜洋を見上げた。

 なんとか出来るのか?

「えぇ」

 すると、彩菜は一瞬で顔を近づけると軽くキスをした。

 突然のことに目を見開く喜洋。

 その表情を見てさらに笑みを深めた彩菜は再度キスをした。しかも、今度は先ほどとは違って大人のキス。

 すると、あんなに曲がっていた喜洋の背中がピーンと真っ直ぐに伸びていった。

 伸びきってからも10秒ほどキスを続けていた彩菜はようやく離れた。

「ほら、元通り」

 確かに元通りになったけど、なんかボーっとしてない?

「これでいいのよ。ほら、あなた。いってらっしゃい」

 無言で頷いた喜洋は家を出て会社に向かった。


        ▼  ▼  ▼


「ウガァァァァ」

 喜洋。その叫びは恥ずかしさからくるものなのか筋肉痛の痛みからくるものなのかどっちなんだ?

「どっちも」

 喜洋は全員の視線から逃げるように目を閉じて下を向いた。

「やっぱりね」

 予想ついてたんだね、藍。

「喜洋にこんなこと出来る相手って考えたら彩菜ぐらいしか思いつかないわよ」

 だったらなんで回想にいったんだい?

「あぁ。それは喜洋をおちょくるって意味と今後のためにね」

 藍はニヤリと笑いながら俺を見た。

「しかし、方法によっては今この場でって思ったが、さすがに無理だな」

 弘忠は頭を掻いた。

「信晴。やってみない?」

「藍先輩。やってみない?って何をですか?」

「何って、喜洋との…プッ!」

 言い終わらずに笑い出す藍の姿にいやな予感しかしない信晴は、もう1度聞き返すことをやめた。

「とりあえず、大亮。そこの棚の救急箱の中にシップあるから喜洋先輩に貼ってあげてくれ」

「わかりました」

 大亮は棚の救急箱を取り出した。

「あら。私は放置するのね」

「ろくなこと言わないと思ったので」

 信晴が素直にそう言うと、藍はため息を吐いた。

「喜洋とキスしてみればって言おうとしただけなのに」

「やっぱりろくなこと言わなかった!」

 叫ぶ信晴にプーと頬を膨らませる藍。その間に入った弘忠は手を叩いた。

「こうなった以上、喜洋はさっきまで以上に使い物にならん。と、いうわけで、昼からの営業は藍と大亮で行ってくれ。で、喜洋は早く筋肉痛から回復すること。いいな」

「はい!」と大亮。

「はーい」と藍。

「ハアァァァァァ!」と喜洋。

「喜洋は無理に返事しなくていい!」

 弘忠に怒られ喜洋は黙りこんだ。


        ▼  ▼  ▼


 午後2時。

 喜洋も筋肉痛からの復活の兆しを見せた頃、

 って筋肉痛から復活し始めるの早くね?

「そんなことないぞ」

 いやあるって。しかしまぁとりあえずそれは横に置いておいて、

 第2営業部に1本の電話がかかってきた。

「はい。こちら三陽株式会社、第2営業部です」

『逢先輩!大亮です!』

 電話の向こうの大亮は焦っていた。

「どうしたの?大亮君。そんなに焦って」

『藍先輩が事故にあって今病院にいるんです!』

 大亮が焦る理由が分かったが、逢は焦らずに聞いた。

「場所はどこ?」

鹿原(かばら)病院です!』

「作者!」

 なぜか俺の方を見てくる逢に。

 えっ?

「えっ?じゃなくてすぐに場面展開して病院へ送り飛ばしなさいよ」

 なるほど。だから俺を見てきたのか。

 しかし、なんで俺が?

「緊急事態なのよ」

 確かに緊急事態なのだろう。なにせ藍が事故にあったのだから。だからこそ。

 だったら俺に頼らずにすぐに向かえばいいじゃんか。

「いいから早く!」

 とうとう声を荒げる逢に弘忠が問いかけた。

「逢。何があったんだ?」

「向こうに着いたらわかりますから。作者早くして」

 逢の睨み付けに俺はため息を吐いた。

 わかったよ。もう。作者使いが荒い登場人物達だ。


        ▼  ▼  ▼


 着いた場所は、

「あら。逢ちゃんじゃない。どうしたの?」

「えっ?」

 戸惑う逢が回りを見回すと、そこは美部家のリビングだった。

「作者!って作者?」

 俺がどこにもいないので逢が探し回っていると、彩菜がお茶を逢の前に置いた。

「とりあえずお茶を飲んで落ち着くといいわ」

「すいません」

 お茶を飲んで落ち着いた逢。

 だから、俺の力に頼らず自分の力でさっさと行けばよかったのに。

「明らかに嫌がらせでしょ、作者」

 俺を指差してくる逢。彩菜もジト目で見てきた。

 そんなわけないよ~。

 変わらずジト目の2人。

「とりあえず、どうしたの?」

 状況確認を始めた彩菜。なので、逢が簡単な状況説明をすると、

 イタッ!

 彩菜が殴ってきた。

 なんで殴るかな?

「状況が状況なんだから早く送ってあげなさいよ」

 彩菜の言葉は優しいお願いのようにみえて、実際は拳を握りしめているので完璧に脅しだ。

 仕方ないな~。

 ため息を吐いて頭を掻いた俺。


        ▼  ▼  ▼


 仕方なく鹿原病院の携帯使用可能エリアに到着。

「逢先輩!」

 逢を見つけた大亮が駆け寄ってきた。

「大亮君。みんなに状況説明お願い」

「みんなと言われても、逢先輩しかいませんけど…」

 大亮の言葉に慌てて振り返った逢の前には確かに誰もいない。

「作者!」

 なんだよ。ちゃんと鹿原病院に連れてきてあげたじゃんか。

「なんで私1人なのよ!」

 さっきからずっと1人だったけど?

「なんでよ!」

 なんでって、全員とは言ってなかったから。

「この駄作者!」

"AN"

 逢はおもいっきり作者を殴り飛ばされました。

「AN。大至急みんなもここへ」

"わかりました"

「あーもう。始めからこうしていればよかった」

"完了しました"

 逢の後ろに第2営業部の面々が登場されました。

「さて、一体何がおきたんだ?」

 驚いた様子もなく弘忠は話を進め始めました。

「大亮君」

「はい」

「大亮。私から説明するからいいわよ」

 その言葉と共に現れたのは、右腕にギブスを巻いた藍でした。

「藍先輩!その腕は!」

 みんなは藍の回りに集まりました。

「少しヒビが入っただけだから」

 藍は笑顔で腕を振り回しました。

「で、どうしたんだ?」

「それがですね。大亮と営業回りに行くために狭い路地を歩いていたら、子供がバランスを崩して倒れてしまったのよ。そこへ運悪く原付が走ってきたので、子供を抱き抱えて原付を片手で止めたらこうなったのよ」

 ありえねー!

「あっ。作者起きた」

 原付を片手で受け止めることも、その怪我が骨にヒビがはいるだけで済んでることもありえねー!

「ありえてるからこれで済んでるのよ」

 藍はまた腕を振り回しました。

「それより、今夜どうしようかしら?」

「わかってると思うが、仕事優先って契約だからな」

 恐い顔で睨んでくる弘忠に苦笑を返す藍。

「わかってますよ」

「ならいいが」

 弘忠は腕を組んだ。

「でも、メインだから穴を開けるわけにはいかないのよね~」

「誰か代わりを立てることはできないのですか?」

 左手を顎に当て悩みだす藍。

「あの…今夜って何ですか?」

 1人訳のわからない大亮が問いかけるも、誰も答えてくれない。

 アハハ!無視されてるし!

「うるさい!」

"AN"

"作者の扱いは慣れてきたみたいですね"

「それより、みんなは何の話をしているの?」

"それはですね"

「あっ!そうだ!」

 何かを思いついた藍は叫び声を上げました。

「何を思いついたんだ?」

 喜洋の問いかけに藍はニヤリと微笑みました。

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