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クロスストーリー  作者: 月龍月
4/8

3章

5月1日


 さて、今日は彩菜の1日を追跡してみよう。

 ということで、朝5時。

 目覚ましの音で起きた彩菜は、目覚ましを止める前に伸びをした。

 それから隣の喜洋を見たが、起きてるわけもなくぐっすりと眠っていた。

 それを確認してから目覚ましをとめると、部屋を出てキッチンへ。

「さてと」

 お弁当と朝食の準備かい?

「そうよ」

 頷いた彩菜はキッチンに向いた。

「ってわけで………。

 これっくらいのお弁当箱に

 おにぎりおにぎりちょっと詰めて

 刻ーみ生姜に胡麻塩振って

 人参さん、ゴボウさん

 穴のあいた蓮根さん

 すじのとおったフキ

 で、完成!」

 ってちょっと待った!

「何?」

 彩菜は不思議そうに首を傾げた。

 さっきの歌ってお弁当の歌だろ。しかもちょっと省略されてるし。

「そうよ」

 そうよ。じゃなくて!こんなお弁当じゃいくらなんでも質素過ぎるだろ!

「それもそうね。じゃあ、この3つのお弁当は作者にあげる」

 彩菜が作ったお弁当3つを俺に渡してきた。

 はい?

「お昼にでも食べてね」

 はぁ。って3つも?

「捨てるなんてもったいないことしないわよね」

 えっと…。確かに勿体ないとはいえ、お昼にお弁当3つは………。

「しないわよね」

 ………しない、ですよ。

「それじゃあ」

 またキッチンに向き直す彩菜。

「新しいお弁当箱用意して、冷凍食品を詰め込んで、レトルトのご飯も詰め込んで」

 ちょっと待って!

「今度は何?」

 彩菜は怪訝そうな表情で俺を見てきた。

 冷凍食品を詰め込むところまではいいよ。今の冷凍食品はそれだけクオリティが高いからね。でも、ご飯までレトルトはないでしょ!

「そうかしら?」

 平然と首を傾げる彩菜に俺がため息を吐くはめに。

 そうだよ!せめてご飯くらいは炊いたの入れる!

「わかったわ。それじゃあこの3つのお弁当も作者にあげるわ」

 またしても3つのお弁当を渡してきた彩菜。

 ってこれでお弁当が6つになった!

「残さず食べてね」

 さっきも思ったが笑顔が怖い!

 その怖い笑顔で脅してきた彩菜は再度キッチンに向き直す。

「さて、炊きたてご飯を詰めたお弁当が完成したし、朝食作りを始めましょう」

 いやな予感しかしないので、先に釘を刺すことにした。

 もしかして、レトルト味噌汁とか言わないでよ。

「言っちゃうわよ?」

 はぁ~。

 不思議そうな表情で彩菜が見てきた。

「なんでため息を吐かれないといけないのかな?」

 ここまで手抜きだとため息吐きたくなるよ。

「そうかしら」

 そうです。

 すると、渋々といった感じで味噌汁、さらには朝食も作り始めた。

「それより、私の1日を追うって言ってたけど、私の1日なんてつまんないわよ」

 いや。今までのやり取りからそんなことないと思うけどな。

「まぁいいわ」

 彩菜は朝食作りに戻った。


        ▼  ▼  ▼


 さて、喜洋や夕凪達を見送り、洗濯などの家事を終えた彩菜はというと、家を出て散歩を始めた。

 散歩は日課なのかい?

「やっぱり運動は大事よ」

 というわけで、散歩を始めてまず出会ったのは隣のシェアハウスアパート・市川荘の大家の(みなもと) 尚美(ひさみ)だ。

「おはようございます。彩菜さん」

「おはよう、尚美ちゃん。今朝はあまりドタバタしなかったみたいね」

 そう言いながら市川荘を見上げる彩菜。

 市川荘と美部(みべ)家。この町では知らぬ者はいない2大騒音・騒動発生箇所だ。

「いやなレッテル貼ってくるわね」

 でも事実ですから。

「まぁいいわ」

 彩菜が尚美に視線を戻した。

「ドタバタする前に◯◯君が鎮圧しましたから」

「そうなの」

『………………』

 少しの沈黙。そして2人が俺を見てきた。

「ねぇ作者」

 何かな?彩菜。

「なんで彼の名前が伏せられているのかしら」

 彩菜の言う彼とは、プロローグに登場した青年のことである。

「で、彼が誰なのか読者への説明も終わったことだし、なんで彼の名前が伏せられているか答えてもらえるかしら」

 彩菜は目を細めて俺を見てきた。

 答えは簡単さ。まだ登場してないからだよ。

 俺の答えに彩菜はため息を吐き、尚美は苦笑した。

「だったら早く登場させなさいよ」

「そうですよ。可哀想ですよ」

 確かに2人の言うことはもっともなのだが、俺は苦笑を返した。

 アハハ。でも、タイミングや流れってものがあるからね~。まだ登場は先だね。

『………………』

 何?二人共黙っちゃって。

 俺が戸惑っていると、

「要領悪い馬鹿作者」

「考えなしのアホ作者」

 容赦のない罵倒がやってきた。

 作者に対してひどくないか?

「そうでもないわよ」

「これでもまだ優しいくらいですよ」

 これで優しいか?

「本気で罵倒しだしたら○○みたいな伏せ字が続くわよ」

 そんなことをされたら危ない小説扱いされそうだから、止めてください。

 2人に対して頭を下げた。

「仕方ないわね。尚美ちゃん。それじゃあね」

「はい」

 尚美に見送られ、彩菜は商店街の方へ足を向けた。


        ▼  ▼  ▼


 商店街に到着した彩菜は1度足を止める。

 どうしたの?

 少しの間があってから

「なんでもないわ」

 そう言って商店街の中を普通に歩き出す彩菜。

 そんな彩菜が精肉店の前を通りすぎようとしていると、精肉店のオヤジが両手に肉の入ったパックを持って商品棚を飛び越えて彩菜に迫ってくると、パックを彩菜の頭めがけて突き出しだ。

 それを彩菜は軽く後ろに下がって避けた。

「彩菜ちゃん!今日もいい肉入ってるよ!特に豚バラが今日はお薦めだよ!」

 お薦め品の紹介をしながら連続で攻撃を仕掛ける精肉店のオヤジだが、彩菜は全て避けていった。

 すると、逆サイドから八百屋のおっちゃんが両手に大根を持って参戦。

「うちもいい野菜入ってるよ!春野菜なんかは今回が最後の入荷かもしれないよ!」

 さすがに両サイドからの攻撃は鬱陶しかったのか、彩菜は精肉店のオヤジの攻撃を避けるとカウンターで顎先に掌底を打ち込みダウンさせた。

 しかし、参戦してくるお店は八百屋だけではなく、魚屋、惣菜店、揚げ物店、駄菓子屋、洋菓子店、和菓子店、電気屋、金物屋、花屋など次々と増え、その全員がダウンさせられる頃には彩菜は商店街の終わり付近まで到達していた。

※先ほどまでの戦闘で武器として使用された食品関係は全て食品サンプルです。絶対に食品を粗末に扱わないで下さい!

 よし。注意書き終了!というわけで、場面を戻す。

 無事に戦闘を終えた彩菜の元へ一人の男性が近づいてきた。

「相変わらず見事な戦いぶりじゃの~、彩菜ちゃん」

「おはようございます、会長」

 男性の名前は会長。この商店街の会長だ。

「相変わらず手抜きな名前つけるの~」

 会長が困ったように俺を見てきた。

 そなうち気が向いたら名前をつけますから。

 俺の言葉にため息を吐いた会長は彩菜に視線を戻す。

「今日も楽勝で完封勝ちじゃの」

「いえ。代替わりして店主が若くなった店はさすがに手強かったですよ」

 とか言いつつも、彩菜は無傷なわけで。

「そうは見えんかったがの~」

 ニヤリと笑いながら見てきた会長の視線を笑顔でかわしながら彩菜はメモを書き始めた。

「これ、いつも通りお願いします」

 書き終わったメモを会長に差し出すと、

「あぁ。ちゃんとみんなに言っとくわい」

 と言いながら会長はメモを受け取った。

 しかし、いつもこういうことしてるの?

「まさか。そんなわけないじゃない。月4回ってとこよ」

 それって週一じゃん。十分多いって。ってか、なんでこんなことするようになったなの?

 俺の問いに彩菜は笑顔を返してきた。

「色々あったのよ」

 色々あったとしても、こんな戦闘に発展するのは少しおかしいと思うけど?

「いいじゃないの」

 そう言った彩菜は商店街をあとにした。


        ▼  ▼  ▼


 お昼頃。彩菜は商店街近くのファミレスで、ママ友の集まりに参加していた。

「でさ、あの子ったら生意気に『お母さんに言われなくてもやるさ』なんて言うのよ」

「年頃の男の子はそんなものでしょ」

「うちの娘なんてまだ小学2年のくせしてもう化粧品とか欲しいなんて言ってるのよ」

「やっぱり女の子のほうが早熟ね~」

 やっぱり奥様達の会話は弾むわね~。

「気持ち悪いわよ~。作者」

 うるせー。少しやってみただけだ。

 彩菜に反論していると奥様達の視線が俺に集まったので視線を反らす。

「ところで作者」

 何?彩菜。

「なんでファミレスでお弁当食べてるの?」

 予想外の問いに一瞬唖然とした俺は叫んだ。

 彩菜のせいでしょが!ミスったお弁当全部俺に押し付けるから!

「作者がダメ出ししてこなければこんなことならなかったのにね」

 いやいやいや。俺からのダメ出しがなかったとしても、後で喜洋達からのダメ出しがきてたと思うけど。

「そんなことないわよ」

 平然とそんなことを言う彩菜。しかし、今はそんな彩菜の相手をするよりお弁当を食べないといけないので頑張るのだが、うぷっ!さすがに6個は多い。

『頑張れー』

 無責任かつやる気のない奥様達の応援を受けながらお弁当を食べ進めていると、

「たのもー!」

 男性が変な声を上げながら入ってきた。

 しかし、なんかもう正直いっぱいいっぱいだから「いつの時代の人間ですか?」なんてツッコミはしないよ。

「現代人です」

 勝手なお返事ありがとう。うぷっ。本気で苦しいからあとはAN、頼んだ。

"AN"

"かしこまりました"

 先程お店に入ってきた男性は、近くで働く会社員の江戸(えど) 時代(ときしろ)

「ちょっと待つでござる。いくらなんでも適当に名前をつけすぎでござろう。って、言葉遣いまで変わっているでござるよ!」

"まだ名前がついただけいい方だと思いますが"

「でもでござるよ!」

 こちらに迫ってこられる時代。

"しかし、私に抗議をされても困ります。名前は作者が付けているのですから"

「だったら作者を出すでござる!」

 すると、どこからともなくアナウンスが聞こえてきた。

「問い合わせになられました作者は、現在声の届かない場所にいるか、寝ているため出られません」

「なんでごさるか!このアナウンスは!」

 驚かれた時代は空中をあちこち見回されました。

"そのままの意味のアナウンスですが?"

「最悪な作者でござるな!」

 激怒しながら時代は作者への抗議を諦め、彩菜の元へ行かれました。

「彩菜どの。勝負をお願いしてもよろしいいでござるか?」

 1度時代を見てからこちらを見てこられた彩菜。

「その前にANちょっといいかしら?」

"なんでしょうか?"

「名前でふと思ったんだけど、作者の名前ってなんて読むの?」

"当然の疑問でしょうから、わたくしが作者に代わって答えさせていただきます。作者の名前は月龍月と書いて『おぼろづき』と読むらしいですよ"

 すると、時代が不思議そうな表情を浮かべられました。

「おぼろづきとは本来『朧月』と書くはずでござるよね。作者は馬鹿なのでござるか?」

「馬鹿なのはわかりきってることだけど、なんでなのかしら?」

 彩菜も不思議そうにこちらを見てこられました。

"なんでも、昔ガラケー時代にやっていたネットゲームで、朧というネームでやっていた際に、朧という漢字を面白半分で月龍と書いてきた人がいたところから持ってきたらしいです"

「ふーん。そうなんだ。ありがとう、AN」

"どういたしまして"

「じゃあ勝負しましょうか」

 2人は向かいのテーブルに移動すると、テーブルに肘を乗せて手を握りあい腕相撲の態勢をとられました。

 そして、一瞬訪れる静寂。

 次の瞬間、誰かが押した店員呼び出しボタンの音を合図に2人の腕相撲勝負が始まりました。

「ウォォォでござるよ!」

 時代は叫び声をあげながら一気に押しきろうとしました。

 しかし、彩菜はその力を見事にいなしてあっさりと押しきってしまいました。

「はい。私の勝ち」

 そう言うと彩菜はテーブルに突っ伏す時代を放置して奥様達の元へ戻り、何事もなかったかのように会話を再開されました。


        ▼  ▼  ▼


 作者ふっかーつ!

「場面転換直後に何叫んでいるのかしら」

 作者復活のお知らせ。

「いらないお知らせね」

 つまらなそうに言う彩菜が今向かっている先は商店街。

 これから晩ごはんの買い出しかい?

「そういうこと」

 なんてやり取りをしていると、目の前から不良3人組がやって来た。見るからに時代遅れのヤンキースタイルだった。

 そんな不良達が彩菜に気づくと、

『姐さん!こんちわ!』

 3人声を合わせて挨拶して頭を下げた。

 そんな光景に呆気にとられているのは俺だけで、彩菜は笑顔で挨拶を返した。

「はい。こんにちは。今日もちゃんと学校には行ってきた?」

『はい!もちろんっす!』

 見事なハモりで受け答えする不良3人組。

 ってか彩菜。この3人とは知り合いなの?

「えぇ色々あってね」

 またしても笑顔で答えをはぐらかしてくる彩菜。

 しかし、不良が素直に学校行ってるって。

「あらいいことじゃないかしら」

 確かにいいことなんだけど、それだったらもういっそ不良やめて普通の生徒に戻ればいいんじゃない?

 彩菜の返事がくるより先に不良達が俺を囲んできた。

 えっと………何?

「さっきから姐さんに気安く喋りかけやがって」

 いや。作者だから普通だろ。

「姐さん。こいつ一体何者なんですか?」

「変態よ」

 さらりと嘘をつく彩菜。

 っておい!何言ってんだよ!

『変態だと!』

 ほら!彩菜が嘘つくから不良達が殺気だってきたじゃないか!

 俺の文句など気に止めていない彩菜は笑顔で、

「最近ずっとつきまとってくる変態だから退治してくれるかしら?」

 さらに凄いことを言い出した。

『了解です!』

 いや!了か

"AN"

『無事成敗完了しました!』

 作者を袋叩きにされた不良達は彩菜に向けて敬礼をされました。

「ありがとう」

 不良達に笑顔を向けた彩菜も敬礼を返しました。

「それじゃあみんな。明日からも学校頑張ってね」

『はい!失礼します!』

 不良達を見送った彩菜は商店街に向けて歩き始めました。

 商店街に着くと、彩菜は揚げ物店へ行きました。

「彩菜ちゃんいらっしゃい。頼まれてた

コロッケ6個にメンチカツ6個出来てるよ」

「揚げたてよね?」

「もちろん!」

 その返事に笑顔を見せた彩菜は主人が差し出した袋を受け取り、代金を渡しました。

「ありがとう」

「まいどあり」

 それから八百屋と精肉店に寄って商品を購入しました。

 今夜の夕食はコロッケにメンチカツにサラダってところか?

"復活されましたか。作者"

 あぁ。で、当たりか?彩菜。

「どうかしら」

 笑顔で答えをはぐらかす彩菜。

 まぁいいや。で、このあとはどうするのかな?

「帰って晩御飯の準備をするのよ。当然でしょ」

 彩菜は両手に持った袋を見せてきた。

 それもそうか。だったら彩菜の追跡はこの辺にしとこうかな。

「つまらない1日だったでしょ」

 いやいや。十分読者は楽しめたと思うよ。しかし、戦闘に腕相撲と勝負事が多かったね~。

「そんなことないわよ。誰にでも訪れる普段の日常の1コマよ」

 いやいや。ないから!

 俺のツッコミをスルーして彩菜は帰路についた。

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