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クロスストーリー  作者: 月龍月
2/8

1章

4月29日


 季節は春も終わりに向かい始めている頃。ここはとある町の一角。

 美部(みべ)という表札が掲げられている家。ここが今回の登場人物達が住んでいる家だ。

 現在は朝の6時半。すでに誰か起きているのか換気扇からはいい味噌汁の匂いが漂ってきていた。

「そろそろ用意出来るからみんなを起こしてきてくれる?」

 朝食の準備をしていた母親の綾菜(あやな)は、リビングでテレビを見ていた娘の夕凪(ゆうな)に言った。

「はーい」

 立ち上がり、リビングを出ていこうとする夕凪が扉を開けるより早く、廊下側から扉が開いた。

 扉を開けたのは次男の徹平(てつひら)

「おはよう」

「おはよう」

 徹平と挨拶をかわした夕凪は廊下へと出ていった。

「徹平。顔洗ってきなさい」

 綾菜の言葉に徹平は欠伸をしながら頷くと、洗面所へと向かっていった。

 それから数秒もせずに夕凪の叫ぶ声が聞こえてきた。


        ▼  ▼  ▼


「お父さん!朝だよ!起きて!」

 父親の喜洋(よしひろ)の部屋に入った夕凪は叫びながらカーテンを開いた。

 しかし、喜洋は無反応。いまだに夢の中をさ迷っている。

「作者」

 夕凪がこちらを、ってこちらってどっち?そっち?こっち?

「作者。遊んでないで早く進めなさい」

 夕凪が真面目な顔でこちらを、俺を見てきた。なので、仕方なく話を進めることにしよう。

 何?夕凪。

「その言い方だとお父さんが今、悪夢見てるみたいじゃない」

 実際みてるかもよ?

「こんなニヤケ顔で?」

 確かに喜洋の顔はニヤケ顔だ。しかも、たまに「グヘヘ」なんて笑ってすらいた。

 あー。うん。その………。

 訂正。いい夢をいまだに満喫しているみたいだ。

「お父さん!起きて!」

 夕凪は強く揺すって起こそうとしてみるも、余程いい夢なのか、喜洋は一向に起きる気配がない。

 諦めて部屋を出た夕凪は階段上から台所へ向かって叫んだ。

「お母さん!お父さんお願い!」

 すると、フライパン2個を手に綾菜がやって来た。

「お父さんは私が起こしておくから2人を頼むわね」

「はーい」

 そういって2つ隣の部屋へと向かう夕凪。

 綾菜は部屋に入ると気持ち良さそうに眠る喜洋の隣に立った。

 さて、どうする?

 俺の問いに彩菜は微笑んだ。

「こうするのよ」

 綾菜は喜洋の耳元にフライパンをセット。そしてもう1個のフライパンでセットしたフライパンを躊躇いも容赦もなくおもいっきり叩いた。

 当然ながら大音量の金属音が鳴り響き、俺は耳を塞いだ。しかし綾菜はというと、耳を塞ぐことなく笑顔のまま平然とした様子で喜洋を見下ろしていた。

 すると、喜洋が起き上がった。

 さすがにこれで起きないとなると死んでいるか人間じゃないかのどちらかだろう。

「私としては死んでくれててもよかったのだけど」

 綾菜がさらりと凄いことを言ったけど、それはスルーしよう。

「あなた。起きた?」

「あぁ、起きた」

 しかし、喜洋はまだどこか眠たげだった。なので綾菜はこれまた躊躇いも容赦もなくフライパンで喜洋を殴った。

「イッテー!」

 一瞬だけ頭を押さえて叫んだ喜洋だが、次の瞬間には何事もなかったように綾菜に食って掛かった。

「夫の頭を普通フライパンで殴るか!?」

 確かに普通じゃないが、フライパンで殴られた痛みからすぐに立ち直った喜洋も十分普通じゃない。

「なっ!作者!お前どっちの味方だよ!」

 別にどっちの味方でもないけど?さらっと言ってやると、

「テメー」

 こちらを睨んでいた喜洋だが、頭を掻くとまた綾菜に視線を戻した。

「で、何で俺は殴られないといけなかったんだ?」

 当然の疑問を問いかける喜洋。

「あなたがさっさと起きないのが悪いのよ」

 それもそうだね。

「すいませんでした」

 喜洋はベッドの上で土下座した。

「それより、何かいい夢を見ていたみたいだけど、どんな夢を見ていたの?」

「お前に頭殴られたせいで忘れたよ」

 喜洋は頭を掻きながらそっぽを向いた。

「だったらもう1回殴れば思い出すかもしれないわね」

 笑顔でフライパンを振り上げる綾菜。

「すいません!元からどんな夢か覚えていませんでした!」

 またしても土下座。

 こうも簡単に土下座するなんて…………プッ!

「笑うな!」

 土下座したまま睨まれても恐くもなんともないよ~。

「そう。覚えてないんじゃ仕方ないわね」

「仕方ないよな」

 2人は見つめあい、笑顔でいたかとおもうと綾菜がこちらを向いた。

「作者。さっきまでこの人が見ていた夢の回想に入って」

 了解!

「なっ!やめっ


        ▼  ▼  ▼


 場所は豪邸のお風呂。しかし、お風呂を満たしているのはお湯ではなくお札。

 そんなお札のお風呂に浸かり、高笑いしている喜洋。

「もう一生働かなくてもいいぞー!」

 お札は天井に向けて投げ上げ、降ってきたお札を浴びながらまた高笑いする喜洋。


        ▼  ▼  ▼


ろー!」

 残念!回想はすでに終了しました。しかしこれは………。

「………」

 俺も彩菜も無表情で喜洋を見た。

「おい。無言じゃなくてせめて何か言ってくれ」

 喜洋が悲しそうな瞳で俺と彩菜を見てきた。すると、彩菜は無表情から一転して笑顔で言った。

「あなた。ご飯の準備出来てるから早く顔洗って着替えてきてね」

「見なかったことにしてスルーしないで!」

 彩菜に向けて手を伸ばした喜洋だが、彩菜は振り向くことすらせずに部屋を出ていった。

 確かにそれが1番いい対応だろう。

「えっ?作者?」

 と、いうわけでそろそろ夕凪のほうへ場面転換するか。

「お


        ▼  ▼  ▼


 はい。と、いうわけで、次に夕凪がやって来たのは長男で弟の秀和(ひでかつ)の部屋。

「秀和!起きなさい!」

 先程同様叫びながらカーテンを開けたが、やはり起きる気配がない。

「はぁ~」

 大きなため息を吐くと、夕凪は部屋を見回した。そして、目に止まった机の上の国語辞書を手に取った。

 その国語辞書の重さを確認するように何度か軽く放り上げた。

 えっと………聞きたくないけどとりあえず聞いてみよう。どうするんだ?

「えっ?」

 俺の問いに答えるより前に、夕凪は秀和のお腹めがけて国語辞書を落とした。

「ぐぇ!」

 一瞬だけ見事にくの字に起き上がった秀和。なのだが、いまだに起きない。

 ってか、こんな起こし方するんならさっきの喜洋の時もこうすればよかったんじゃないか?

「あれでも一様お父さんなんだから」

 父親のことをあれ呼ばわりや一様なんて酷い言い方してる時点で、な~。

「いいのよ、それで。で、秀和いつまで寝てるの?」

 それを夕凪が言う?言っちゃう?

「うるさいわね。それより秀和」

「ねーちゃんのせいで違う意味の眠りに入っちまったんだよ!」

 勢いよく起き上がって叫んだ秀和はおもいっきりむせた。

「ねーちゃん!少しは手加減しろ!」

 もっともな言い分である。

 寝起きに辞書。

 下手をすればヤバイことになりかねない組み合わせだ。すると、夕凪は秀和を指差した。

「起きないあんたが悪い」

 こちらの言い分もその通りなんだけど、やっぱり起こし方がね~。

 フライパンで普通に殴る綾菜に辞書を普通に落とす夕凪。遺伝は恐い!この家の女達は恐い!

 次の瞬間には俺の顔の横を高速の物体が通り過ぎ、壁に突き刺さった。

 えっと…。

 横を向くと壁に突き刺さっている国語辞書。

 視線を前に戻して投げた相手を確認。ってか、確認するまでもなく夕凪だったわけで。

 しかし、あまりの速さに避けることも出来なかったことを考えれば、顔を狙われていたら俺の顔は………。

「さ・く・しゃ」

 笑顔で俺を見てきた夕凪。

 な、何でしょうか?

「死にたくなかったら下手なことは言わないことね」

 了解しました!

 夕凪に向けて敬礼をする俺。すると夕凪は視線を秀和に向けた。

「起きたなら早く顔洗ってきなさい」

「わかったよ」

 秀和は立ち上がると部屋を出た。その後に続いて部屋を出た夕凪が向かったのは秀和の向かいの三男・泰弘(やすひろ)の部屋。

「泰弘、起きなさい」

 前2人とは違い、泰弘は寝惚けながらもすぐに起きた。

「おはよう、お姉ちゃん」

 泰弘は目を擦りながら夕凪に挨拶をした。

「おはよう。顔洗ったら朝食よ」

「うん」

 まだ少し寝惚けている泰弘。仕方ないとばかりに夕凪は泰弘を洗面所まで連れていった。

 洗面所ではまだ秀和が顔を洗っていた。なので、

「秀和。泰弘頼むね」

 そう言い残すと、寝惚けた泰弘を残してリビングに戻っていった。

 顔を洗い終えた秀和が振り返ると、泰弘はまだ寝惚け眼で突っ立っている。

 その姿を見て少し考えた秀和は、洗面器に水を張ると泰弘を抱え上げ、そして水の中に泰弘の顔を突っ込んだ。

 そのまま5秒。

「ぶはっ!」

 勢いよく顔を上げる泰弘。

「ようやく起きたか」

 秀和は泰弘を下ろしてやった。すると、泰弘は大きく何度も息を吸い込んでから秀和を見上げると脛に一撃、蹴りをいれた。

「イテッ!何しやがる!泰弘!」

 脛を押さえ蹲った秀和は泰弘を見上げた。

「兄貴こそ俺を殺す気か!」

「それよりか早く顔洗え。ねーちゃんが怒鳴りこんでくるぞ」

 理不尽な物言いにブツブツ文句を言いながらも顔を洗い始める泰弘。

 しかし、さっきの秀和の行動でわかったのだが、どうやら家族全員がヤバい性格みたいだ。

「しかし、1発で起きただろ?」

「死にそうになったら誰でも起きるに決まってるだろ!」

 そりゃそうだ。

 泰弘は顔を拭いたタオルで秀和を叩き始めた。

「止めろ止めろ。悪かったから止めろ」

 笑いながら泰弘のタオル攻撃を防ぐ秀和。

「弟を殺そうとする兄貴にはこれぐらいしないと効果ないだろ!」

 さらに数発殴っていると、

「あんた達」

 声が聞こえた洗面所の入り口のほうへ目を向けると、そこには鬼が立っていた。誰もが一目見ただけで逃げ出してしまうくらいの鬼がいた。

「誰が鬼ですって?」

 すいません!書き直しますからこっち睨まないでください。

 と、いうことで、洗面所の入り口に立っていたのは夕凪だった。

「遊んでないで早くリビングに来なさい」

『はい!』

 2人はすぐに洗面所を飛び出しリビングに向かった。

「はぁ」

 ため息を吐いた夕凪はリビングに戻り椅子に座ると、全員が手を合わせた。

『いただきます』

 こうして美部家の朝食が始まるのであった。


        ▼  ▼  ▼


 さてここで改めて登場人物達の紹介をしておこう。

 会社員の父親・喜洋(40)を筆頭に、専業主婦の母親・綾菜(40)、高校3年生の長女・夕凪(18)に高校1年生の長男・秀和(16)、中学2年生の次男・徹平(14)と小学6年生の三男・泰弘(11)。

「何でいまさら人物説明なんていれているんだ?この作者は」

 喜洋は問いかけながら彩菜を見た。

「馬鹿だからじゃない?」

 笑顔で答えた彩菜。

 凄い言われようだ。

「当たり前だろ。1章の終わりも終わりで人物説明が入る小説なんて普通ないよ」

 徹平が俺をジト目で俺を見てきた。

 それもそうだが、今はそんなことは横に置いておいて、

「置いちゃ駄目でしょ!」

 叫びながら夕凪は俺を指差してきた。が、とりあえずスルーしよう。

 というわけで、これだけ個性的な面々が揃っているのでそこそこ楽しめる小説になると思いますので、最後までお付きあいください。

 えっ?まだ一人登場人物が足りない?

 それは追々登場しますのでご心配なく。

 それでは続きをどうぞ。

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