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共通プロローグ企画

雪が貴女を奪っても、私は貴女を愛す

作者: 葡萄鼠

ナツ様の新企画『 共通プロローグ企画 』に参加させていただきました。連載を2作品すでに参加させて頂いておりますが。いつ終わるか不明な為、頑張って短編も仕上げてみました! 連載作品は、しばらく放置になるかもしれませんが。もしよかったら一度だけでも目にして頂けると嬉しいです。連載、短編共々宜しくお願いします。

 夜半に降り出した雪は眠るように横たわる一人の女の上へ、まるで薄衣を掛けたようにうっすらと積もった。

 一面の白に反射した光が彼女の黒髪を照らしている。

 音すらも包み込む静かな雪の中、一人の男が近づきそのまま彼女の脇に屈み込んだ。それに合わせ装身具が冷たい音をかすかに鳴らす。

 男は剣をしまうと目を閉じたままの女の息を確認し、彼女を抱え上げた。青白い頬に血の気はないが、少なくとも生きている。急がなければ――。

 力強く雪を踏みしめ、男は足早に来た道を戻っていった。 



      ☽ … ❀ … ☾



 今日も朝から白い六花が降っている。窓から外を見ながら、寒い廊下を歩きリビングへと向かう。

 リビングに通じる扉を開けると、温かな空気が肌を優しく包み込む。そしてそこには一人の女性、私の妻が朝食の支度をしていた。


「おはよう」

「おはよう」


 声をかければ、変わらぬ優しい声が返事を返してくれる。妻の方へ近づけば、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。


「今日も美味しそうな匂いだね。何を作ってるんだい?」

「今日は、あなたの好きなお野菜がたっぷり入ったボルチーナよ。もちろんふわっふわのパンもあるから安心してね」

「それは朝からご馳走だな。私の奥さんは、器量が良くて料理も上手で、本当に自慢の奥さんだよ」

「あら、あなたったらそんなに褒めらても何もありませんよ」

「おや、心外だな。私はただ思ったことを言っただけなのに」


 そんな風に軽口を叩きながら、毎朝の大切な習慣として妻の唇にキスをする。


「さ、もうすぐできますから大人しく待っていて下さいね」

「わかったよ」


暖炉の薪の様子を見ながら、大人しく朝食ができあがるのを待つ。朝食ができたら、妻が料理を運んできてくれる。前に手伝おうとしたら、「これは私の仕事だから、良い子で座ってて下さいませ」と言われそれからは大人しくイスに座って待つことにしている。


今日も絶品な朝食に舌鼓をうちながら、外の雪をみながらそろそろ始まるアレを思い浮かべていた。


「そういえば、もうすぐ星祭りの日だね」

「もうそんな時期だったんですね。確かにここ数日はずっと雪続きでしたし」


 そう。〝星祭り〟

 それは、毎年この世界で行われる冬への感謝と春の訪れを願い。春を司る女神、六花の女神が無事にその力を揮えるように場を整えるための祭り。女神がその恵の光を世界に渡らせると、それが冬から春への架け橋となり世界に春が訪れる。大切な、この世界に生きる人たちにとって生死を分ける大切な祭り。


「今年もきっと、凄く綺麗な祭りになるんだろうな」

「ええ、きっと。一生の想い出に残る、祭りになるんでしょうね」


 幼い頃から毎年夢見ていた星祭り。大人になった今でも、間近で見られるようになった今でもその美しさと神々しさの虜になっている。


「今年も、楽しみにしているよ」

「私も、楽しみです」


 笑いあう。幸せを噛みしめて。

 決して戻ることも、繰り返すことはできない一時を想って。





      ☽ … ❀ … ☾





 ―― 家に届いた、六花。



「――そう、か。とうとう明日が星祭りなのか」


 触れたら消えそうなほど淡く、繊細な白い花。何度見てもその美しさと儚さは魅入るほど、この世のモノとは思えないほどの輝きを持っている。


「――あなた……」


 六花に魅入って、哀愁に囚われていると。妻が、震える声で私を呼んだ。


「とうとう明日だな、星祭り」

「そう、ですね」


 泣き笑い、今にも涙がこぼれ出しそうな笑顔で私を見る妻。

 何度見ても、その顔は見慣れることはない。私の心も締め付けられるほど痛く、苦しく、悲しくなる……。


「明日は、二人っきりで過ごそうか。家で、のんびりと」

「ええ、ええ。二人っきりで、一日中ずぅっと」


 とても、とても幸せそうな笑顔で笑う妻は。本当に、綺麗で、私は何度目かの恋をする。





      ☽ … ❀ … ☾





 星祭り当日 ―――――


 女神を統率する、大神もこの日を祝福しているのか。空は綺麗に晴れ渡り、地上に咲く六花に溢れるほどの光を注いでいる。

 そんな、美しく清らかな光景を。世界で一番美しく着飾った妻と共にみる。


「私は永遠にお前のことを愛しているよ」

「私もあなたのことが、世界で一番愛しいです」


 触れることをためらうほど清らかな妻は、本当に世界で一番美しい。その笑顔は花さえ霞む愛らしさ、その濡れた瞳は星さえ輝きを恥じ入るほど煌めいている。


「必ずまた見つける、六花の女神(私の最愛の人)

「行ってきます、七星の騎士」


 妻は、いや。この世界の星々を結び、冬から春へと季節を渡らせる六花の女神は光に誘われるまま私に背を向けてゆっくりと厳かに歩み出す。その姿はとても神々しく、清らかでこの世界の何よりも美しい。




 六花の女神が光の向こう側へと消え、そして光さえも消え去ってから二時間が経ったその時。辺りを目がつぶれそうになるほどの強く暖かな光が覆う。



 私の手に舞い降りてきたのは、妻が肌身離さず持っていたあの、星祭りの訪れを報せた六花の欠片。私はギュッとそれを強く握り、妻と私を唯一繋ぐソレに全てをかけて妻を探す旅にでることを決意した。

 猶予は半年。

 その間に私は必ず妻を見つけ出す。見つけ出すことができなければ、もう二度と妻とは逢えなくなってしまう。

 何度繰り返したかわからない。それでも私は最愛の人を失いたくない一心で、何度目かの妻を探す旅にでる。



 愛しい愛しい、唯一の妻よ。

 私と貴女が初めて出逢ったあの日から、私は貴女だけを愛し、夢を見て、歩んできた。星祭りを終え世界に消えた六花の女神を世界中から探し出し、次の星祭りまでその御身を護り、そして星祭り当日その御身を無事に世界へ還す。無事に儀式を終えた女神が唯一その身の行方を報せる欠片を頼りに、再び世界中を渡り歩き女神を探し出す。

 例え星祭りの儀式を終えた貴女の記憶から、今まで過ごした日々のことは何一つ残っていないとしても。それでも私は貴女を世界で誰よりも愛している。貴女の身も心も清らかな中に、私という存在がなくなっていても。それでも私は貴女の傍に誰よりも近くにいられるのなら、築き上げた日々がなくなる悲しさにも耐えられる。


 誰にもこの役目を負わせることなどしない。

 六花の女神(あなた)を探し、見つけ、護り、過ごし、唯一担うのが、七星の騎士の役目。

 私は貴女だけの、唯一無二の騎士でありたい。



 貴女を、貴女だけを、愛しています。


 妻よ、例え何度やり直すことになろうとも。君は私の唯一の妻だ。



 愛している。死が二人を別つとも、私は死しても尚、貴女を愛し続ける――――……。





閲覧ありがとうございます。


誤字・脱字・アドバイス・感想など、何かしら頂ける場合にはぜひとも感想フォームにてお願いいたします。

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文法上誤用となる3点リーダ、会話分1マス空けについては私独自の見解と作風で使用しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後まで読んでから、最初のプロローグ部分に戻ると、彼女を抱え上げられたことが彼にとってどれほどの僥倖か分かって切なくなるところ。 [一言] こちらの短編も素敵でした~(´∀`*) 七夕をも…
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