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目隠し剣士と制服姫 2

 俺が少女に再会の言葉をかけようとしたとき、少女の表情がパッと変わり、険しいものになった。少女は早足でブランクに近づく。そこまで近づくことないだろうというくらい近くまで歩み寄り、ブランクを見上げる。

「それ、私のなんだけど。」

「そうか。ということは、おまえがこの部屋の住人か。」

 ブランクの発言を怪訝に思ったのか、少女の眉間に皺が寄った。

「おまえの望みはなんだ?何をすれば、先に進める?」

「とりあえず、その手紙を返して。」

 その声には、何の感情もこもっていない。ただ、以前会ったときと同じように、柔らかい声だった。ブランクは少女に言われるがまま、手紙を返す。

「返したぞ。」

 ブランクは誰に言うともなく、そうつぶやくと辺りを見渡す。どうやら、現れるはずの次の部屋への扉を探しているようだ。少女は、返してもらった手紙をじっと見つめている。

 俺は、ブランクと少女を交互に見る。なんというか、この二人は同じ世界にいるのに、その世界を共有できていない。いや、正確には、ブランクがこの『部屋』に馴染もうとしていない。

 まあ、それで次の部屋への扉が現れれば、俺も特に文句はない。しかし、夕日に照らされ、時間が止まったような静けさを漂わせている教室に扉が現れる気配は全くなかった。ブランクは目隠しをしたまま扉を探し、少女は手にしている手紙を見つめている。

「そういえば、彼氏に告白は出来たのか?」

 俺が少女に声をかけると、少女は顔を上げ、こちらを見る。俺の顔をじっと見つめ、おそらくは記憶を遡り、思い出し、愛想笑いのように不器用な笑顔浮かべる。

「ダメだったよ。他に好きな人がいたみたい。」

「そうか。」

「でも、あなたには感謝しているかな。」

「どうして?」

 そこで、少女は口をつぐむ。曖昧な感覚をどう言えばいいのか考えているのか、頭に浮かんだ言葉を口にする決意を固めているのか。俺にはどっちなのか分からなかった。気がつけば、ブランクが目隠しの向こうから、俺をじっと見つめていた。

「あなたのおかけで、私は次に進めたから。あのまま、ずっと屋上の上から片思いしていても、ううん、恋心を抱いていることすら気がつかないままだったら、私はずっとあそこにいたはずだから。」

 少女はそう言うと、俺に近づき、手紙を差し出す。さっきブランクから返してもらった、あの手紙だ。

「これ、あなた宛なの。いつか、ここに帰ってくると思って。この手紙を渡せる日が来ると思って、書いておいたの。」

 俺は差し出された手紙を見て、そしてその手紙を持っている少女を見た。相変わらず、ぎこちない笑顔だったが、その表情はどこか清々しさが滲んでいた。

「受け取ってくれる?」

 俺は、手を差し出す。手紙を受け取るために。少女が俺のために書いてくれた手紙を。そこに込めた想いを受け取るために。人に感謝されるというのは、やはり嬉しい。

 俺が手紙を手にしようとしたとき、手紙が消えた。気がつくと、ブランクが手紙を奪い取り、躊躇うことなく手紙を破った。呆気にとられた俺は、ブランクの手の中で少女の手紙が小さな紙切れになっていくのをただ見ていた。

 小さな紙切れが教室の床に舞い落ちる。少女は、それを見つめる。見つめるだけだった。いくら時間が経とうとも、少女はブランクに何か文句を言うことも、怒りをぶつけようともしなかった。

「いくぞ。」

 ブランクが俺の腕を引っ張り、教室の扉に向かって歩いていく。俺は為されるがまま、扉に向かって引っ張られていく。

「ちょっと待てよ。」

 ブランクが扉に手をかけようとしたとき、俺はブランクの手を振りほどいた。

「なにも、あそこまですることないだろ。」

 俺は、教室に目を向ける。少女がこちらを見つめている。どこからか風が流れてきているのか、少女の髪がフワリと舞っていた。

「あのままだと、おまえはこの部屋に捕らわれていた。何を勘違いしているか分からんが、ここは、おまえが前訪れた部屋ではないし、あの少女だって、どんなに見た目が同じでも、おまえの知っている少女ではない。ただの、部屋の住人だ。」

「だからって――」

「そうだな。おまえが少女に言葉をかけてくれなければ、先に進めはしなかっただろうな。ただ、あのままだとこの部屋に留まることになっていただろうな。」

 ブランクのその言葉に反論しようとしたとき、ある考えが浮かんだ。

 もしかしたら、こいつは部屋を渡り歩くための鍵なのではないか。俺一人だと捕らわれてしまう状況を、こいつが打破してくれるのではないか。こいつがいなければ、俺はここから先の部屋に進むことはできないのかもしれない。

「扉は最初からここにあった。気がつくのがちょっと遅かったな。」

 ブランクはそう言うと、スライド式の扉を開く。白い光に包まれ、何も見えなくなる。


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