ここが本当の生き地獄
臨死体験をした人によると、本当に神様はいるみたいですね。私も見てみたいものです。
私の頭の中が確かなら、この先生(?)の言っている事は大きな嘘ということになる。だって、私はついこの間までただの小学生だったのに、誰かを死に追いやったなんて事あるはずがない。
「地獄へ転生するにあたって、いくつか注意点があります。まず、よくある設定の姿形を自分で選べる???なんてことありませーん」
先生の言葉を無視して、私は必死に思そうとしていた。今から生き地獄へ行く恐怖と、自分が誰かを殺してしまった罪悪感で、手に汗が滲んでくる。
(死んでも汗って出るんだ)
ところが、やはり自分のせいで自殺した生徒なんて身に覚えがない。この美形の先生の作り話だろうか。それとも、他の誰かと間違えているのだろうか。
「あなたはそのままの姿で転生してもらいます・・・が、1人引率の先生を選ぶ事ができます。私でもいいですし、他の駄目先生でもいいれーすよ」
とりあえず、この美形だけは死んでも(もう死んでるけど)嫌だ。私は面食いで、普段だったら是非この美形の先生に来てもらいたいのだが、ここまで頭のネジが飛んだ奴はこっちからお断りだ。
「あ、先生!さっきの門番・・・リオン君じゃダメですか?」
「は?リオンはただの門番れすよ。先生じゃありません」
「そう、ですか」
こいつら先生に頼むくらいなら、まださっきの口うるさい門番のリオンの方がまだいい。ダメもとで言ってみたが、やはり駄目か。
おもむろに美形の先生は教鞭で大きな円を描いた。
「カッツアレラ」
そう魔法の呪文のようなものを唱えると、円の中が急に黒く渦巻始め、中から次々と人が出てきた。私はその光景に圧倒されて、ただ口を開けていることしかできなかった。合計で7人の人が出てきた。髭のはやしたおじいさんに、眼鏡をかけ、きりりとネクタイを締めている中年の男や、いかにも発明家っぽい人や、秋葉原にいそうなオタクっぽい人や、どう考えても見た目8歳くらいの人、顔がくずれていて、すごく不細工な人や、体育会系でマッチョな人。なんて個性豊かな人達・・・。
「この中から好きな先生を選んで下さい、あ、さっきもいいましたが、私でもいいれすよ」
嫌な予感はしてたけど、やっぱし・・・
1番まともなのは、い、いない。リオン~戻ってきてよ~。
とりあえず・・・ネクタイを締めた人が1番よさそうだ。
「じゃあその眼鏡をかけた先生がいいです」
私がそう言うと、眼鏡の先生は一瞬嫌そうな顔をした。と、その時
「ま、待った!」
呼び止めたのはオタクの先生。うっ。きもい。
「可愛い・・・俺が・・・行く・・」
可愛い?私が?いや、そんなことよりこいつ、私と一緒に行きたいのか。1番嫌な奴なのに。すると美形の先生は
「分かりました。ではこのセドリック先生と共に転生してもらいます。
「嘘でしょ!ちょっと待ってよ!じゃあ最初から私に選ぶ権利なんてなかったんじゃない!」
「フーフー」
セドリックと呼ばれた先生は怒っているのか、もとからなのか、鼻息をあらげている。
「黙りなさい!!先生に従う。それ世の中の鉄則ね」
「ここ世の中じゃないじゃない!」
「案内・・・する」
セドリックは琴美のすぐそばまで来ると腕をぐいっと引っ張った。
「それではいってらっさーい」
美形が見送ると、セドリックは琴美を教室の外まで連れ出してしまった。
2人きりになり、重たい空気が流れる。こんなことならさっきの美形の方を選べばよかった。
「こっち・・・・」
セドリックは琴美を大きな茶色い窯の前まで連れてくると、この中に入るよう促してきた。
「冗談でしょ!?入ってどうなるのよ!」
「・・転生、する・・・フーフー」
「あんたと一緒に?」
コクリと頷くセドリックに、私は逃げ出そうとした。が、足を掴まれ、無理やり窯の中に放り込まれてしまった。
その中はまるで台風の目のように渦巻いていて、私は必至に下に落ちぬよう犬かきをした。後ろを見ると、セドリックがこちらに向かって泳いで来る。しかも早い!私は必至に空中を泳いだ。泳いで泳いで・・・しばらくすると炎が見え、その中に落ちると、その後は氷が見えた。さらにその中に入ると、いきなり地面に叩きつけられた。痛い・・・そう思ったのもつかの間で、私の上に重いセドリック先生が落ちてきた。やっとの思いでセドリックの巨体をどかし、辺りを見回すと、そこはまるで戦国時代のような所だった。
「フーフー、ここ・・地獄。着いた」
「ここが?」
えらい普通の所ですけど。地獄というよりむしろ昔にタイムスリップしたような。
「魔物だ!」
声のした方を見ると、そこにはまるでムカデのような大きな大きな生き物が、村人めがけて襲いかかっていた。
「・・逃げる・・・」
セドリックがそう言い終わる前に、私の足は逃げ出していた。ここは大して暑くなかったのだが、走った影響なのか灼熱の砂漠以上の暑さにも感じた。
ムカデから逃れた後、これから、ここで生きていかなければならないのか?そう思うと涙と脱力感が溢れてきて、私は地に膝をついていた。
「な~にしけたツラしてんだよ」
目の前に現れた少年を見て、私は地獄に垂らされた一本の糸があるようにしてその少年に飛びついた。門番のリオンだったのだ。
「わわっ!抱きつくなっ!鼻水ふけよ。汚ねーな」
「ひっぐ・・だって・・・リ~オ~ン~」
リオンはこの時代に相応しい、着物のような服を着ていた。あの時は汚らしい服を着ていて気づかなかったが、こうして見るとなかなかの美少年な気がした。
私が落ち着くと、リオンは町を指さした。
「ここは今までお前が住んでた地球じゃないぜ。もう知ってると思うがパラレルワールドだ」
「いつまでここに居なきゃいけないの?」
私はいい答えを期待して言った。死ぬまで・・・とか言われたら今すぐ死んでやるのに。
「・・・ずっとだ。お前が魔物に食い殺されるまでか、あるいは怪我を負ってもなお生かされ続けるか。地獄ってそんなもんだろ」
やっぱり、そんなことだろうと思った。
「リオン、私って誰かを殺したの?」
美形の「私のせいで自殺に追いやられた人がいる」と言った言葉を今更ながら思い出した。
「・・・・・さぁな」
リオンはおもむろに背中に担いでいた風呂敷を広げた。中に入っていたのは握り飯、あと着物。
「腹減ったな。お前の分も用意してやったし、あと、その服じゃ目立ってしょうがねーや。着替えろよ」
「うん!うん!」
私はおにぎりを口いっぱいに押し込むと、着替えようと着物に手を伸ばした。しかしリオンを気にしてチラリと視線を向ける。
「ちょっと、見る気?」
「ガキの着替えなんかに興味はねーよ」
自分だってガキのくせに・・・。そう思ったが、やはり男の子の前で着替えるのは恥ずかしい。なので、少し離れた大木の後ろで着替えた。着替え終わると少し気恥ずかしくリオンの前に出てみた。
「ど、どうかな?」
「ふーん。馬子にも衣装じゃん」
その言葉にむっとしたのか、嬉しかったのか、私は少し複雑に顔を歪ませた。
つかの間の幸せ、な気がした。
書いていて主人公が可哀相でなんだか泣けてきました(笑)