偽りの咲奈
私は自分が大嫌いだ。
才能もなければ、偽りの自分を作って他人から愛されるようにしてきた。本当は、愛情なんて感じたことがないくらい。だって、みんなが愛してくれてるのは「私」じゃないから。みんなが愛してくれているのは、「私」じゃない、偽りの「私」。
「咲奈ってば何ぼーっとしてんの?」
「……えっ?」
急に自分の名前を呼ばれて驚いてしまった。更に驚いたのは、学級のみんなはもう昼食の用意をしていたことだ。
「ぼーっとなんてしてないよっ!!お昼ご飯食べよ~っ!!」
ん~と大きく背伸びをして、笑ってた私は、驚きを隠し、いつもの「テンションが高い女子」を演じていた。
しかし、演じることは私にとって日常だった。
きっかけは、両親。
幼いころから、私の両親は共働きで帰ってくるのも夜遅くだった。だから、両親と話すことも無かった。
「私…ママとパパに嫌われてるのかな……」
そう考え始めた私は、その時から母がしていた家事などを全てやることにした。
「咲奈ちゃん、ありがとね」
母は仕事をやめた時にそう言ってくれていた。
「うん!!いいの…!!!」
それは、母に見せる初めての天真爛漫の笑顔だった。
ーだけど、母は豹変してしまった。
「咲奈っ!!何してるのっ!!??」
「えっ?何って…きゃっ!!!?」
私が風邪を引いて寝ている時も、母は私に家事をさせた。
しない時は怪我まで負わせる程だった。
普通の私だったら、母に殴られて泣くだろう。だけど、もう私は「私」じゃなかった。
「お母さん、ごめん~!後からやろうと思っててさ…いまからやるからねっ!!!」
ーその頃から偽りの自分を演じるようになった。
「-ねぇ、咲奈ってば今日変だよ?ぼーっとしちゃってさぁ!!!」
「あっ…ごめんごめん!!ん~なんか、昨日寝れなくってさ~!!」
私は、適当に言い訳を作った。別に、ぼーっとしているわけじゃない。なんだか、今日はいつもに増して自分に嫌気があったのだ。
「完璧な咲奈もそんなことがあるのね!!夜は寝ないと私のようになっちゃうぞ~☆」
『完璧』
そう言われると、余計自分への嫌気が増すのだった。表面上の…偽りの私しか見たことのない他人が私の何をわかるのだろう…?
「完璧じゃないよ~!!!それに、柚明みたいな可愛い子になれたら私最高じゃんかっ!!!」
「え~…さすがにそれはないぞっ?」
友人の松平柚明とそんな話をして、昼休みを終えた。
友人と言っても、それは表面上だけであって内面の私など知るわけがなかった。それは、柚明だけじゃなく他の友達も同じ事なのだ。
そして、午後の授業もいつも通りに終わっていき、バスケ部マネージャーの仕事も終わりを迎えた。
「おーーいっ!!!咲奈ちゃん一緒に帰ろーッ!!!」
数人の友達が、学校の正門で待っていた。
「ごめんね、せっかく待ってくれたたのに!!今日バイトなのー!明日、一緒に帰ろうねー!!」
走りながら、複数の友人に手を振って正門を通り越した。
バイトなんて嘘だ。
皆で帰ると、めんどくさいからたまにこうして嘘を付いて一緒に帰っていない。
「…はぁはぁはぁ…」
走りつかれた私は、道端で立ち止まってしまっていた。
(じ…自販機でジュース買おう…!!)
そう思い自販機へと向かった瞬間ー…
バンッ!!
誰かにぶつかってしまった。
「あっ…すいません!!」
「こっちこそごめんね…」
ぶつかった少年は、すごく綺麗な顔立ちをしていて思わず見とれてしまう程だった。
「ねぇ、君。ちょっといいかな?」
「…あ、はい!!」
呼ばれてしまって驚いたけど、もう偽るのは慣れていたから対応した。
「君はさ…この世界楽しい?」
何言ってんだこの人と内心思っていたが、初めて会った人にそんな事言えるわけがない。
「はい!!楽しいですよ!だって、たくさん友達いるしー…」
「君って嘘つきだね…自分を偽ってるんでしょ?」
空気が大きく動いたように、重たい空気になって風の音だけが聴こえていた。
さすがの私も驚きを隠せなかった。
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは私からだった。
「えっ?そのっ…嘘なんて……偽るって何?知らないよ……私は何も知らないッ!!!!」
私の大声に驚いたのか、少年はきょとんとしていた。
「世界は私を見てくれない。だから、私も世界を見ないー…。世界は、偽った私を見ているからよ。」
ぼそっと呟いた。
何でかはわからないけれど、涙が頬を伝った。
「ならさ、僕の世界においでよ!!」
少年は、優しい笑顔だった。
「あ、僕の名前は白瀬羅飛だよ!!」
「羅飛さん…」
「羅飛でいいよ!!きっと、君と同じ高校2年生だから!!」
「私…小鳥咲奈です…。羅飛の世界って何かな?」
今までの私とは違う「私」を羅飛に見せていた。
すると、羅飛は無言のまま手を空に翳した。
その瞬間、羅飛の手に光が集まった。
「僕も世界が嫌いだった。だから、世界を切り開いた。まぁ、異世界みたいなもんだよ。」
羅飛は、どこか寂しそうな面影を見せたけれどすぐに笑顔に戻った。
「行くか、行かないか…。答えは、咲奈次第だよ!!」
羅飛は、私を世界に導いてくれた。
答えはもちろんー…
「行くよっ!!」
これから始まる、新しい世界。
だけど、残酷な世界のゲームの始まりだったのかも知れない。
その事に羅飛も私も気付いていなかったー…。