第六話
厄介だな……。
木山は心の中で呟く。
会議室では、スカイマーシャルの隊員達が集まって会議が行われていた。
議題は民間航空会社との合同訓練の内容についてだ。
スカイマーシャルの性質上、航空会社との連携は不可欠であり、合同で行う訓練というのは必要なものではある。
しかし航空会社はあくまでも民間企業だし、職員も民間人だ。
スカイマーシャルのような機密性の高い組織が、民間人の前でいつもと同じように訓練するわけにはいかない。
これは自衛隊なども同じで、防衛省……当時はまだ防衛庁だったが……は、訓練を一般に公開することにより、こちらの情報が他国やテロリストに渡ってしまうことと、公開した訓練の内容がテロリスト等の教材として使用されることを懸念する意見書を提出している。
そのため、一般に公開する訓練は全てそれっぽく見えるだけのでたらめな内容になっている。
この方針は警察も同じで、テロ対策に携わる部隊やSP等といった外部に訓練内容を公開することが適さない部署は、やはりそれっぽく見えるだけのでたらめな内容になっている。
ただ今回は少し事情が違う。
民間企業とはいえ、有事の際には連携して対応する航空会社に全くのでたらめを見せる訳にはいかない。
かといって民間企業に馬鹿正直に全てを見せる訳にはいかない。
どこまで見せるのか?どこを見せたら不味いのか?会議が始まってからそれなりに時間が経っているにも関わらず、結論が出ないでいる。
精鋭の特殊部隊であるがゆえの弱点がもろに出てしまっているのだ。
少数精鋭と言えば聞こえは良いが、逆に言えば人手不足ということでもあり、特殊部隊と言うことはその秘匿性ゆえに警察関係者であっても、部隊外の人間に相談できないということでもある。
結果、こういったことに対応する事務官を増やす訳にもいかず、広報官等に相談することもできないという最悪な状況が生まれるのだ。
厄介だ……。
心のなかでため息をつき、いつまで経っても結論の出ない会議の様子に目を向ける。
本当に厄介だ………。
広報や外部との調整については完全に専門外であるスカイマーシャル達の会議は、まだまだ終わりそうにない。
そういえば、自衛隊や警察が公開した訓練を見て「彼らの訓練は実戦的ではない!」みたいなことをドヤ顔で言っている自称専門家がいますが、ああいう人達って本気の訓練を公開してるとでも思ってるんですかね?
実戦的な訓練を公開したら不味いことぐらい、少し考えれば分かると思うんですけど。