第五話
スカイマーシャルは「最も装備に恵まれない最精鋭」だと言われることがある。
民間人に扮して警乗するという性質上、どうしても持ち込める銃器には制限がある。
64式や89式などといった自動小銃や、M1500のような狙撃銃はまず持ち込めない。
頑張ってもMP5Kを鞄に隠して持ち込むぐらいだが、有事の際に鞄から物を取り出す動作をすれば、ハイジャック犯に気づかれかねない。
結果的に、服に隠して身につけていられる拳銃で対応せざるを得なくなる。
つまりスカイマーシャルは、街のお巡りさんに毛が生えた程度の銃器でハイジャックと向かい合う必要があるのだ。
防具にしてもそうだ。
民間人に扮している以上、ヘルメットや本格的な防弾ベストを装着するわけにはいかず、一応は目立たない薄い防弾ベストを着ることもあるが、ほとんど無防備な状態で任務を遂行することになる。
それですら薄着にならざるを得ない夏場には、着用が難しくなる。
(良かった事と言えば拳銃がUSPではなく、P228を選べたことか。
USPはグリップが少し滑るからな)
航空機内を模した訓練施設で、AK47で武装したハイジャック犯に扮した教官の隙を伺いつつ、自分の装備の貧弱さに思わずそんな慰めにもならない良かった探しをしてしまう。
とはいえ、スカイマーシャルも一方的に不利な戦いを強いられるわけではない。
警察や軍の介入がほぼ不可能な上空を飛行する航空機という現場で、非武装の民間人である乗客達を人質にとっていると思っているハイジャック犯が相手なら、ほぼ確実に不意を突き先手をとることが可能だ。
(まぁもっとも、不意を突く隙が無ければ意味がないわけだが……)
既に訓練を開始してかなりの時間が経っているにも関わらず、ハイジャック犯に扮した教官は全く隙を見せることがない。
これには理由がある。
以前にも触れたが、木山のような元SATの隊員達は基礎的な能力こそ高いものの、自身で実力行使を行うタイミングを判断するという経験は皆無と言って良い。
警備部長が突入の判断を下すのを待つのと、自身で実力行使のタイミングを図りつつ相手が隙を見せるまで耐えるのとでは、天と地ほども差がある。
そのため、このようにわざと隙を見せずに長時間焦らし、忍耐力と集中力を養い、有事の際に焦ってタイミングを図り間違えることのないように訓練するのだ。
実際に拳銃のグリップについて等、今考える必要がないことに思考を割いてしまっている辺り、やはり訓練が必要だということだろう。
木山は無駄に思考を費やした自分を戒め、深く呼吸をして集中力を整え直し、改めて訓練に集中するのだった。