第二話
木山は、ハイジャック対策訓練場である千葉県警察機動隊総合訓練施設に向かいながら、今は亡き父親のことをを思い出していた。
日本は平和な国と言われるが、実際には戦後日本の歴史とは左翼テロとの戦いの歴史でもある。
暴力で自らの主張を押し通そうとする左翼テロリスト達は、民間人を目標とした無差別爆破テロや自衛隊・警察への襲撃等、数多くのテロ事件を引き起こした。
当時警察官だった優の父親も、その状況をどうにかしようとテロリスト達の逮捕に全力を尽くしていた。
ある日、警察に血塗れで倒れている人がいると通報が入る。
優の父親は急いで現場に向かったが、そこにいたのは血塗れの怪我人等ではなく、武器を持って待ち構えたテロリスト達だった。
警察官を標的としたテロリストの罠に掛かった優の父親は、殺害され遺体をバラバラに刻まれてしまう。
父親が殺され、無残な姿で返ってきた遺体を前にした優たち遺族に待っていたのは、マスコミ達の非人道的な報道だった。
「テロリストの罠にひっ掛かった馬鹿な警察官」
「犯人を逮捕もできずにあっさりと殺された」
そのような優の父親を侮辱するような報道が連日続いた。
朝霞自衛官殺害事件で明らかになったように、マスコミは実質上テロリストの味方であったのだ。
この頃に優は警察官、特にテロリスト達を相手にし、身分を隠してマスコミを相手にする必要のないSATのような対テロ部隊への入隊を強く望むようになる。
公務員試験に合格し、警察官となり機動隊に配属されSATへの入隊試験に合格した時に優は目標に到達したと思った。
しかし厳密にはSATは対テロ専門の部隊と言うわけではない。
そこで優はより対テロの専門性が高いスカイマーシャルを目指して、外国語の修得に励み、日々努力を続けてきたのだ。
そしてようやく夢が現実になった。
到着した総合訓練施設を前に、優は父親へ祈り捧げた。
次回から本編に入ります。
今回作中で主人公の木山優の表記が「木山」から「優」に変わっていますが、優の父親との混同を防ぐためです。
次回からは「木山」で統一します。
作中で出てきた「朝霞自衛官殺害事件」について。
左翼テログループが武器を奪うために、自衛隊員を殺害した事件です。
この事件はマスコミ職員がテロリストに金銭を提供。さらには犯人から犯行の唯一の物証である自衛隊員から奪った警衛腕章を受け取り、新聞社施設内の焼却炉で焼いて証拠を隠滅するなど、テロリストに協力していた事件です。