第一話
警視庁・警備部長室
「君、スカイマーシャルって知ってる?」
朝いきなり警備部長室に呼び出された木山巡査は、朝田警備部長の質問に胸の鼓動が早まるのを感じた。
「スカイマーシャルとは、テロやハイジャック対策として国際便の飛行機に一般人に擬装して警乗する、武装した警察官のことです」
緊張に言葉が固くなることを感じながらも、淀みなく質問に答える。
「はい、その通り」
朝田警備部長は木山の答えに満足したように頷くと、手元の資料に目を落とす。
「木山優、階級は巡査。四年前に警視庁に入庁、警察学校を卒業後に機動隊に配属、一年後警視庁の特殊部隊である特殊急襲部隊、通称SATに入隊。
勤勉な性格で日常生活程度の英語と朝鮮語が話せる」
資料の内容を読み上げると、視線を木山に戻す。
「これ、君のことで間違いないね?」
「はい、間違いありません」
「ニュースで見ただろうが、北朝鮮が韓国に対して休戦協定の白紙化を通達した」
朝田はため息を一つつくと話し始める。
「朝鮮戦争が再開されようが、日本からすれば勝手にやっていろと言いたいところだが、連中は前回の朝鮮戦争の時もどさくさに紛れて日本政府や警察に対して武装蜂起するわ、新潟日赤センターで爆破テロ起こすわで、散々日本に迷惑をかけてくれた」
朝田はもう一度ため息をつくと、話しを続ける。
「今回の休戦協定の白紙化で朝鮮戦争の再開が現実味を帯びてきた以上、日本としても前回のように南北朝鮮に日本国内で好き勝手やらせるわけにはいかない。そこで対策として対テロ要員の充実をはかることになった」
「はい」
「SATの補充には機動隊員から、スカイマーシャルの補充にはSATから、どちらも朝鮮語が話せる人間を中心に異動させる」
木山は緊張を押さえながら続きを待つ。
「そこで君には警視庁警備部から、成田空港を管轄する千葉県警の警備部に出向、基礎訓練を終了次第スカイマーシャルとしての任務についてもらう」
「は、了解です!」
朝田はその返事に頷くと、木山を起立させる。
「本来であれば書面で通達を出すところだが、事の性質上、口頭での通達のみとする。
木山巡査!」
「はい!」
「警視庁警備部より千葉県警警備部への異動を命ずる!これにともない警視庁警備部特殊急襲部隊員の任を免ずる!」
「はい!ご下命拝領いたします!」
「むこうでもしっかりやってくれよ」
朝田が木山の肩を軽く叩く。
その時木山は、自分の目標に到達したことを実感した。