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その後、泣き止んだ一葉と雪菜を交えた四人から聞いたことを大まかにまとめると、この世界は魔力の有無で別れた、元いた世界と同じ形をしたもう一つの世界であるらしい。
そのため、この世界の星空は悠夜が元いた世界の日本から見るものと同じで、四季もあったのだ。大まかな地形も同じらしい。
そして、悠夜が何故この世界に来てしまったのかというと、それは悠夜に魔力が発現したことが原因している。
悠夜の元いた世界に魔力は存在しない、してはならない。
物理的な法則のみで構成された世界にとって、魔力のような物理法則の適応されない力は異物であり、世界に歪みを生じさせてしまう。そのため悠夜は、元いた世界から拒絶され、この魔力の存在するもう一つの世界に落とされたということだ。魔力が発現する理由や条件はいまだ不明とのこと。
これが、この世界の成り立ちを説明する最も有力な説だ。
この世界の住人は皆、元の世界から拒絶されここへ来た者、もしくはそういった者達の子孫であるそうだ。代を重ねる毎に髪や目の色が親と違う色に変化することは、この世界ではよくあることで、雪子と雪菜も日本人の血筋らしい。
そのためこの世界、正確には、この世界の日本にあたる場所では日本語が使われ、技術力に大きな差があるものの日本の文化が根付いている。
そしてこの世界の人々は、悠夜のような元いた世界からこちらの世界に渡って来た人間を「渡り人」と呼び、自分達の住むこの世界を「世界の裏」と呼んでいるそうだ。
悠夜の父、光夜がこの世界に来たのは四年前、当時悠夜が十二の頃、妻の仏壇に立てる線香を買いに行った帰り道、なんの前触れもなく、この世界のこの森の中に落とされたそうだ。その後、街に辿り着いた光夜は、街の人々から自分がどのような状況に置かれているのかを知らされる。この世界で渡り人は頻繁とまではいかないが、たまに現れるので、人々も説明するのに慣れた様子だった。
その後、光夜はこの世界で魔獣を狩る狩人と呼ばれる職業に就くことを決意。元々自分で実戦剣術の道場を開くだけの剣の腕があり、それに魔法の覚えが早かったので、この世界に来て二年ほどで達人とまではいかないが、それなりに実力のある狩人になった。
そして、その頃に一葉もこの世界にやって来た。一葉はいきなり街の中に落とされ、途方に暮れているところを偶然通りかかった光夜に発見され、養女として引きとられた。つまり一葉も悠夜の義理の妹ということになる。
雪子とは一年前に知り合い、お互い妻と夫を病で亡くしたというところで共感が沸いたのか、何度か仕事を共にするうちに急接近し、半年前に再婚したということだ。
「でもまさか母さんのことを、あんなに未練がましく引きずってた父さんが再婚とはね。しかも四十過ぎてるっていうのにこんな美人さんつかまえて」
四人は悠夜に色々聞きたそうな顔をしていたが、これ以上の話はひとまず帰ってからということで、街へと向かう途中、安らかな寝息をたてている一葉を背中に背負って歩く悠夜はしみじみとつぶやいた。
(何故か隣を歩く雪菜は一葉のことを羨ましそうに見ていた。やはり疲れているのだろうか?)
「なんだよ未練がましくって、それほどでもなかっただろ」
すかさず否定する光夜、しかし悠夜は首を横に振る。
「一日で合計三時間は仏壇の前に居たじゃないか」
悠夜の言葉を聞いて雪子と雪菜がわずかに引いた。
「余計なこと言うんじゃねぇ!」
そんな家族水入らず(?)な会話をしているうちに街が見えて来た。
「へぇ」
悠夜は少々意外感を感じた。話によるとこちらの文明は人口の少なさや魔獣の脅威、さらに外国との繋がりがない(飛行機を造る技術もなく、船で渡るにも海には、さまざまな水生魔獣が生息している。)ことによって、あまり進んでいないと聞いていたのだが、確かに人はそこまで多くないものの、道には石畳が敷かれ、露店が並び、中世ヨーロッパに日本文化を混ぜたような、なかなか綺麗な街並みが広がっていた。
「とりあえずお前らは先に家へ帰ってくれ、俺は協会に悪鬼のことを報告しなきゃならねぇ」
「協会?悪鬼?」
光夜の言葉に悠夜が首を傾げる。
「協会ってのは俺と雪子が所属する組織で、悪鬼はお前が倒した魔獣のことだ」
「あの雑魚がどうかした?」
「雑魚って……」
悠夜の物言いに呆れる雪子。
「兄さん、あの魔獣はこの辺りじゃかなり危険な存在で目撃した場合は報告が義務付けられているんだよ」
雪菜が説明を付け加える。
「zzz…………」
一葉はまだ気持ち良さそうに寝むっている。
「あの程度の魔獣が危険指定とか……」
悠夜は、この世界の住人の評価基準が本気で心配になった。
「お前の異常な強さについては、後でじっくり聞かせてもらうからな。それと悠夜は人目に着かないようにして家まで行け」
「なんで?」
「それは後で話す」
光夜はそう言って、一人協会へと歩いて行った。