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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第六章 編入
37/45

35

「はあ!」


 鬱蒼とした森の中に、気迫のこもった声を響かせ一葉が刀で斬りかかってくる。

 その手に持っているのはただの刀ではない。


強化系統魔法(武装強化) 刃輝じんき


によって、岩程度なら軽く切断できるぐらいに斬れ味を上昇させた大変危険な代物である。


「だいぶ物になってきたな」


 悠夜はそう呟き一葉と同じ魔法を発動させる。


ガキィイイイイイイイン!!


 刃輝を纏った二本の刀がぶつかり合い火花が飛び散る。


「せやぁあ!」


 そこから一葉は刃輝を維持したまま連撃を仕掛けるが、悠夜はそれを必要最低限の動きで躱し、受け流す。


「っ!」


 そんな攻防が数回続くうちに、しだいに一葉の息が乱れ始める。

 一葉は刃輝を常に発動させているが、悠夜は攻撃を刀で受け流す間しか刃輝を発動させていない。

 刃輝を維持することはできても、まだ発動の切り替えまではできない一葉と絶妙な切り替えが可能な上に、魔力量で圧倒的に上をいく悠夜とでは、どちらが先に力尽きるかは考えるまでもない。


「一葉!」


 悠夜が一葉の消耗を待っていると、一人の少女が一葉の名を叫んだ。

 一葉は名前を呼ばれると瞬時にその場から飛び退き、入れ替わりに一葉の名前を呼んだ少女―梓が悠夜に仕掛ける。

 梓は右手に槍を持ち、左手には一つの術式を展開していた。そして左手の魔法を悠夜に向けて放つ。


変性系統魔法 円月輪えんげつりん


 直径一メートル程の高速回転する円盤型の魔力塊が、軌道上の木々を切断しながら悠夜へ向かう。


 対する悠夜は刀に魔力を纏わせ、刀を振り抜く動作と共にその魔力を放つ。


変性系統魔法 斬閃ざんせん


ギィイイイイイイイイイン!!


 円盤型と湾曲型、二つの異なる形をした斬撃攻撃が空中でぶつかり合い相殺される。

 形を保てなくなった二つの圧縮された魔力が拡散し、衝撃波をまき散らして土埃が視界を覆う。

 その土煙に紛れて新たな魔法が悠夜に向けて放たれる。


属性系統魔法(氷) 氷針ひばり


 無数の氷の矢が煙幕を突き破って悠夜に襲い掛かる。

 ただの尖った氷ではない。

 範囲は狭いが、刺さったところを起点に冷気を発して被弾対象を凍りつかせる性質を持っている為、あの氷の矢全てをモロに食らえば氷のオブジェになってしまう。


「雪菜か。いいタイミングだ」


 相手の視界が遮られた状況に、遠距離からの追撃を仕掛けるのは悪くない。

 だが、魔力の余波からこの攻撃を予測していた悠夜は、既にこれを迎撃するための術式の展開を終えていた。


属性系統魔法(火) 鬼火おにび


 悠夜の周囲に無数の火の玉が出現し、氷の矢を迎え撃つ。

 悠夜が氷の矢を迎撃し終え、鬼火を解除すると同時に二つの気配が悠夜を挟み込むように接近してきた。

 右は一葉、左は梓だ。

 悠夜は刀を右手一本で持ち、空いた左手で脇差を抜き放って、右手の刀で一葉の刀を受け止め、左手の脇差で梓の槍の軌道を逸らす。

 そして、足元に術式を展開


属性系統魔法(土) 地揺じゆ


「きゃあああ!?」

「うわあああ!?」


 突然足場を不安定にされて態勢を崩す一葉と梓。

 悠夜はその隙に二人の武器を弾き飛ばし、背後に向けて刀を振るう。


パキィイイン!


 悠夜に向かって飛んできた一本の氷の矢が、刀に弾かれ砕け散る。

 氷の矢が飛んできた方向には、投擲後の姿勢のまま目を丸くする雪菜の姿があった。

 おそらく雪菜は先ほど氷針を発動させたとき、氷の矢を一本だけ悠夜に向けて飛ばさずに、手元に残しておいき、その後素早く悠夜の背後に回って、自らの手で氷の矢を投擲したのだろう。そのため今度は魔力の余波を全く感じなかったのだ。


「発想は悪くないけど、気配でまるわかりだ」


強化系統魔法(肉体強化) 俊駆しゅんく


 一瞬で距離を詰めた悠夜は、雪菜に足払いを掛ける。

 投擲後の姿勢のまま固まっていた雪菜は、抵抗もできずあっさり転倒した。




「よし、今日はこのへんにしとくか」

「もうダメ~」

「やべぇマジ疲れた」

「兄さん容赦なさすぎるよ~」


 さっきのような模擬戦(三人には殺す気でこいと言ってあったが)と獲物を求めて寄ってきた魔獣との戦闘を何度か繰り返した後、悠夜が鍛錬の終了を告げると三人はその場にへたり込む。悠夜は軽く汗をかいているだけだが、三人は疲労困憊といった感じだ。


「疲れてるとこ悪いけど、もうじき日が暮れるからさっさと帰るよ」

「悠夜~、オレもう歩けねえ、おんぶしてくれ~」


 梓がそう言ってしなだれかかってくる。


「ちょっと梓、ズルいじゃない!」

「そうだよ!」

「いいじゃねえかよぉ!」


 ギャアギャアと騒ぐ三人。

 最初は拒絶されることを恐れ、ビクビクしながら周りに接していた梓だが、二週間たった今ではすっかり打ち解け術式魔法習得のための鍛錬にも参加している。(梓は元から多式魔法の使用に必要な魔力密度を持っていたため、途中から加わっても問題なかった。)

 姓も既に風霧と改めており、もう梓は風霧家の一員だ。ちなみに次女。

 三人の姉妹は見ていてとても微笑ましく、悠夜も普段はこの少女達にかなり甘いのだが……


「残念ながら帰りは闘氣とうきを使ったランニングだよ」


 これは移動力を向上させるため、後衛タイプの雪菜にも習得させた強化系統の多式魔法だ。

 悠夜は鍛錬に関しては一切の妥協を許さない主義なのだ。


「「「鬼~!」」」


 予想通り悠夜の無慈悲な宣告に不満が噴出した。






「ただいま」

「おかえりなさい。あら、悠夜以外はかなり疲れてる感じね」

「まあね」

「「「………………」」」


 悠夜以外の三人は玄関で声を発することもなくグッタリしている。


「ご飯までまだ時間あるからお風呂いってきなさい」

「わかった。ほら、三人とも先に入ってきなよ」

「「「は~い」」」


 ノロノロと着替えを取りに行く三人。

 手すりにしがみつきながら辛そうに階段を上る姿が、三人がいかに疲労しているかを物語っている。


「悠夜、あの子達の調子はどう?」


 雪子が鍛錬の成果を聞いてくる。


「順調だと思うよ。多式魔法は三人ともまだ闘氣に加えて一種類ずつしか使えないけど、基礎的なところはだいぶしっかりしてきたから、得意な系統の多式魔法ならじきに他のものも使えるようになるだろうし」


 一葉は強化系統、梓は変性系統、雪菜は属性系統を重点的に鍛えている。

 今まで三人は魔獣に向けて多式魔法を使うことならあったが、多式魔法を用いた対人戦は今日が初めてだった。

 それを考慮すれば、あの模擬戦はまずまずの出来だったといえるだろう。


「それはよかったわ、私と光夜さんも早く悠夜の魔法を覚えられるようになるといいんだけど」

「そればかりは、地味に魔力密度上げるしかないよ」


 光夜と雪子は魔力密度の上昇が遅く、まだ多式魔法を習得できる段階ではない。


「ただいま、って悠夜、もう帰ってたのか」


 悠夜と雪子が玄関で話し込んでいるとドアが開き、光夜が帰ってきた。


「おかえり父さん、僕も今帰ってきたところだよ」

「へえ、人がほとんど来ない場所まで行って、模擬戦やるっつうから帰りはもっと遅くなると思ってたぜ」

「走って帰ってきたからね」

「……そういやお前、鍛錬に関しちゃ鬼だったな……」


 悠夜の鍛錬に一切妥協を許さない性格を思い出し、光夜は三人の娘に同情した。


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