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「懲りない連中だなぁ」
黒い髪と目、同年代の平均と同じぐらいの身長と、やや細身だがひ弱な印象を受けない体躯。
母は自分が五歳の時病気で他界、その後父親一人に育てられるが、その父は三年前失踪。現在は、安い賃貸マンションで一人暮らしをしている少年風霧悠夜十五歳は、日課であるバイトとケンカを終え、マンションへ向かう途中一人つぶやいた。
悠夜はガラが悪いというわけでわないが、嫌なものには物怖じせずきっぱりNOと言い、さらに敵を作ることに余り躊躇いがなく、ある日自分にカツアゲしようと寄ってきた連中をそれが地元ではかなりの勢力を持った不良グループの幹部集団とは知らず返り討ちにしたため、町じゅうの不良に目を付けられるようになった。しかし幼少の時、父の営んでいた実戦剣術の道場で神童などと呼ばれ、父が失踪し道場が閉鎖した今でも鍛錬を怠らない悠夜にとっては、そこ等のゴロツキでは全く相手にならず、いつの間にか町の中で最強などと呼ばれるようになり、倒して名を挙げようとする者や、リベンジに来た者の相手をするのが日課になっていた。
悠夜の気分はあまりすぐれない、理由は自分でも分かっている。
はっきり言って退屈なのだ。
悠夜は興味を持ったものに対して凄まじいほどの関心を見せる。子供のころは知らないことがたくさんあり色々なものに関心を持ち飽きるまでそれに没頭したものだ。しかし、最近はそういった興味をそそられるものが見当たらない(底をついてしまった)のだ。
そんなことを思いながら、三月のまだ寒い気温の中、マンションまであと少しとなったところで急に体が熱くなった。苦しいというわけではないが、全身が不快感に包まれる。まるで体の中から得体の知れないなにかが湧き上がってくるようだ。そして視界がぐにゃりと歪み上下左右の感覚がなくなり自分が今いったいどんな状態にあるのかすら、分からなくなったと思うと悠夜はいつの間にか見知らぬ森の中に立っていた。