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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第四章 一夜明けて
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「相変わらずデカイな」


 悠夜は昨夜も見た、鳴宮家の道場を見て呟いた。

 光夜も以前は道場を開いていたが、これよりもっとこぢんまりとしたものだった。

 門に近づくと、使用人か何かと思われる一人の女性が出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。風霧殿」

「わざわざ出迎え、ありがとうございます」

「いえ、風霧殿は客人なのですから当然です」


 昨夜、桜を家まで送り届けると、森での出来事を聞いた桜の両親鳴宮茂なるみやしげる鳴宮美月なるみやみずきからとても感謝され、是非お礼をさせてくれと言われたのだ。

 悠夜は別にいいと言ったのだが、相手がどうしてもと聞かず、結局日を改めて食事に誘われることとなった。


「中へどうぞ」


 そう言って、女性は悠夜を道場の中へ招き入れる。


「(単に食事するだけじゃないだろうな)」


 女性の後ろを歩きながら、悠夜は昨夜会った鳴宮茂のことを思い浮かべる。

 銀色の髪と青い瞳を持ち、一児の父親にしては光夜以上に若作りな彼からは、神谷と同じバトルジャンキーの匂いがした。

 食事をとるにしても、まだかなりの時間がある。


「(やっぱり手合せかな?)」


 まぁ、十からいきなり第四級狩人に昇格してしまった時点で、目立たないようにすることは諦めたため、別にかまわないのだが……。


「こちらです」


 そんな考えを巡らせているうちに、悠夜は一つの部屋の前に着いていた。


「当主、風霧殿をお連れしました」

「ご苦労、入ってくれ」


 茂の声が聞こえ、悠夜は中へ通される。

 中へ入ると茂、美月、桜の三人がいた。

 今日は平日だが、怪我のこともあり桜は学校を休んでいるようだ。


「おはよう悠夜くん」

「おはよう桜、怪我の方は大丈夫?」


 お互いに下の名前で呼び合う。

 昨夜、チームを組むのだから下の名前で呼び合おうと、桜がテンパった様子で言ってきたのを悠夜が承諾したのだ。


「ああ、激しい運動はしばらくできないが、私生活にはさほど問題はない」

「そりゃ良かった」

「この程度で済んだのも風霧君のお陰ですよ」

「その通りだ、桜を助けてくれてありがとう」


 美月と茂も会話に加わる。


「いえ、お気になさらず」


 その後しばらくは他愛もない話しが続き、そしてついに、悠夜の予期していた言葉がきた。


「ところで悠夜君、桜から聞いたのだが、君は集中強化という独自の技を持っているそうだね」

「はい」

「是非ともそれを見せてくれないか。これから模擬戦で」


 悠夜はこの状況にデジャブを感じた。


「お父さんっ―!?…………いきなりなにを……」


 桜は思わず大きな声を出すが、それが肋骨に響いたらしく脇腹を押さえて蹲り、後の言葉は絞り出すようなものになる。

 美月の方は、こうなることを予想していたらしく、悠夜に申し訳なさそうな視線を向ける。


「いいですよ」


 集中強化は、すでに大勢の目の前で使っているので、別に見られて困るものでもないし、あまり気は進まないが、断るほどでもないため、悠夜はそれを承諾した。




「ここだ」


 その後、道着に着替えた茂に連れられ、悠夜は一つの扉の前に来ていた。

 中からは、金属のぶつかる音や気合いの入った声が聞こえてくる。


「(思いっきり修練中じゃないか)」

 

 茂が扉を開けると、先ほどの音が止み、視線が集中する。


「皆、今日の修練はここまでだ。ここからは見取り稽古とする」


 茂がそう告げると、門下生達は困惑の表情を浮かべながらも手早く片付けを始める。

 どうやら茂は、ただ悠夜と闘いたかっただけではなく、門下生の指導のことも考えていたようだ。


「使用するのは、強化魔法のみでかまわないかな?君が雷や風の魔法を使うと修復が大変そうなのでね」

「わかりました」

「模擬刀はそこに置いてあるものから選んでくれ。全てきちんと鍛えたものだから、よほどのことがない限り壊れたりはしない」


 悠夜は言われた通り、道場の隅に置かれている模擬刀から、ちょうど良さそうものを選び始める。


「誰だ?あいつ」

「見ない顔だな」

「見取り稽古の相手って、あいつがやるのか?」


 周りからヒソヒソと囁きが聞こえるが、悠夜は気にせず模擬刀を選び、道場の中央で待っている茂の前に歩み出る。

 既に門下生達は道場の端まで退避しており、その中には桜の姿もある。


「準備はいいですか?」


 立会人の美月が確認をとる。


「いつでもいいぞ」

「僕もです」


 茂と悠夜が、それに頷き構えを取る。

 茂は剣術の基礎的な構えともいえる八相、対する悠夜は左半身を前に出し、右手に持った刀を自分の体に隠した脇構えをアレンジしたような構え。

 悠夜の妙な構えにざわめくが、美月が手を上に挙げるとそれもすぐに静まり


「始め!」


 美月の合図が道場に響いた。




 神谷のときとは違い、茂は開始と同時に攻めてこようとはせず、悠夜に観察するような視線を送り続ける。


「(攻めてこないなら、久々にアレをやってみるか)」


 悠夜は構えを解いて刀をダラリと下に下げる。

 茂を含め、道場にいる全ての者が怪訝な顔をする。

 悠夜はそれらを無視して、大胆にも歩きながら間合いを詰め始めた。

 何人かの門下生は、悠夜の奇行に失笑を漏らし、呆れた表情をするが、それはすぐに驚愕へと変わる。


 先ほどまでは、歩きながら距離を詰めていたハズの悠夜が突然消え、いつの間にか茂の目の前まで移動し、模擬刀を振り上げていたのだ。


「っ!?」


 周りと同じく驚愕に目を見開く茂に向かって、悠夜は模擬刀を振り下ろす。

 茂は咄嗟に後ろに身を引き、悠夜の攻撃は道着を掠るだけに留まる。

 そこへ悠夜がさらに一歩踏み込み、追撃を仕掛ける。


「なっ!?」


 ここで、またしても茂と周囲が驚愕に息を飲む。

 悠夜の動きは、予備動作と次の動作がまるで噛みあっていないのだ。

 模擬刀の軌道はもちろん、攻撃のタイミング、仕掛ける際に発する気配までもが、フェイントなんて言葉では、到底片付けられないレベルで変化する。

 初動から次の攻撃を予測しても、いつの間にか攻撃が予測とは違うものへ変わっているため、先読みが意味を成さない、寧ろ逆効果となる。


 これらの特殊な歩法や体捌きは、悠夜がまだ幼い頃、父親であり師範である光夜に勝つため編み出した技術だ。

 当時、体もまともにでき上がっていなかった「過去の悠夜」は、「力」で相手を上回ることは不可能と判断し、ひたすら「技」を磨いて光夜から勝利をもぎ取った。

 ここ一年ほどは「死の森」で、「力」を重点的に鍛えていたが、それでも、「技」を磨くという行為を怠ったことはないので、キレは鈍っていない。

 今では普通の強化魔法にもだいぶ慣れてきたので、動きも滑らかだ。


 茂はこの変則的な攻撃にギリギリのところで対応しているが、反撃の機会を見出せずジリジリと後退する。

 見学している門下生達からは、すでに悠夜に対する怪訝な視線が消えていた。

 もし自分が茂の立場なら、何もできずにやられる自分の姿が容易に想像できたのだ。


「ぐ、おおおおお!!」


 そんな攻防がしばらく続き、このままではジリ貧だと判断した茂が、悠夜の模擬刀を強引に押し返し、後ろに跳んで距離を取ると模擬刀を大上段に構えた。

 それを見た悠夜は、姿勢をやや前傾にし、模擬刀を斜めぎみの下段に構える。

 最初と違い、悠夜の独特な構えに好奇の視線が集まる。

 そして


「せあああああ!!」


 茂が渾身の一撃を放つ。


キンッ


「…………な、に……?」


 しかし、気合いのこもった茂の声は掠れたものに変り、見ていた者は一人残らず言葉をなくす。

 皆の視線の先では、悠夜が身を引き、片膝を突いた状態で茂の攻撃を受け止めていた。

 彼等が言葉をなくしたのは、悠夜が茂の渾身の一撃を受け止めた、ということもあるが、それ以上に模擬刀を受け止めたときの音が原因だ。

 茂が渾身の一撃を打ち込んだにも拘らず、道場に響いた音はほんの僅かなものだった。

 それはつまり、悠夜が茂の攻撃を完璧に見切り、必要最低限のほとんど無駄のない力でそれを受けきったということ。


 悠夜はこのとき、集中強化を駆使して全身の関節を強化し、攻撃を受けると同時に半歩下がり、さらに全身の関節を使いながら衝撃を吸収したのだ。

 強靭な肉体と圧倒的な技量、「力」と「技」の二つが揃って初めて可能となる、「今の悠夜」だからこそ成せる所業。


「はあっ!!」


 そして、悠夜は強化した関節を駆使し、模擬刀を下から跳ね上げるように押し返す。


「ぐっ!」


 凄まじい衝撃に、茂の体が大きく後退させられる。

 そのまま懐に飛び込もうとする悠夜に、茂はほとんど条件反射で返し技を放つが、それより早く悠夜は脚力を集中強化し、床を蹴って一気に加速。

 今までの変則的な動きとは真逆の王道、正面から、ただひたすら速く、最短距離を駆け抜け、振り抜く。


ガキィイイイイイイイン!!


 先ほどと違い大きな金属音が道場に響き渡り、茂の持っていた模擬刀が根元からへし折られた。

 誰もが固まり、静まり返った道場に、宙を舞っていた模擬刀の刀身が床に落ちて乾いた音を立てる。

 それを合図に、止まっていた時間が動きだし、割れんばかりの歓声が上がった。




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