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世界の裏の魔法則  作者: 初日
第三章 初仕事
25/45

23

 大きな魔力の出どころに近付くほど声は大きくなる。

 木々の間を縫って声のする方へ向かうと、少し開けた場所に出た。

 そこには、先攻していた狩人達と大人の身長よりも遙かに大きな鼠がいた。

 見た目は、今まで目にしていた鼠と同じだが、大きさはまるで違う。


「親玉か」


 魔獣の群れには、同一個体型、突出個体型の二つの種類がある。

 同一個体型は悪鬼の群れのように、全てが同じ個体で構成され、その中で最も強い個体がリーダーとなる形の群れ。


 突出個体型は女王蟻のように、一体のリーダーになるべくして生まれてきた特別で強力な個体が、それ以外のものを従える形の群れ。


 今回の討伐対象である鼠は、後者だったようだ。


 すでに狩人側は何人か負傷しているのに対して、巨大鼠は体毛が僅かに焦げていたり、濡れていたりするだけでほとんど無傷だ。


「ダメだ!魔法がほとんど効かない!」

「接近戦を仕掛けろ!」

「バカ!やめろ!」


 相手は、魔法が効き難い体質だと判断した何人かの狩人が接近戦を試み、橘が声を張り上げる。

 今、多くの狩人は一種の錯乱状態に陥っており、逃げ惑う者と無謀な突撃を行う者に二極化していた。橘のように、冷静な判断力を残している者はほとんどいない。


「ヂュオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 巨大鼠が咆哮を上げる。すると、今までどこにいたのかと思うほど大量の鼠が、森のあちこちから姿を現す。しかも、この鼠は今までのように逃げたりせず、巨大鼠の統率の下狩人達に次々と襲い掛かる。


「撤退だ!撤退しろ!」


 橘が撤退命令を出すが、すでに周りは混乱状態となっていた。


「最悪の状況だな」


 早急に親玉を潰さなければ、被害が拡大する。

 そう思っていた矢先、巨大鼠に向かって行く一人の少女が見えた。


「鳴宮よせ!」


 声を上げるが鳴宮は聞かず、巨大鼠に刀で斬りかかる。

 しかし、刀は僅かな切り傷をつけただけだった。

 驚愕に目を見開く鳴宮を巨大鼠が撥ね飛ばし、鳴宮は木に叩き付けられる。

 さらに巨大鼠は、木に叩き付けられ動かなくなった鳴宮に追い打ちを掛けようとしていた。


「チッ!」


 悠夜は、足に強化魔法の魔力を集中させる。これは悠夜が、多式魔法における魔力の流れを普通の魔法に応用したものだ。悠夜の本来の速力に強化を集中させた魔法の『俊駆しゅんく』の劣化版だが、それでも普通の強化魔法しか知らない者にとっては、信じられない速度で駆け出す。

 狩人と鼠の間を鮮やかにすり抜け、ギリギリのところで鳴宮を抱きかかえて巨大鼠の鋭い歯から逃れる。

 標的をなくした歯は、鳴宮の替わりに太い木を一本齧り取る。


「危ないところだったな、鳴宮大丈夫か?」

「…………風霧、くん……?」


 目をきつく瞑っていた鳴宮が、おそるおそる目を開ける。


「ああ、意識はあるみたいだね」

「~っ!?」


 自分がお姫様抱っこされていることに気付き、顔を真っ赤にする鳴宮。しかし、今は月明かりと幾つかの松明しか明かりがないため、悠夜はそれに気づかない。


「ヂュオオオオオオオオ!!」


 巨大鼠が、悠夜と鳴宮を標的に定めて向かって来る。


「少し掴まってくれる」

「え?っきゃああああ!?」


 悠夜は強化を足のバネに集中させ、跳躍で巨大鼠の視界から消え、頭上を軽々と飛び越える。


「こ、これは一体!?」


 鳴宮が混乱した様子で尋ねる。


「あとで話すよ、もうじき着地だから舌噛みたくなかったら、口閉じといた方がいいよ」


 これは、別に隠すほどのものでもない。

 強化魔法を特定の能力のみに集中させる技術くらいなら、公にしてもさほど問題はないだろう。

 そう思いながら、悠夜は足の関節に強化を集中させ、着地の衝撃を体内で分散させる。


「悠夜!」


 そこへ光夜とその仲間達が駆け寄ってきた。他にも何人かの狩人達もいる。


「父さんか、丁度良かった鳴宮のこと頼むよ」

「分かったが、勝てそうか?」

「問題ないよ」


 悠夜はなんでもないといったふうに答える。

 あれくらいなら、本気を出さなくてもなんとかなるだろう。


「え!?」

「問題ないって、いくらなんでもアレはヤバイだろ!」

「そうだね。小さいのもかなりいるし」

「今は引くべきよ」


 腕の中で鳴宮が驚きの声を漏らし、予想通り光夜以外の三人は反論するが


「けど、アレを何とかしないと撤退も何もないでしょう。動けないのもたくさん居るし」


 悠夜の言葉に全員黙り込む。


 現在狩人達は、橘と加勢に来た熟練狩人の指揮の下なんとか落ち着きを取り戻し始めていたが、すでに多くの負傷者が出ており、鼠の群れから負傷者を庇うので手一杯となっている。ここで撤退するとなれば、動けない者は全て見捨てるしかなくなってしまう。


「悠夜なら大丈夫だ。それより俺達は怪我人の救出と応急処置だ」

 光夜が悠夜から桜を受け取り、キッパリ言い切る。

 悠夜の実力を知らない者は「なに言ってんだコイツ?」といった顔をしているが無視する。


「じゃあ派手にやってくる」


 そして悠夜は雷魔法の術式を展開させる。

 これはごく普通の雷魔法だが、悠夜の鍛え上げた魔力量と魔力密度を持ってすれば、かなり無駄な魔力を消費することになるが、そこら辺の狩人とは比べものにならない威力を発揮させることができる。


 そして魔法が発動


バリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!


 耳を劈く轟音が一帯に響き渡り、辺りを照らし、幾つもの雷撃が鼠の群れを薙ぎ払う。

 多式魔法という反則じみた切り札を持っている悠夜にとっては、まだまだ満足できる威力ではないが、一般的な狩人の基準で測れば、達人クラスの狩人が使用した魔法に匹敵する威力なので見ていた全員が度肝を抜かれた(光夜だけはどこか達観したような顔をしていた)。


 愕然となった一同を置いて、悠夜は巨大鼠に向かって駆け出す。今の雷魔法で、目の前の鼠は一掃してあるため邪魔はいない。

 接近する悠夜に気付いたらしく、巨大鼠も悠夜に向かって走り出す。

 その体には幾つもの焼け焦げ傷ついた跡があるが、それでも致命傷には至っていないようだ。

 おそらく、この巨大鼠が他の鼠と違って眩惑魔法を全く使わないのは、持っている魔力のほとんどを魔法耐性につぎ込んでいるからだろう。


「ようやく、コイツの出番だな」


 悠夜は土倉に貰った刀に手を添える。

 今までは魔法による遠距離攻撃ばかりだったので、刀はまだ一度も抜いていない。

 すでに刀はいつでも抜ける状態だ。

 そして、相手と距離が縮まり


「ヂュオオオオオオオオオオオオオ!!」

「ふっ!」


 巨大鼠が悠夜に噛みつこうした瞬間、悠夜はサイドステップでそれを躱す。さらに、その動きに連動して刀を抜き放ち、相手の突進力を利用して刀を深く斬り込ませる。


「ヂュアアアアアアアアアアアアア!?」


 巨大鼠が苦悶の鳴き声を上げて暴れ回る。


「中級魔獣の素材から造ったにしては、随分いい刀だ」


 悠夜は無理に追撃しようとはせずに、刀に着いた血糊を掃い、刃こぼれがないことを確認する。


「ヂュオオオオオオオオオオオオオ!!」


 怒りに満ちた鳴き声を上げる巨大鼠。

 すると、悠夜の雷撃から逃れた残りの鼠が、橘達に襲い掛かっていたものも含めて全て悠夜の方へ向かう。巨大鼠は、悠夜の排除を最優先事項と判断したらしい。


「風霧くん!!」


 桜の叫び声が聞こえるが、悠夜にとってはたいしたことではない。

 四方八方から飛び掛かってくる鼠を刀で切り裂き、風で吹き飛ばし、雷で焼き焦がす。

 まるで嵐を身に纏ったかのような悠夜は、鼠の包囲網を正面突破し、巨大鼠に再び接近する。


「ヂュオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 巨大鼠の方も歯や爪で対抗しようとするが、悠夜は目の前まで肉薄した途端、強化魔法を跳躍力に集中させる。


タッ タッ タッ


 悠夜は周囲の木々を足場にした三次元的な動きで、巨大鼠を撹乱し、その頭上へと高く飛び上がる。

 悠夜の眼下では敵を見失った巨大鼠が、慌てたように自分の周囲を見回していた。

 そうしているうちにも、悠夜の体は重力に従って自由落下を始める。

 地面と共に巨大鼠が近くなる。

 そして、悠夜は刀を逆手に構え、強化を腕力に集中させ、ぶつかる瞬間に刀を突き刺す。


「ヂュアアアアアアアアアアアアア!?」


 刀が背中に深々と突き刺さり、のた打ち回る巨大鼠。


「まだ足りないか」


 しかし、深々と突き刺さった刀も仕留めるまではいかなかったようだ。


「だったら」


 悠夜は刀を強く握りしめ


「これでどうだ!!」


 刀を対象に雷魔法を発動させた。


バチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!!


「ヂュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 雷が周囲を白く染める。


 いくら魔法に対して高い耐性を持っていても、体内に直接雷流を流し込まれては、ただでは済まない。


 巨大鼠は断末魔を上げ、ついに動かなくなった。




登場人物紹介に鳴宮桜を追加しました。

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