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「はぁ!」
開始と同時に、神谷が強化魔法を発動させ、一気に距離を詰めてハルバードを上段から振り下ろす。
「はっ!」
悠夜も強化魔法を発動し、刀を振り下ろされたハルバードの側面に当て、ハルバードの軌道を逸らす。狙いを外された神谷のハルバードが地面を抉る。悠夜はハルバードを弾いた後、すぐに体を沈み込ませて足払いを仕掛け、神谷が身を引いてこれを躱す。そこを悠夜が刀を斬り返して狙うが、それは神谷が瞬時に引き戻したハルバードの柄に受け止められる。
「ふん!」
そして神谷は力任せにハルバードを押し返し、悠夜はその力に逆らわず地面を蹴って距離をとりながら、空中で発動させた雷魔法を神谷に向かって放ち、神谷は身を捻ってそれを躱す。
両者の間に距離が空く。
「いい腕だな」
神谷が素直に賞賛する。
素人では、何が起きているのかまるで分からないほど高速のやり取りだった。
この年でここまでできる者を神谷は知らない。
「だが、そんなものではないだろう!」
神谷は片手を地面に叩き付け土魔法を発動させる。すると手を叩き付けた地点から悠夜に向かって、地面が隆起する。
悠夜はこれを横へ跳んで躱す。
「まだだ!」
しかし、それだけでは神谷の攻撃は終わらない。
今度は地面に手を突き刺して掘り返し、無数の礫を悠夜にけしかける。
「チッ」
回避するには範囲が広すぎる。悠夜はしゃがんで自分に当たる軌道の礫を少なくし、その少なくなった礫の軌道上に風魔法を発動して礫を撥ね飛ばす。
礫が止むと悠夜はすぐに地面を蹴って接近を試みる、しかし、神谷まで後少しのところで、壁の様になった土が下から現れ、行く手を遮る。かと思いきや、その壁からハルバードが突き出してきて悠夜を狙う。
「くっ!」
防御に見せ掛けた攻撃を、刀を使ってギリギリのところで弾く。
だが、その代償として刀は刀身が完全に曲がってしまった。もう、使用は不可能だろう。
絶体絶命な状況である。
しかし
「(すごい)」
悠夜はこの時、神谷宗次朗という一人の人間を心の底から賞賛していた。
彼の使っている術式は全て、魔法を発動する上で最低限の工程しか含んでいない。
悠夜が使う本来の術式と比べれば、稚拙とも言える代物だ。
にもかかわらず、神谷はそんな術式のみで多彩な戦法を繰り出してみせた。
これだけのものを見せられて、自分だけが手の内を隠し、手を抜いた戦いをする訳にはいかない。
自分が慢心していたことに、気付かせてくれたという感謝の念もある。
「神谷さん。あなたは、人の実力を言いふらしたりしない。そう言いましたね」
「?……そうだが?」
突然、戦い始める前の話を振られ、頭に疑問を浮かべる神谷。
「神谷さん、今まで手を抜いていたことを謝罪します。それと、ここからは本気でいきます。」
そう言った瞬間、悠夜の纏う雰囲気が変わった。
「っ!」
神谷が悠夜の雰囲気の変化に息を飲み、身構える。
そして悠夜は、一切の自重を捨て、
彼本来の魔法を発動させた。
属性系統魔法(風) 風裂
バン!
「ぐっ!?」
悠夜が曲がった刀を投げ捨て、掌を前へ突き出すと同時に、凄まじい破裂音が響き、高速で打ち出された空気塊が神谷を襲う。神谷は咄嗟に防御するが、衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされる。
悠夜はまだ空中に居る神谷に追撃を加えるべく、吹き飛ばされた神谷を追って距離を詰める。
「おおおおお!!」
神谷はそれをハルバードで迎え撃つ。
安定しない姿勢で振るったとはいえ、今の悠夜は無手、防ぐのは常識的に不可能。
神谷は、そう思っていた。
しかし、自重を捨てた悠夜に常識など通用しない。
強化系統魔法(肉体強化) 凱皮
強化によって、皮膚の硬度を極限まで高め、素手で神谷のハルバードを受け止める。
ギャイイイィン!
「!?」
ハルバードと素手がぶつかり合って火花が散るという、あまりにも現実離れした光景に絶句する神谷。
だが、神谷もこれで終わりではなかった。
「くらえ!」
神谷は接近してくる悠夜に向かって、雷魔法を発動させた。
これは神谷の隠し玉。神谷が雷魔法を使えると知っているのは、ほんの一握りの者しかいない。
当然悠夜が知る由もないし、この至近距離なら回避も間に合わない。
しかし、悠夜は慌てることなく対処する。死の森には、隠し玉を持った魔獣も多くいたので慣れたものだ。
属性系統魔法(雷) 雷導
空中に雷の通り道を造り、神谷の雷撃を誘導する。
この魔法、雷導は本来、相手の雷属性の魔法を受け流すことを目的とした魔法だ。
だが、一定以下の威力の雷魔法であれば、受け流すに留まらず、跳ね返すことも可能となる。
そして、Uターンさせた神谷の雷撃が神谷自身に直撃し、
「ぐああああああ!!」
「そこまで!」
勝敗は決した。




