表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい闇  作者: 早野 紫希
第1章
4/21

第4話

 階下の居間でのん気に食事を取る祖父と真菜穂。

 今日の朝食は、白米にわかめと豆腐の味噌汁、鯵の焼き魚に大根の漬物。何とも和風で質素な朝食だろうか。

だが、日常における会話というものは希薄で、食事中は私語を謹んで食べるというのが祖父の教えのひとつだ。真菜穂はそれに習い、黙々と食べ続ける。

ふと箸を置く。沈んだ暗い孫の顔が祖父の目の前にあった。祖父はそれについてとやかく言うことはなかった。

 「緋雨…、大丈夫かな……」

 不安を口にしながら食事を口に運ぶ。祖父は「うむ」とだけ返し、再び黙々と食べ続ける。

 もし緋雨が自分に牙を向けてきた時、真菜穂は『言霊』という『敵意』を向けられるのだろうか。何年も一緒に生活してきた『相棒』に対して、攻撃できるだろうか。

 それがどうしようもなく不安だった。本来、式神は決して主主に牙を剥くことはあり得ない。しかし、今の緋雨は『呪』を負っている。普段は起こりえないことが起こる可能性の方が高いのだ。

 「ほれ、どんどん食べんか。早く食べんと冷めて不味くなる。―――大丈夫じゃ、緋雨はしっかりしておる」

 珍しく食事中に祖父が口を開き、発した言葉は真菜穂への励ましの言葉。普段は滅多に励まさないのだが、これ程までに沈んだ顔をした孫を見たことがなかったのだろう。

 不意に出た祖父の言葉は、ゆっくり真菜穂の心の奥に染み込んでいく。そんな事がある訳はないと、ようやく言い聞かせることができた。

 「そう、だよね…」

 祖父に諭され、再び箸を進める。今日の鯵は少しばかりしょっぱかった。その時、祖父がポツリと零した小言。

 「この鯵、少しばかりしょっぱいわい」

 真菜穂はそれを小耳に挟み、分からぬように苦笑する。

 数分後、食器の中をからりと空け、キッチンに下げる。そして緋雨に食べさせようと今の菓子盆から取ったのは、熟れはじめたミカン。狼の癖にミカンが大好物なんてどうかしていると思いながら、足早に部屋に向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ