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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
エピローグ
84/101

おまけ

 主人公×犬×婚約者×オウム二羽。

 ある夜の話。

「ご主人さま、好きー」

「はいはい」

「ご主人さま、好き好きー」

「はいはい」

「ご主人さま、好き好き大好きー」

「はいはいはい、私も大好きです」


 いつもの如く、ミレの膝には犬が寝転がっていた。うとうとと眠たげで、ミレに優しく頭を撫でてもらっている。

 夕食後、就寝前のひととき、ミレはシャレムと共にソファで寛いでいた。ソファの横には専用台に錬鉄製の鳥籠が二つ鎮座して、オウムが二羽休んでいた。アーティスの飼い鳥ドナとミレの誕生日に贈ったドナドナ(ミレが命名)だ。

 猫足の優美な肘掛椅子には今夜一晩宿泊予定の(残念ながら部屋は別だ)アーティスが歴代の裏総帥の手記をゆっくりと捲りつつ、ミレと他愛のない会話をしていた。

 ふと話が途切れ、心地よい沈黙が訪れた。

 アーティスは手記から眼を上げた。

 髪をおろして素顔でいるミレにこっそり見惚れながら考える。

 せっかく夜遅くまで一緒にいられるのだから、犬を退けて恋人を甘やかしたい。問題は犬をどううまく退かすかだが……。

 そのときムニャムニャと犬が呟いた言葉が冒頭である。

 アーティスはあまりの衝撃にすぐには動けなかった。

 ミレはシャレムの髪を耳にかけ、唇を頬に寄せて軽くキスしている。


「……」


 アーティスは手記を閉じて小卓に置き、ガタリと音を立てて腰を上げた。

 ミレの前に立ち、指で自分の顔を指して「……」と無言の問いをかける。


 ――私は?


 と、訊ねたくても声が出ないのは、今更ながら衝撃的事実を目の当たりにしたためだ。


「なんですか」


 ミレが訝しそうに首を傾げる。

 アーティスは喉を鳴らして息を呑み、眩暈に堪えるよう額に手をやった。


「なんですか、って……ちょっと待ちなさい。い、いま気がついたのだが、私はまだ君に『好き』と言われたことがない」

「そうでしたっけ」

「そうでしたっけ、じゃないだろう。これは由々しき問題だ!」

「おおげさです」

「私にとっては大問題だ」


 大真面目に言う。

 声が緊張を孕んでいたため、敏感にそれを察したドナとドナドナが同時にビクリと眼を醒まし、「ギャアギャア」と羽ばたき、騒ぎ立てる。


「で?」


 アーティスは腕組みし、不機嫌面でミレに迫った。


「はい」


 ミレは無意識のままシャレムを撫でている。犬は気持ちよさそうにぐーっと寝入って「ゴハンオカワリ」と寝言を漏らしている。


「私にも『好き』って言いたまえ」


 ミレはアーティスをじっと見返して言った。


「私も『好き』なんて言われたことがありません」


 アーティスは(ひる)んだ。眼が曖昧に泳ぐ。


「そ、それとこれとは」

「同じです」


 まったくだ。


「……」

「……」


 アーティスもミレもモジモジした。

 非常に気恥ずかしい心地でいっぱいで、互いにそう感じているのがわかった。


「……また次の機会にしよう」


 いざとなると、二の足を踏んでしまうのはなぜだろう。

 アーティスが残念至極の気持ちで諦めてそう言うと、ミレはホッとしたように微笑し、「はい」と短く答えた。


 ……かわいい。


 アーティスは、こんなにかわいいひとが恋人だとはなんて幸運なのだろう、と深く感動するあまり猛烈にデレてしまった。

 ついうっかり、


「……してる、んだけどなぁ」


 本音が漏れてしまい、慌てて口を塞ぐ。

 それを嘲笑うかのように、ドナがけたたましく鳴いた。


「ミレ、アイシテルー」


 また同調連鎖するかの如く、ドナドナが甲高く鳴いた。


「アーティス、ダイスキー」


 間。

 間。

 間……。


 アーティスとミレは気まずそうに顔を合わせ、照れてしまい、同時に俯いた。


 

 秋の夜長、たまにはこんなこともある、そんな一日の終わり。



                           これにて本当に、完

 ありがとうございました!!

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