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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
エピローグ
82/101

迷惑な溺愛者

 完結です。

「すべて思い通りになって満足?」


 芸術家が腕を組んで扉に寄りかかり、長い足は持て余したように交差している。

 キャスは午前の執務の最中で、執事を傍に置き決裁を処理する手を休めず応じた。


「なんのことだ」

「優秀な裏の後継者を無条件で得たばかりか娘婿に迎えてさ」

「まだ婿じゃない」

「時間の問題だし。それもお嬢さんにベタ惚れ、骨抜き、甘やかし放題。毎日花とお菓子を持って通ってくるなんて相当だよ。いったいいつからこうなるように画策していたのか、ぜひとも教えて欲しいね」

「画策?」


 キャスの口角がわずかに綻ぶ。


「していないとでも? 本命は兄王子君か弟王子君のどちらかで、僕、聖職者、闇騎士、大商人は完全にあて馬だったんじゃない?」

「いや、私はおまえたちの誰がミレの伴侶となってもかまわなかった」

「ふうん、そう。……本当に?」


 キャスが真顔で頷くと、芸術家は嬉しそうに指で鼻の頭を掻き、「だったらまあ……いいや」とごねることもなく納得した。

 キャスが認めた求婚者四人の実力は互角。

 いずれも心身ともに悪の中の悪、根っからの闇の住人で、最近になりメキメキと頭角を現してきた。

 キャス自ら選び抜いた精鋭中の精鋭だ。なんの不足もあるわけがない。

 ただ問題は、限られた相手を除いては愛情を注がないミレにあった。

 どうすれば人並みの幸せを得られるのか。

 考えた挙句、生活環境を変え、算数術という研究を封印し、読書を一時禁止することで、興味の対象を他に向けることはできないかと目論んでいた折りに――『王子殿下のお話し相手』という相談が持ち込まれたのだ。

 芸術家は虚脱したように天井を仰いだ。


「……大事な大事な奥さんの忘れ形見だもんね。そりゃ、過保護にもなるよね。だけどさ、溺愛するのも考えものだよ。危険がすぎるよ」

「だから、なんのことだ」


 キャスはまるで動じず、なに食わぬ顔でうそぶいた。


「最近ちまたで噂の白昼変死刺殺事件。怖いよねー。道を歩いていたらサクッと刺されて一巻の終わり、なんてさー。あれ絶対、同業者の仕業。それもものすごく腕のいい国家の(ダベル・ダラス)のお仕事だよ」

「そうか」

「あ、とぼけるんだ? いくらかわいい娘や娘婿の明るい未来のためとはいえ、あなたが直接手を下すような無茶な真似は避けた方がいいと思うけどね、僕は。もう若くないんだからさ」


 踵を返す。


「芸術家」


 振り返る。


「……余計なことを言うなよ?」

「もちろんさ」

「この情報は、売るな」

「口止め料――と言いたいところだけど、ご祝儀ということでオマケしておくよ」

「ミレを守れ」

「命にかえても」


 来たときと同様、揺らめく陽炎のように芸術家は姿を消した。

 キャスは決裁をすべて完了させると執事を下がらせた。

 後ろ手を組み、窓辺に立つ。

 ミレが屋敷に戻ってきてから一ヶ月が経とうとしていた。

 秋のやわらかい日溜まりの中、愛しい娘ミレと婚約者のアーティス、お忍びで訪問しているユアンと彼らの側近が一名ずつ、それに犬、聖職者、闇騎士、大商人、諜報員が敷物を広げてお菓子とお茶を囲んでいる。そこへ芸術家も加わった。

 見るからにとても楽しそうだ。

 キャスは踵を返し、外出着に着替えて武装した。服に不審な皺がよらぬよう、丹念にみだしなみを整える。

 ミレとアーティスの婚約が正式に公表されて以来、王家に確執のあるものや政治的立場の異なる貴族の面々からありがたくもない襲撃が激増した。

 そのことごとくを、キャスは返り討ちにした。

 だがやられてばかりはいられない。

 やられたらやり返す。それも倍返しが信条だ。

 ましてやミレを狙われたら、黙ってなどいられない。


「私の娘に手を出したらどうなるか、身をもって知らしめてやろう」



 最強の溺愛者は凶悪な冷笑を浮かべ、物影に待機していた墓掘り人二名を連れて、静かに屋敷を後にした。



           




















 ありがとうございました!




                     迷惑な溺愛者  完  2013・2・3 安芸


 迷惑な溺愛者 完結です。

 最後までお付き合いいただきました皆様、ありがとうございました。心よりお礼申し上げます。


 のちほど、オマケをUp予定。

 余裕ができたら、番外編小話などを何編かあげたいな、と思っております。

 一言コメント、感想、ツッコミ、などありましたらいただけると嬉しいです。

 

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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