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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第一章 王子殿下のお話し相手
8/101

七 捕まりました

 兄王子との低次元な攻防。


*当物語はあらすじ注釈をご覧の上、あっさりとお愉しみください。

 

      六


 ユアンのもとを退出し、食堂で夕食を終える。

 そして部屋に戻る道すがら、ミレはばったりアーティスと出くわした。

 五、六名の側近か誰かと会話をしながら、向こうからやってくる。

 ミレがアーティスに気づくのとほぼ同時に相手もミレに気づいたようだ。

 ミレは素早くまわれ右をした。一生懸命走って逃げたのに、あっという間に追いつかれ、ガシッと両肩を掴まれてしまう。


「……道もあけず、私の顔を見て逃げ出すとはいい度胸をしているじゃないか。一言も挨拶もないのかな? ん?」

「こんばんは。さようなら」


 だが挨拶をしても放してもらえない。

 クルリといとも簡単に身体の向きを変えられ、不敵な眼をしたアーティスと否応もなく対面する。それどころか、強引に肩を抱かれて窮屈な体勢に拘束された。

 すぐ近くにあるアーティスの顔に冷笑が浮かぶ。


 嫌なひとに会ったなあ、とミレは思った。


 アーティスの片眼が細められ、口角がうそ寒い形に持ち上がる。


「……いま、嫌な奴に会ったなあ、と思っただろう?」


 そのものズバリだ。


「……」


 ミレはヒクッと口元を歪めて、眼を泳がせた。

 アーティスの碧眼が意地悪にきらめく。よくない兆候だ。


「君の非礼を罰してあげたいのは山々だけど」

 

 ツン、と長い指で額を小突かれる。


「……あいにく、まだ仕事が残っていてね。残念だけどかまってあげられないんだ。君で愉快に遊ぶのは次の機会にしよう」


 アーティスの腕の力が弱まり、ミレはほっとして気をゆるめた。

 その一瞬の隙を衝かれた。

 大きな手に後頭部をグッと支えられて、斜めから唇を奪われる。一度きつく舌を吸われたため、背筋がビリっと感電したかのように痺れた。

 アーティスは「ふ」と呼吸をひとつ漏らしてから、ミレの唇を遠ざけた。


「……続きは、また今度」

 

 あくまでも爽やかに、揚々とした口調でアーティスが言った。

 ミレはむずがるようにアーティスの腕から抜け出した。口を指で拭いつつ、ぶっきらぼうに訊ねる。


「……私にこんなことをして、楽しいのですか」

「楽しい」


 即答されて、さすがにミレは困惑する。


「私は楽しくないです」

「私が楽しいからいいんだ」


 アーティスはヒラヒラと手を振りながら、彼を待つ皆のもとに行きかけて、思いついたように肩越しに振り返った。


「甘い唇のお礼に、あとでなにか飲み物でも届けよう。なにがいい?」

「水」


 ミレの言葉に、アーティスはなにがおかしかったのか、「クッ」と噴き出した。短い髪を無造作に掻き上げて笑う。

 ひとしきり「ははははは」と笑声を転がし、俄かに笑いをおさめると、アーティスはニヤニヤしながら言った。


「……君は本当に面白い子だね。わかったよ、では、大人の水をお届けしよう。就寝の用意をして、少し待っていたまえ。おやすみ、ミレ殿」

 

 大人の水。そんなものが王宮にはあるのか。

 

 と、ミレはひそかに感心しながら、言葉にしてはこう返答した。


「おやすみなさい」

 

 アーティスとその連れの姿が完全に見えなくなるまで見送って、ミレはどっと疲れた身体を押し、今度こそ無事に部屋に戻った。


 こんばんは、安芸です。

 不意打ちキスの巻。

 次話、三番目の溺愛者、登場。

 

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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