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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第一章 王子殿下のお話し相手
7/101

六 叱られました

 沈黙は、手抜きではありません。

 

     五



「殿下、ミレ殿をお連れ致しました」

「入れ」


 扉の向こうより、ユアンの甲高い声の応答がある。

 ヴィトリーが、こそっとミレの耳に忠告を囁いた。


「……少々、ご機嫌斜めのご様子。どうぞお気をつけて」


 ミレは一応頷いておいた。

 他にどうするすべもない。


「そこに座れ」


 指示に従う。示されたのは、昨日と同じく寝台傍の椅子だ。

 そしてユアンは寝台の背凭れ部分に寄りかかり、妙にふてぶてしい態度で本を読んでいる。


「……」

「……」


 長い間。

 ユアンがページをめくる。


「……」

「……」


 長い間。

 ユアンがまたページをめくる。


「……」

「……」


 そのまま。

 一時間(ハース)二時間(ハース)三時間(ハース)経過……。


 いきなり、ユアンがぶち切れた。


「いいかげんにしろよ、おまえっ」

 

 壁際で立ったまま居眠りしていたヴィトリーがビクッとして姿勢を正す。

 ミレは眼をしばたたかせた。


「はい」

「『はい』ではない! なぜうんともすんとも言わぬのだ! おまえは私の話し相手なのだろう。それなのに何時間も何時間も何時間も黙りこくって――一昨日といい、昨日といい、今日といい、なんなのだ、おまえはっ!?」


 ミレは淡々と答えた。


「殿下が黙っておられるので黙っていました」

「……」

「殿下が黙っておられるので黙っていました」

「ええい、二度繰り返さずともちゃんと聞こえている」

「そうですか」

 

 ユアンは眉間を指で押さえた。

 大人びたしぐさも様になっている。


「……つまりおまえは、私が話しかけてはじめて返事をするというのか?」

「はい」

「真逆だろっ」

 

 ユアンは乱暴に本を閉じて、邪魔そうに放り捨てた。

 ミレはすぐ席を立ち、本を拾い、装丁をきちんと払って両手で差し出した。

 ユアンは見向きもしない。

 癇癪を起して燃える眼でミレをじっと睨んでいる。

 ややあって言った。


「……おまえは『話し相手』の仕事の基本がなにもわかっていないのだな。いいだろう、こうなったら、私が自ら教えてやる」


 ヴィトリーが焦って口を挟む。


「殿下、それではお立場がありません。それこそ本末転倒というもの――」

「うるさいっ」


 ユアンはヴィトリーを一言で黙らせるとミレに質した。


「返事は!」

「わかりません」

「ぶぶーっ!」

「ヴィトリー!」

「はっ、はいいっ。決して、爆笑してなどおりませんっ!」

 

 ミレは真面目に答えたつもりだったが、ユアンはそうと受け取らなかったらしく、激怒している。


「ふざけているだろ」

「いいえ。ただ」

 

 ミレは俯き、首をすくめた。


「『はい』と『いいえ』のどちらが正しいお返事なのか、わかりません」

「……っ。王子である私への返事はすべて『はい』に決まっている」

 

 ミレはそういうものか、と納得し、素直に「はい」と答えた。

 ようやくユアンは満足そうな、胸のすいた表情を浮かべた。


 ユアンは口うるさくていけないが、意外に親切なのかもしれない。

 話し相手の基本というものがあるならば、それはぜひ教えてもらおう。と、ミレは思った。


 ようやく少し気が落ち着いたのか、ユアンはミレが差し出したままの本を受け取って脇に置いた。


「では明日からは、いちいち私に呼ばれなくても毎日ここへ来い」


 ミレはコクリと首を縦に振った。


「わかりました」


 そこでふと、ユアンが顔を曇らせた。眼が一点に吸い寄せられている。


「……その赤い痣はなんだ?」


 指さされたのは、首筋。

 ミレは昨日アーティスに押し倒されたことを思い出して不快になった。


「吸われたのです」

 

 途端にユアンは顔を険しくした。


「相手は誰だ」

「殿下の兄君です」

 

 ミレの陰気な返答にユアンが驚愕し、眼を大きく瞠った。


 

 こんばんは、安芸です。

 現実逃避からはじめた迷惑~でしたが、この一週間、楽しかったです。びっくりするくらい大勢の方にお付き合いいただけて、光栄です。ありがとうございます。

 そろそろ、愛してる~の原稿に戻ります。一週間お休みした分、頑張らないと。

 迷惑~は次話、兄編です。更新できるときにかけます。気が向いたときにでも覗いてみてください。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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