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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第一章 王子殿下のお話し相手
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五 誘惑されました

 前話の続き。

 悪い男にはご用心。

「……いけないね」

 

 手首を両方とも押さえられ、鼻先が触れるほど、アーティスが顔を近づけてくる。

 アーティスは先程とは別の意味で怖い微笑を浮かべていて、怒気を孕んだ声で続けた。


「……無防備すぎる。警戒心はないのかな? 君がいくら人間に興味がないとはいえ、相手もそうだとは限るまい」

「重いです」

 

 文句を言っても、アーティスは退ける気配がない。


「ましてや、君は若くてかわいい、か弱い女性だ。男の前で眼を瞑って寝転がるなんて、どうぞ襲ってくれと言っているようなものじゃないか」

「襲うのですか」

「襲われたい?」

「いえ、別に」

「淡白だな」


 ちょっとがっかりしたようにアーティスが顔を歪める。


「だいたい君は私を見てなんとも思わないのかね? 普通の女の子は、どきどきしたり、きゃあきゃあ言ったり、ときめきすぎて失神したり、色仕掛けをしてきたり、なんとか私に気にいられようと必死になるのだよ」

「なぜですか」

「なぜって……」


 素でミレが訊ねると、アーティスはそんなことを追求されるとは思わなかったのか、不意に口ごもり、まじまじとミレを見た。

 そして「ぷ」、と噴き出した。大口開けて笑う。


「あっはっはっはっ! 君はなかなか面白い子だね」

「殿下には『変な女』と呼ばれました」

「それもあながち、間違いではない。それに……なんというか、こう、苛めたくなるね」


 ミレが嫌そうに口を曲げると、アーティスはますます機嫌をよくした。


「……君なら、まあ、よしとしよう。少し様子を見させてもらおうか」

「なにをですか」

「『話し相手』とかこつけて、色々悪さを目論むろくでなしはどこにでもいる。特に女性は、男にはない武器を持っているし、ね」


 ミレは真顔で考えた。


 男性にはない女性の武器?


 まったく思い当たらず「私は持っていません」と答えたところ、アーティスは天を仰いで笑った。


「いやいや、君だって、まずまずのものを持っているとも。まあ、数年先がもっと愉しみではあるけれど」

「そうですか」

「どうでもよさそうだね。まあいい、武器云々はともかく、君は面白いから、ユアンも懐きそうだ。いや、懐きすぎるかもしれないな」


 いつまでもごたくを並べるアーティスの重みに耐えかねて、ミレは訴えた。


「いいかげん、退いてください。本当に重いです。潰れそうです」

「ああ、そうだった。つい、君の上にいるのが心地よくて。悪かったね」


 悪かった、と言いながら、アーティスはミレの足の間に膝を立て、頭の横に肘をついて、より密着し、覆いかぶさってきた。

 顎を摘まれ、唇を奪われる。

 一度では満足できなかったのか、二度、三度と繰り返された。

 アーティスが熱い吐息を漏らして、コツン、とミレと額を合わせて呟いた。


「……なんてやわらかい唇だ。舌がとろけるようじゃないか。ン……これは……キスだけでは全然、物足りないな。ねぇ、どうだろう? 君さえよければ、今夜、私の部屋に来ないか……?」


 甘い声、艶っぽい眼で誘惑される。

 だがミレはその気になるどころか、ゾワッと背筋に悪寒が奔った。


「行きません」

「来なさい」

「行きません」

「私が来なさいと言っているのだ。来なさい」

「行きません」

 

 不毛な応酬。

 嫌気がさした口調でミレが再三断ると、アーティスは甘い顔から一転、冷たい顔へと変貌した。


「へぇ……私の誘いを断ると? どうしても? 君は勇気があるなあ」

「怖いひとは苦手です」

 

 ミレが率直に告げると、アーティスはきょとんとし、ついで甲高い声を弾けさせた。


「私が怖いだって? どうして。こんなに優しくしているのに」

「あなたは怖いひとです。ですから、もう私にかまわないでください」

 

 怖いものには、近づかないに越したことはない。

 

 だがミレの嘆願とは裏腹に、アーティスはにっこりと、悪い微笑を浮かべた。


「私は天の邪鬼だから」

 

 チュ、と不意に、首筋にキスされる。

 鈍い痛み。なにをされたのか、自分では見えないのでわからない。

 より狂暴な、ねっとりとした深い声で、アーティスがミレに囁いた。


「……かまうなと言われると、かまいたくなる」

 


 こんばんは、安芸です。

 明日も更新予定。

 気が向いたら覗いてください。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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