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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第三章 王子殿下の恋のお相手
59/101

十二 困ります

 久々の更新。

 前話に続き、ミレ&アーティス+ドナ。

  *脱字発見のため一部修正 11/16

 


 ミレは今日の午後あったことを喋った。

 アーティスは相槌を打つこともなくただ黙って話を聞き終えると、酒のお代わりを注ぎながら言った。


「おそらく君は、ユアンの初恋だ。……どんな気分だね?」


 ミレは細い眉をへの字に曲げてむっつりと答えた。


「困ります」

「はっ。一国の王子二人を本気にさせておきながら『困る』か。まったく……無欲というか、ひとが悪いというか。君はおかしな女性だ」


 アーティスはクッと笑った。だがその笑みは哀しげで憂いを含み、痛々しさにみちていた。ミレの眼には自虐的にさえ映った。

 なぜこんな表情をするのだろう、とミレは訝しんだ。

 アーティスは思案気に酒を飲みながら、やや乱暴な口調で囁いた。


「……まあ、初恋は実らぬものと相場が決まっている。ユアンにはしばし泣いてもらうより仕方ないな。本当は幸福な恋をさせてやりたかったが……こうなった以上どうしようもない。ここをひとりで乗り越えるのも、大人の男となるための試練だな」

「こうなったとはどうなったのです」


 ミレが訊ねると、アーティスはおかしなことを訊くなといわんばかりに瞳を尖らせた。


「ユアンは君を好きだと自覚し、君に堂々告白したのだ。君は返答する義務があるだろう。とはいえ、その返事が否である以上、ユアンは涙を呑むほかあるまい」


 アーティスは飲みかけの杯をテーブルに戻した。上半身を捻ってミレに向く。


「それともまさか、ユアンにいい返事をするつもりではないだろうね……?」


 凄みを増す眼が怖い。

 瞳孔が蛇の如く光り、威嚇するかのようにじりっと迫って来る。

 ミレはちらちらと扉に視線をやって逃亡の機会を窺いながらも、言うべきことは言った。


「私はユアン殿下のお気持ちに応えられません」


 父の決めた相手となるならば話は別だが。

 でもたぶん、ユアンは父の眼には留まるまい、とミレは思った。

 ユアンはまっすぐすぎる。腹芸を得意とする父キャスの好む性分ではないだろう。むしろ――。

 ミレはアーティスをちらっと見た。

 たいがいなにを考えているのかわからないこのひとの方がいかにも父の選びそうな男ではある。


「……」


 そこまで考えてミレはブルッと身震いした。

 ありえそうで、怖い。

 王子妃などいやすぎる。ましてや第一王位継承権を弟に譲り、挙句、裏から政権を牛耳ろうなどと目論む男の妻など絶対にごめんだ。

 ミレは勝手に思い巡らした想像を打ち消すように激しくかぶりを振って、おもむろに身体を引いた。

 その動作をどう見たのか、アーティスは面白くなさそうにいっそう剣呑な態度に及んだ。逃げるミレの手首をとらえ、ぐいと手前に引っ張り、ほとんど強引に腕の中に引き込まれる。


「話はわかった。できるだけ早く決着をつけるべくことを進める。それまで君はもう少々おとなしく待っていなさい」


 なにをだ。


 アーティスが水面下でやっていることに興味はないが懸念はある。

 なにを企もうと勝手だしなにも望まないから、自分を巻き込むのだけはやめて欲しい、とミレは切に願った。


「放してください」

「放すとも。君がもうユアンに近づかないと約束してくれれば」

「できません」


 本当はできればそうしたい。

 だがミレはそもそもユアンの話し相手として召喚されたのだ。役目を放棄するならば王宮にいる意味がない。

 つくづく、面倒なことになった。

 ユアンはミレが傍を離れることを許さないと言い、アーティスは近づくなと言う。そしてミレ自身は帰りたくても帰れない。

 いっそ父に直接、帰宅したいと嘆願しようか。

 それは一瞬、名案に思えた。だがすぐに廃案にした。そもそも、王直々の要請とはいえ、父がなんの思惑もなくミレをこんな場所に送り込むはずはない。用済みとなるまで家には帰れないのだろう。

 建前と本音を使い分け、裏にも表にも顔が利く。

 我が親ながら、なにを考えているのかわからない点ではアーティスを上回る。

 いずれにしても、ろくでもないことに決まっているのだろうが。

 ミレは「はー」と嘆息した。


「悩ましげな溜め息じゃないか。物思わしげな顔をしてなにを考えている?」


 アーティスはミレを解放した。

 気がつけばアーティスが両膝に両肘をついて指を組み、顎をのせながら下からミレを覗き込んでいる。本当に、ムダに顔がいいとミレは感心した。


「面白くもないことです」

「面白くなくとも、それは建設的なことかね」

「いえ、別に」

「非建設的なことならば、腐るだけ無駄だ。それよりも私のことを考えたまえ」

「なぜですか」

「多少は気持ちが動くかもしれん」

「なにに」

「私に」


 ミレは虚ろな眼をして黙りこくった。


「……」

「……」

「……」

「……そんな憐れむような眼で見るな。私が空しくなる」


 アーティスは膝を伸ばして立ち、折った腕にシャンデリアの上で翼を繕っていたドナを呼び寄せる。

 ドナはギャアギャア喚きながらも素直にアーティスの腕に舞い降りた。


「よーし、よし。いい子だ」


 飼い鳥の喉を指でくすぐり褒めてから、アーティスはぼそっと呟いた。


「私が君の眼中にないことはもとより承知の上だ。それでもいま手をこまねいて君を他の男に奪われるよりはましだからな」

「なにをおっしゃっておられるのか、わかりません」

「つまるところ、覚悟を決めなさいということだ。私は欲しいものを諦める男ではない」


 ミレはちょっと考えて、すぐには信じ難い思いつきを口にした。


「欲しいものとは私のことですか」

「他に誰がいる」


 寒くもないのに鳥肌が立った。

 ミレはまさかと思いながらも確認してみた。


「口説かれているみたいですが」

「最初から口説いているだろう!」


 苛立たしそうに睨まれてミレは竦み上がった。これでは口説かれているというより、脅されていると言った方が相応しい。

 アーティスが仏頂面で腕を揺すると、ドナは飛び立ち、そのままボテッとミレの膝に転がり込んできた。ミレは無意識のままドナを胸に抱き抱えた。

 アーティスはミレをじっと見つめて眼を逸らさず言った。


「私の初恋も実らなかった。そのとき誓った。次は必ずものにすると。決してみすみす逃がしはしないと――」


 おはようございます、安芸です。

 なんとか、二ヶ月放置のメッセが出る前に更新できました。

 次話、ミレ父登場。

 ちょっとお知らせ。お時間のあるかた、拙作ブログ 安芸物語 愛してると言いなさい~彼方へ~ 紅緒&リゼのラブラブっぷりをごらんください。完結済み。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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