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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第三章 王子殿下の恋のお相手
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五 カフェ・デート・おまけ

 デート後の夜の話。

 犬はトクです。

「だから悪かったと謝っているじゃないか」


 ソファにふんぞり返り、あくびをしながら芸術家が偉そうに言う。


「あなたはいつも口だけでしょう。ちっとも反省していない。毎度毎度、迷子のあなたを探しに出向く僕の苦労を少しは考えてください」


 シャレムが身体をよじって、嫌味で答える。

 だが芸術家には通じない。のほほん、とした顔でヒラヒラと手を振る。


「かたいこと言うなよ。友達じゃないか」

「友達じゃありません」

「冷たいなあ。……うーん。あんまり冷たいと、脅迫しちゃうよ?」

「してみなさい。もう二度とあなたを回収になど出向きませんから」


 どっちもどっちなケンカをする芸術家とシャレムをミレは強引に引き分けた。

 

「こら、動かないの」

「はあい」


 ミレがたしなめると、シャレムは姿勢をまっすぐに戻した。

 遅めの食事と入浴をすませたシャレムはミレに髪を拭いてもらっている最中だ。気持ちいいのか、うっとりしている。

 そこへ叱咤を浴びせたのはビスカだ。


「姫さま、そんな奴ら甘やかさなくてよろしいんですよ。それより、どうぞこちらにいらして横になってください。今日は出歩かれたのでお疲れでしょう? 足のマッサージをしましょう」

「マッサージなら俺もうまいぜぇ。来いよ、姫さん。俺が揉んでやるよ」

「結構です。大商人、あんたはそこでおとなしく札束勘定していなさい。私の姫さまの足に触れようものなら、ぶった斬りますよ」

「おー、こわ。ビスカちゃん、そりゃないぜー」


 大商人がもろ手を上げて降伏の意思を示す。

 このやりとりを手酌で酒を呑みながら見ていた闇騎士が、ちらりと壁際に視線を奔らせる。


「そいつをしまえよ、聖職者」

「……」


 と、軽口を叩いた大商人を狙い攻撃態勢に入っていた聖職者が不満もあらわに指に挟んだナイフを定位置に戻す。

 ミレはおとなしくしているシャレムの髪を櫛で梳きながら、わあわあと口喧しい連中を眺めた。

 もう恒例になったと言ってもいいくらい、見慣れた光景だ。

 今日は食事のあと、デザートにデートみやげのケーキを振る舞った。あれだけあったケーキの山は瞬く間に皆の胃袋に消化された。低次元な争奪戦を繰り広げながらも大勢で食べたためか、昼間店で食べたときよりもおいしかった。

 シャレムが甘えて擦り寄ってくる。


「ご主人さま」

「どうしたの」

「今日はお伴できなくてごめんね。僕がいなくて、大丈夫だった?」

「シャレムがいなくて寂しかったけど、闇騎士と聖職者がいてくれたから」

「あいつらに変なことされなかった?」

 

 耳のいい闇騎士が聞き咎めて口を挟む。


「おい、失礼なこと言うなよ」


 シャレムは無視する。


「僕、ご主人さまのお傍にいられないことも多いけど……でも頼るなら、他の誰でもなく僕にしてね」

「はいはい」

「約束だよ」

「はいはい」

「約束だからねっ」

「はいはいはい」

「わん!」

「よしよし」


 真剣な瞳が一途でかわいい。

 ミレはシャレムの頭を「イイコイイコ」と撫でて言った。


「今日は一緒に寝ようか」

「うんっ」

「おいで」


 ミレが一足先にベッドに入り手招くと、シャレムがいそいそと潜ってきた。

 二人でくっついてコロンと横になる。


「えっ、おい――」と、闇騎士。

「犬君、それはズルイよ」と、芸術家。

「俺も俺も」と、大商人。

「……」と、聖職者。


 口々に不平を漏らす男たちを「黙らっしゃい」と一喝し、鮮やかな手並みで部屋から追い出しながら、ビスカは扉口でしずしずと一礼して言った。


「おやすみなさいませ、姫さま。シャレム、あんた姫さまにおかしな真似をしたら命はないからね。せいぜい肝に銘じておきなさいよ」


 パタン、と扉が閉まる。

 ミレは忠実な愛犬に囁いた。


「おやすみなさい、シャレム」

「おやすみなさい、ご主人さま」


 そして間もなく眠りについた。


 カフェ・デート編、終了です。

 

 次は弟王子の出番。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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