四 脅迫されました
兄バカ発揮。
四
「昨夜はよく眠れた?」
「はい」
「それはよかった。体調は崩していない? 昨日、外で居眠りしていただろう。風邪などひかなかった?」
「ひいていません」
「ふふ、丈夫だね。では、食事はどう? 口に合うかな?」
「はい」
「それもよかった。生活に不自由はない? なにか不便は?」
「ないです」
ミレがかぶりを振ると、アーティスは満足げにひとつ頷いた。
「では、もしなにか困ったことや要望があれば、私の名前を使うといい。たいていのことは都合できると思う」
「ありがとうございます」
アーティスと肩を並べて、中庭をそぞろ歩く。
中庭は四区画に分かれていて、いまは一の庭、およそ百種に及ぶ白い花ばかりを集めた庭園に足を運んでいた。
そしてなぜか、アーティスにずっと手を握られたままだ。
「ところで」
俄かに声が低くなり、身体を引き寄せられた。鋭い眼つきで顔を覗き込まれる。
「さっき、ユアンに強引なキスをしていたようだけれど、君は、年下の男を襲う趣味があるのかな……?」
握られている手に少し力が加えられる。
やはり、とミレは察した。
このひとは、父親と同じ種類の人間だ。
愛想よく、上辺は優しげで親切。
だがその実は、敵にまわせばこれ以上にないくらい陰湿で、厄介だ。
そして例外なく、怖い。
こういう手合いには、近づきたくないのに。
と、ミレはゾクッと戦慄しながら嘆息して、内心、父を恨みがましく思う。
反面、血の繋がった肉親であり、数少ない理解者である。とても嫌いにはなれない。
「……ユアンに悪戯すると、承知しないよ?」
アーティスはにこにこしているが、眼が笑っていない。非情な顔だ。
ミレは「歩き疲れた」と言って、庭園の芝に勝手に腰を下ろした。手を繋いでいるアーティスも必然横に座る。足を伸ばすと、楽になった。
深呼吸して、言った。
「あなたのキスを返せと言われたので返しただけです」
「は?」
「昨日、私の頬にキスしたじゃありませんか。そのキスをユアン殿下が返せとおっしゃったので、お返ししました」
「……そういうことか」
ふっ、と殺気が消える。
アーティスは納得したようだ。
ミレはつまらなそうにぽつりと呟いた。
「私は人間に興味ありません」
だから誰とも親しくするつもりはない。
暗に牽制して、パタリと芝に仰向けに寝転がる。
空がきれいだ。この城は森の中にあるので空気が澄んでいて清々しい。風も穏やかで気持ちいい。
こんな午後は外で昼寝に限る――。
と四肢の力を抜いてミレが全身を大地に預けようとしたそのとき、いきなり、アーティスにのしかかられた。
こんばんは、安芸です。
外でごろごろ日光浴大好き。
たまに無性に電線のない空が見たくなります。
明日も更新予定。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。