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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第二章 王子殿下のお気に入り
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二十一 噂は嘘です

 いよいよ、兄弟王子が、そろって……?

 ユアンはシャレムとは反対側に陣取り、膝を揃えて言う。


「ミレ殿」

「はい」

「う、うかがいたいことがあるのだ」

「なんでしょう」

 

 ユアンは意を決したように、口をひらいた。


「兄上の部屋に通っているというのは、本当か?」

「はい」

「げっ」


 ヴィトリーが下品に呻き、あわてて口を押さえる。

 ユアンは色をなくして俯いた。


「……そ、それでは、そのう、ミレ殿が兄上の恋人になったという噂も……本当なのだろうか?」

「嘘です」

 

 ミレはきっぱりと否定した。


「ドナのお世話をさせていただいているだけです」

「ドナ?」

「アーティス殿下の飼われているオウムです」


 ヴィトリーが如才なく口をはさむ。

 ミレはうっとりとして、頷いた。


「大きな美しい鳥です。ギャアギャア鳴いて、グサグサ攻撃してきて、よたよた歩いて、かわいいんです、とても」


 ミレがアーティスと恋人関係にはないと聞いて、がぜん勢いづいたユアンは更に問い詰めた。


「では、ミレ殿が兄上の婚約者候補――という話はまちがいなのだな?」


 さしものミレも意表を衝かれた。まったく寝耳に水だ。

 びっくりしたせいで返答が遅れ、間があいた。それがいけなかった。


「いいや、まちがいではない」


 神出鬼没を絵に描いたように、アーティスが現れた。

 ノックと同時に入室を果たしたのだろう、絶妙の間合いで登場し、皆の非難のこもったまなざしを一身に浴びた。

 正しい姿勢でゆっくりと歩いてきて、ミレの後ろに立つ。


「実際はキャス殿に正式に申し込みをして返事待ち、というところだがね」

「な……っ」

 

 ユアンが眼をむいて絶句する。いまにも卒倒しそうなほど、驚いた表情だ。

 ヴィトリーは咳払いし、ひきつった顔で、もったいぶった言い回しをした。


「おそれながら、アーティス殿下に申し上げます」

「なんだ」

「ミレ殿は、ユアン殿下のお話し相手でございます。それを勝手に横から奪うようなやりくちは、いささか反則ではありませんか」

「グズグズしていれば先を越される。事実、ミレには既に求婚者が四人もいるじゃないか。これ以上遅れをとっては大事になりかねない。――それに私は申し込みをしただけで、まだキャス殿にもミレにも、なにひとつ了承をもらったわけではない。反則とそしられるほどではないだろう」


 言って、アーティスはちらりと含みのある視線をユアンに向ける。

 ほぼ同時に、ヴィトリーがユアンに「兄殿下におくれを取ってはなりません!」というような叱咤激励の一瞥を巡らせる。

 ユアンが頷いた。


「ミレ殿!」

「はい」


 勢いよくミレを振り向いたユアンの眼は、子供とは思えない真剣な熱をおびていた。

 迫力に気圧けおされる。

 思わず、ずいと近くに迫ってきたユアンの顔を、ミレは掌で押しつぶした。

 ユアンが呻く。


「ぐ」


 ヴィトリーは「あちゃー」と掌で顔を覆った。


「うわあ……いきなり拒否されちゃいましたかー」

 

 アーティスは斜に構えて静観している。

 シャレムは寝ている。

 ヴィトリーはドキドキ、ハラハラ、オドオドしながら手を揉んで、落ちつきなくミレとユアンを交互に見比べている。


「……ミレ殿」

「……はい」

「と、年下は……嫌いだろうか」

「嫌いでも好きでもありません」

「では、わ、私と、その……」


 しどろもどろにユアンが言葉に詰まる。


「殿下っ、もう一息ですよ!」

「わかっている! おまえは黙っていろ!」

「はいいいい」


 ユアンが深呼吸する。

 シャレムがムニャムニャと「もうお腹イッパーイ」と寝言を漏らす。

 ヴィトリーが「ぶはっ」と笑う。


「……」


 側近を殺意のこもった眼で睨み、ユアンは再び口をひらいた。


「わ、私は、ミ、ミレ殿のことが……」


 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 

 「黙っていろ」命令を出されたヴィトリーがやむなく無言で握りこぶしをふりまわし、百面相をして、ユアンにハッパかけている。

 だがユアンはどうにも言葉にならないようで、緊張のため硬直していた。

 ミレはこの展開はなんなのだろう、とゆううつな溜め息をついた。

 せめてシャレムが起きてくれれば退散することもできるのに、デカイ図体にのしかかられているので、動くに動けない。

 限りなく気詰まりな空気を破ったのは、いきなりバタン、と扉をあけて現れた四人の乱入者だ。

 芸術家と闇騎士がやかましく押し問答しながら、大商人は調子っぱずれの歌を口ずさみながら、聖職者は我関せずの態を貫いている。


「よーお、姫さん! ンだよ、しけたツラしてんなぁー。二人の王子さんにいじめられたのかあ?」

 

 場違いなほど能天気な大商人のセリフに、兄弟王子は同時に反論した。


「いじめてない!」


 確かにいじめられてはいない。

 でもすごく居心地が悪い。

 ミレの気のせいでなければ、アーティスに外堀を埋めるように迫られているばかりか、ユアンにも過分に好意をもたれている気がする。

 だがミレにその気はない。兄弟王子殿下にも四人の求婚者にも、できれば深入りはしたくない。

 既に手遅れ、という感もあるが。

 それだけに「迷惑だなあ……」とミレはロコツに嘆息した。


 初心に戻り、ひらがな推進中。

 

 お知らせ。

 愛してると言いなさい・3 7月下旬発売です。

 よろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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