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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第二章 王子殿下のお気に入り
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十三 裏では死の商人です 

 本日は金環日食。

 商人の裏の顔が判明です。


 次にミレが眼を醒ましたとき、隣にいたのは、ダリアンだった。


「……」

 

 つい嬉しくなって、もぞもぞとくっつくと、鬱陶しかったのか、唸って威嚇され、背中を向けられてしまった。

 がっかりして、仕方なく起きることにする。

 思わず、唖然とした。

 なんだろう、これは。ひどい有様だ。

 寝室を含め、続く居間まで顔見知りの者からそうじゃない者まで、折り重なるように倒れている。あちこちに酒瓶が転がっているのを見ても、酔い潰れているのは間違いないだろう。

 視線を感じて、斜め後ろを振り返る。

 寝室の入り口に処刑人のような殺気立った顔で、聖職者と闇騎士の二人がいた。


「……」

「よぉ」


 ダリアンを起こさないよう、そっとベッドを抜け出す。

 足を下ろそうとしたところにビスカが転がっていて、危うく踏むところだった。


「……なんですか、このひとたち」


 闇騎士に、変なことを訊くなあ、という眼で見られる。


「なにって、姫が部屋に入れたんだぜ。皆、同僚だか、同士だから構わないって。そのうち算理学だがなんだか知らねぇけど、小難しい論戦があちこちではじまってさ。姫も、イキイキした顔で白熱して一説ぶってたけど、それも憶えてねぇの?」

「記憶にないです」

「はあ? あれだけはっきり喋っておいて、素面(しらふ)じゃなかったのかよ」

 

 聖職者にまで、呆れられた眼で一瞥を向けられる。


「じゃ、俺たちに待機命令を下したのも、憶えてないわけ?」

「はい」

「かーっ」

 

 まいった、という具合に掌で顔を覆い、闇騎士が天井を仰いだ。


「なんだよ、それ。ひとが真面目に寝ずの番を務めたってのに、無駄かよ」

「……」


 どうやら二人とも徹夜したらしい。

 闇騎士と聖職者に揃って睨まれ、ミレは首を竦めた。

 記憶はないものの、迷惑をかけたようなので、一応謝る。

 それからミレはまわりに泥酔する顔をいくつか覗き、首を傾げた。

 

 確か、アーティスがいたような気がしたが、夢だったのだろうか?


 訊けば、


「ああ、弟殿下は昨夜のうちに口喧しいのが強制的に連れ帰って、兄殿下はさっきまでそこにいたんだが、眼を醒ますなり、飛び起きて出て行った」

「そうですか」


 そこへ、ミレの声を聞きつけたのか、居間から大商人がひょこっと顔を出す。


「おっはよー、姫さん! 寝乱れた顔もかわいいぜー。キスしていいか?」

 

 真横を通り過ぎた大商人の背を、闇騎士がドカッ、と乱暴に蹴り倒す。


「おわっ」

「ふ・ざ・け・る・な?」

「……っててて、テメっ、足癖悪ィぞ、こらぁ!」

「騒がないでください」

 

 ダリアンが起きてしまう。

 ミレが唇に指をあて、「しーっ」とすると、大商人はしぐさを真似し、「しーっ」とする。これが彼なりにハマったらしく、「ししし」と笑っている。

 ガウンに袖を通し、寝室からそっと居間に移動する。ダリアンもビスカも寝起きはあまりよろしくないのだ。

 居間は物もひとも散らかっていたが、さいわい、ソファのひとつが空いていた。

 ひと息ついて座ったミレに、水差しから水を注いで、大商人が差し出してくる。


「いやぁ、あのクソ殿下にはまいったぜー。いつのまにか、ちゃっかり姫さんを腕に抱いて寝転がってるんだもんなー。狡ィよなー。ぶっ飛ばそうにも、一応、相手が相手だし? ま、酔った勢いで姫さんに手ェ出そうもんなら毒殺しようかなー、とか狙ってたんだけどさ、果たせなくて残念だぜ、はははー」


 屈託ない調子だが、ふざけているわけではないと、笑わない眼が告げている。

 ミレは受け取った水を飲み干した。どうも喉が渇いていたらしい。

 大商人は空になった杯を取り上げ、片足に重心を載せ、意味ありげに振って見せる。


「今回は、姫さんの貞操もまあ無事でよかったけどさ、これから突然襲われたときのために、いくつかとっておきの毒を携帯しておくってのは、どう? 俺お勧めのひと粒でコロリとか、ひと舐めでバッタリとか、ひと吹きでグフッとか、欲しくね?」

「いりません」

「あ、そう。毒はいや? じゃ、なにがいい?」


 大商人は手の中で杯を弄びながら、陰湿に嗤う。


「毒以外でも、なぁんでもいいぜ? 言ってくれれば、好みの武器を調達する。なにせ、ほら俺、死の商人だからさ。俺に任せてくれれば、この世で手に入らないものなんてねぇの。頼もしいだろ?」


 あっけらかんとした口調で、空恐ろしいことを言う。


「……」

 

 ミレが冷たい恐怖に身を竦ませ、黙ったことをどう都合よく受け取ったのか、大商人は表情をくしゃっと歪ませ、後頭部をわしわしと掻いた。


「そんなに熱い眼で見つめるなよー。照れちゃうだろ、はははー」

「おまえが照れる要素はひとつもねぇよ」

「……ばかめ」


 闇騎士と聖職者の突っ込みも、どこ吹く風で、聞いていない。

 大商人ならぬ死の商人は、どさくさまぎれに「こいつゥ」とミレの額の真ん中を指でつついて、無言で怒った聖職者から首根っこを掴まれ、後ろにポイっと放り捨てられた。


 商人は商人でも、武器商人でした。


 最後の求婚者の出番が次話に持ち越しです。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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