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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第二章 王子殿下のお気に入り
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十一 大好きです

 ダリアンの正体が知れました。

 ミレはびくついた。 

 そんなミレを庇うように肩を抱いて、ダリアンはアーティスをまったく無視して、先を促した。


「まあ、なんでもいい。所詮、君の可憐さに参った烏合の衆だろう。おいで、あちらにシーズディリ・ラズリ・フレイ博士がいらっしゃっている。ご挨拶に行こう。もうだいぶご高齢だから、いまを逃すとお会いできないかもしれない」

 

 ミレは胸に手を寄せて、コクコクと頷いた。

 ときめきが止まらない。自分でも、眼が輝くのがわかった。


「私、『ラズリ』の称号を持つ博士にお会いするのは、はじめてです」

「それだけじゃない。今日、聖学者(ヒア・ミストリー)の称号を受勲された、素晴らしい御方だよ」

 

 聖学者(ヒア・ミストリー)

 学問探究者における、最大の栄誉に他ならない。

 ミレは恍惚とした表情を浮かべてダリアンについて行こうとした。

 そのとき、


「ミレ殿!」


 ユアンの一声に引き止められた。

 思わず振り返ると、ユアンがしょんぼりと肩を落として、悲愴な眼でこちらを見ている。


「い、行ってしまうのか……? わ、私を、置いて……?」


 グッときた。

 演技ではない健気さに、つい絆されてしまう。


「では一緒に来られますか」

「行く!」


 ミレは駆けてきたユアンを伴って、ダリアンに続いた。他の面々については気にしなかった。好きにすればいいのだ。むしろ、全員遠くへ散って欲しい。

 だがミレの無言の希望に反して、結局は全員が、不機嫌な顔をしたまま、ぞろぞろとあとについてきた。

 ダリアンはミレの耳に口を寄せ、訊いた。


「……あの中に、君の本命はいるの?」

「いません」


 さっくり答える。

 と、ダリアンは含み笑いを漏らし、「ふうん?」と呟いてから、


「逆はどうかな。君に本気の奴がいるか、私が探ってあげよう」

 

 余計なことはしないで欲しい。

 

 ミレが渋い顔で止めようとしたときには遅かった。

 ダリアンはミレの頭部を引き寄せて、髪に「ちゅ」と軽いキスを落とした。

 途端、背後で幾つもの靴が地面を蹴る音がした。


「――貴様……っ」

 

 攻撃の速さは甲乙つけがたく、アーティスを先陣に、聖職者、闇騎士、大商人がそれぞれ恐ろしい武器を手に、束になって突っ込んできた。

 ダリアンは片手を腰にあてて飄然と佇み、迫る白刃を呑気な眼で見つめている。

 そこへ、三つの影が立ち塞がった。


「お待ちください、殿下」と、ソーヴェ。

「先走ってはいけません」と、ヴィトリー。

「妻に手を出さないでもらいたい」と、いかにも軍人らしき男。


 場が、シーン、とする。

 怒り心頭という顔だった四人が眼を点にして、ダリアンを凝視する。

 アーティスは右耳をトントンと叩きながら、真面目な口調で問い質した。


「誰が誰の妻だ」

「彼女は私の妻です」


 傍目に五十がらみの軍人らしき男が、クイッと親指をダリアンに傾ける。

 アーティスは頬を引き攣らせ、なんとも奇妙な表情を浮かべて繰り返した。


「『彼女』だと? まさか、女性なのか」


 途端、ダリアンが「あーっはっはっはっは!」と空を仰いで爆笑した。

 笑いすぎて腹が痛い、というしぐさをしながら、ダリアンは目尻の涙を拭った。


「よく間違われるんだ」


 アーティスは羞恥に顔を真っ赤に染めて、怒号を放った。


「ま、まぎらわしい真似を……っ。だいたい、女性なら女性らしい恰好をしろ!」

「バカタレ! これは学者の正装だ!」

「ばっ、バカタレだと!? 王子たる私に向かってよくもそんな口を――」

「バカをバカと言ってなにが悪い。王子? そんなこと知るか。私に敬意を払われたかったら、もっとひとを見る眼を養うことだな。名乗りもせず、勝手に性別を勘違いした挙句、問答無用で斬りかかるなど、一人前の男のすることか。恥を知れ。言っておくが、王子だけじゃないぞ。おまえら皆まとめてだ。私の弟子に近づきたいのであれば、顔を洗って出直してこい!」


 痛快な啖呵(たんか)だ。

 言っている内容が至極まともなだけに、誰もグウの音も出ない有様だ。


「……」

 

 ミレは惚れ惚れと、算理学の師であるダリアンを見つめた。

 頭がよくて頼もしくて恰好いいダリアンが、ミレは大好きなのだ。


 男前な師匠の登場です。

 もうあと一話、園遊会編あります。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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