九 大商人は勝手です
星桜の園遊会、開催中。
五
星桜の園遊会。
これは年に一度、国王主催により開かれる社交会で、二人の王子殿下、王族、各機関の要人、著名人、功績者がその配偶者と共に招かれる。
会は夜、王の庭で開催され、満開の星桜を愛でながら飲むという趣旨のもと、宴はたけなわである。
篝火は煌々と焚かれて昼のように明るい。
星桜はその名の通り、星の形をした五弁の桜で、夜に咲き、朝に散る、一夜桜だ。
その散り際の見事さといったら、どれほど雄弁なものでも言葉では称えられないほどで、一見に値する。
「うわあ―……」
シャレムが上を見上げて、感嘆の声を響かせる。
「ご主人さま、見て見て」
「見てるよ。きれいだね」
と相槌を打ちながらも、ミレは食べる手を止めない。
饗応は豪勢だ。美食と銘酒がふんだんに振る舞われた。
ミレはシャレムを伴い、各テーブルをまわって、もりもり食べた。
「姫、これも旨いぜ」
闇騎士が料理を取り分ける。
「……飲め」
聖職者が果実酒を杯に注ぐ。
「あーん」
シャレムが口を開け、ミレがごちそうを運んでやる。
「いいかげんにしろよ、貴様ら」
アーティスが不機嫌に茶々を入れる。
「あ、兄上、お、落ち着いてください」
ユアンがオロオロとアーティスを押しとどめる。
「殿下、もう放っておきましょうよ」
ヴィトリーが疲れたように合いの手をいれる。
「殿下、お怒りはほどほどになさいませ」
ソーヴェが軽くたしなめる。
先程からこの調子だ。
誰もろくに花など見ていない。
「……」
ミレは会がはじまってからこちら、黙々と食事に専念していた。両脇の闇騎士と聖職者の存在を疎ましく思う。シャレムを犬として連れてきたのは自分だが、招待状もないはずの二人がなぜここにいる。
疑問に答えたのはアーティスで、
「二人共、功績者だからな」
と、まったく納得しがたいことを聞かされた。
父キャスも招待されているはずで、どこかにいるのだろうが、ひとが多すぎてとてもではないが探せられない。シャレムに頼めば見つけてくるだろうが、この面子を前に、シャレムを傍から放すのは憚られた。
「ミレ」
「はい」
「こちらを向け」
「嫌です」
断ったのに、アーティスはぐい、と強引にミレの頭を抱き寄せ、髪になにかを挿した。
「よし」
悦に入って笑う。喜色が滲み、得意そうだ。
頭に手をやると、花の感触がした。星桜の枝を手折って飾ったのだろう。王の庭、王の桜に傷をつけるなど、王子ならではの暴挙な仕業だ。
シャレムに視線をやると、悔しそうにむっとしたものの、手放しで褒めちぎる。
「とーっても似合ってます、ご主人さま!」
けれども、ミレは喜ぶ気持ちになれない。
遠巻きに群がる女性たちの嫉妬渦巻く視線の冷たいこと、夥しい。
「……目立っています」
アーティスに文句を言ったつもりが、
「君が美しいからな」
などと火に油を注ぐ言葉を返され、更に憎悪を煽る結果を招く。
「……」
もうなにも言うまい。ひたすら食べよう。それしかない。
実際、注目の的だった。
王子殿下二人が一緒にいるというだけでも挨拶の人波は引きも切らず、聖職者の関係者、闇騎士の熱心な愛好者など、どうしたってひとが集まる。
そんな中、堂々と群衆を掻き分けて、ミレの前にひとりの男が現れた。
「会いたかったぜ!」
騒々しく喚き、男はニッと笑った。
「待たせたなぁ! たったいま帰ったぜぇ、姫さん! いやぁ、花見に間に合ってよかった、よかった」
食べ物を載せた皿を持ったまま、ミレはいきなり身体を持ち上げられて、タカイタカイをされる。
騒々しく図々しさが売りだと自分で公言する男、大商人。
空気を読まないことにかけて、他を凌駕すること、請け合いだ。
そして、いちいち性急で、大仰すぎる。
「ちょっと見ない間にえらく別嬪になったなあ! こりゃあ、早いところ唾つけとかねぇと他の野郎に先を越されちまう。よーし、いますぐ結婚しよう!」
三人目の求婚者 大商人、登場。
園遊会はまだ続きます。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。




