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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第二章 王子殿下のお気に入り
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八 お披露目です

 受け取り品は、例のアレです。

 純粋一途な覚悟を示すユアンに対して、聖職者も闇騎士も斜に構えて立ち、値踏みするようにジロジロと不躾な視線を向けている。


「……」


 ここで誰かの味方をすれば、事は余計にややこしくなる。

 ならばなにも言うまい、とミレが傍観態勢に入ったとき、バルコニーのカーテンが丸い形に膨らんだ。爽やかな風が室内の澱んだ空気を散らす。

 そこへ、ひょっこりとシャレムが姿を見せた。


「ご主人さま、ただいまですー」


 シャレムはダッ、と奔り、ミレに飛びついて来た。


「おかえりなさい、シャレム」

「僕、お仕事たくさん頑張りました。ほめてほめて」


 ミレはシャレムの頭を「よしよし」と撫でた。シャレムはうっとりと眼を細め、陶然となり、無防備そのものだ。

 微かな血の臭いと埃っぽさ、薄汚れた服から判断すると、今回の仕事はやや手こずったらしい。急に、ミレはシャレムの身が心配になった。


「怪我は」

「してないよ。だってご主人さま、僕が怪我すると怒るし」

「怒るとか怒らないじゃなくて、心配してるの。シャレムになにかあったら私が困るから」

「ご主人さまが困るの? なんで?」

「大事だから」

 

 シャレムはポカンとした。驚いているようだ。口を半開きにしたまま、上目遣いでミレをじっと見ている。

 ミレはごくあたりまえの気持ちを口にしただけだが、シャレムにとってはそうではないらしい。鼻を擦って笑うと、わかりやすくデレデレする。


「う、うん。ぼ、僕も、ご主人さま、大好き……」


 臆面もなく頬をすり寄せてくるシャレムはかわいい。

 つい甘やかして、額や瞼にキスを許してしまう。


「……おい、こら、ばか犬。調子に乗るんじゃねぇぞ」

「……」

「……ずるい」

 

 闇騎士と聖職者とユアンに白い眼で見られても、シャレムは自重するどころか余計にミレにくっついてきた。

 それぞれ物騒な気配を漂わせ、得物を手にしようとしたところで、ヴィトリーがわざとらしく声を張り上げて割って入った。


「あーっ! そ、そういえば、殿下っ、ミ、ミレ殿にお見せするものがあったでしょう! ほらほら、せっかく用意したんですし、いまお披露目してはどうですか」


 ヴィトリーが大仰な身ぶり手ぶりで示したのは一台のイーゼルだった。白い布がかけられている。

 ミレ以外には滅多になににも興味を持たないシャレムが、珍しく自分から動いて布をパッと取り払った。

 絵画だ。ミレとシャレムが写実的に描かれている。


「これは、あのときの……」


 シャレムが王宮の兵士相手に大立ち回りをして、ミレを庇いながら戦う姿が、生き生きと熱っぽく描写されている。

 絵は子供の手とは思えないぐらいの大胆さと優美さ、情熱と迫力にみちていて、技術的に見てもまったく申し分ない。


「すごいね」


 シャレムが感嘆を素直に口にする。


「僕、これ欲しい」

「だめ。見るだけで我慢して」

「えー」

「だだをこねてもだめ」


 ところが、ユアンの答えは違っていた。


「これは、ミレ殿に贈ろうと思って描いたものだ。仕上げにだいぶ時間がかかって、すっかり遅くなってしまったけど……受け取ってもらえると私も嬉しい」

「よろしいのですか」

「うん」

「ありがとうございます。いただきます」

 

 ミレはきちんとお辞儀した。本音を言えば、シャレムじゃなくても欲しいと思ったのだ。父、キャスにもぜひ見せたい。


「よかったね。シャレムもちゃんとお礼を言って」

 

 これもまたシャレムにしては珍しく、ミレ以外に気遣いを見せ、頭を深く下げて礼を述べる。


「ありがとう、ございます」

 

 ユアンはミレとシャレムが本当に嬉しがる顔を見て、無邪気な微笑を浮かべた。


「喜んでもらえてよかった」

 

 すかさずヴィトリーが釘を刺す。


「でも、しばらく絵筆を持つことはお控えくださいね。描きはじめたら夢中になって、すぐに根を詰めるんですから、見守る私は気が気じゃありません」


 ヴィトリーは口うるさくたしなめながら、ユアンを再び寝かしつけ、掛けものを整える。


「そうだ、忘れるところだった。ヴィトリー、ミレ殿にあれを」

「あれですね。はい、少々お待ちを」

 

 そして恭しく差し出されたのは、一通の招待状。

 表書きに優美な文字でミレの名前が綴られている。

 ユアンはキラキラと眼を輝かせ、弾んだ声で言った。


「近々、星桜の園遊会があるのだ。私にミレ殿を招待させてほしい」


 次話、星桜の園遊会編です。

 三人目の求婚者、登場予定。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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