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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第二章 王子殿下のお気に入り
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六 本業は闇騎士です

 騎士はシャレムの天敵です。

 

 その翌日から、聖職者の付き纏い行為がはじまった。

 とにかく、気がつくと視界の隅にいる。姿が見えなくても視線を感じる。

 ミレは持ち前の無関心さで見て見ぬふりを通したが、先に限界を訴えたのはビスカだった。


「も―う、我慢できませんわっ。四六時中見張られているようで落ち着かないったらありゃしない! 完全に追っ払うか、いっそ雑用でもやらせましょう!」


 ビスカは凄い剣幕で聖職者に二者択一を迫った。

 意外にも聖職者は二つ返事で後者の立場を了承、以来、職務を除く時間の大半をミレの傍で過ごすことが多くなった。

 当然、シャレムとは犬猿の中で、暇さえあれば「鍛錬」と称し、冷たい殺気をビシバシと飛ばしながらナイフを交えている。

 不本意ながら聖職者がいることにも段々慣れて、いつものようにユアンを訪ねるための身支度中に、ノックがあった。

 ビスカはちょうどミレの髪を複雑怪奇に編んでいる途中で手が離せないらしく、聖職者に顎をしゃくって言った。


「あんた出て」

「……」


 聖職者は凭れていた朱塗りの壁から身を起こし、応答もなく無造作に扉を開けた。そして手荒く閉めた。念入りに、鍵までかける。


「おいこら、そりゃないんじゃねぇの。開けろってー。俺は姫に用があるんだよ」

「……」

 

 廊下で騒々しく喚き立てている声は、疑いようもなく、騎士のものだ。

 聖職者は無視を決め込み、ビスカも聞こえないふりをして一心にミレの髪型を整えている(シャレムは昨夜から留守だ)。

 ミレも敢えて放っておいた。騎士の用件など、ろくでもないことに決まっている。

 静かになった。

 諦めたのか、と思いきや、ピシッ、と扉に亀裂が入った。そしてきっちり四等分されて崩落した。


「……」

「……」

「……」


 まさか扉を斬られるとは思いもよらず、ミレもビスカも呆気にとられた。

 聖職者だけが疎ましそうな表情を浮かべて、陽気な笑顔で入室してきた騎士を睨んでいる。


「やあ、姫、今日もかわいいな。挨拶したのに入れてもらえなかったから、勝手にお邪魔するぜー」


 飄々とした態度に悪びれたところはない。

 ビスカが先に我に返り、問答無用で椅子を振り上げ、騎士に投げつけた。


「姫さまになんの用です、ろくでなし騎士」


 騎士もさるもの、危なげない動作で、吹っ飛んで来た椅子を受け止める。


「ろくでなし騎士はひでぇよう。こう見えて、結構腕はいいんだぜー」

「なんの用だと、訊いているんです」


 ビスカが冷気を漂わせて凄むと、騎士は懐から一通の書状を取り出した。


「姫宛ての俺の上司からの通達」


 ビスカがひったくる。

 ミレは手渡されたそれを不審のまなざしで広げ、綴られた内容に面食らった。


「なんて書いていました?」


 認め難いので、口にしたくない。

 いっそ見なかったことにして、握り潰したいくらいだ。

 するとミレの代わりに騎士が鷹揚に答えた。


「今日付けで、俺はめでたく、姫の臨時専属騎士に就任さ」

「いらんわ、帰れ」


 素気無く(柄悪く)ビスカが一蹴したにもかかわらず、騎士は爽やかに笑った。


「まあそう言わず、俺って役に立つから傍に置いてくれよ。ほら、犬君がいないときなんて不用心だろ? 聖職者(アイツ)だけじゃ心もとないだろう。刺客とか襲撃者とか変態とかモノズキとか、いろんな奴が束になってかかってきてもさ、俺が全部きれいに返り討ちにしてやるよ」


 爽やかさが、怖い。

 断りたくても断れない威圧を感じる。

 騎士は恭しくミレの手を取り跪き、指先に口づけを落とした。


「俺は闇騎士。本業は暗殺者の始末。得意技は大殺戮。よろしくな、姫」


 次話、聖職者&闇騎士を連れて、ユアンのもとへ。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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