二 拾われました
第一王子にご挨拶、はできました。
二
「君かい、私の弟を袖にしたというのは?」
「……?」
軽く揺すられて、ミレは瞼を開けた。
眼の前に長身の青年が立っている。
金髪碧眼の華やかな容姿に、どことなく物憂げな雰囲気、白い貴族服を優雅に着こなしている。
誰だろう。
疑問に思ったのも一瞬で、すぐに、まあ誰でもいいか、と欠伸して、再び瞼を閉じようとした。
「こらこら、だめだよ。もう陽が暮れるし、第一、こんなところで年頃のお嬢さんが居眠りなどしてはいけない。そんなに眠いのならば、せめて自分の部屋にいきなさい」
「部屋は知りません」
なにせ、ユアンの部屋を出たものの、適当な居場所がなく、庭に来た。
そこで爽やかな風にあたり、林を彷徨い、堂々たる枝ぶりが気に入った木に寄りかかって一休みすることにしたのだ。
「部屋にも案内されなかったの?」
「されていません」
「そう。じゃあ、私の部屋に来る?」
「はい」
「『はい』だって?」
青年がびっくりして、ミレを凝視する。
散々じろじろ見た挙句、コホン、と咳払いして青年が続けた。
「君、私が誰だか知っているの?」
「いいえ」
ミレの答えを聞いて、青年はクスリと笑った。
薄い唇が横に伸びて、愉快そうに細められた眼がミレをとらえる。
「……見知らぬ男に誘われて、ついていくわけだ?」
「いけませんか」
「いけませんね」
「そうですか。じゃあやめておきます」
呟いて、ミレはコロンと木の根元に転がった。土と草のよい匂い。思わずフニャリと頬がゆるむ。
気の進まない面倒を押しつけられて渋々ここへ来たものの、城はともかく、この庭は広くて気持ちいい。伸び伸びできる。とてもすてきだ。
ところがいきなり、ひょいと抱き上げられた。
「だからって地面に寝るんじゃない。はしたない。だいたい、身体を冷やすだろう。おいで、君の部屋まで連れていってあげる」
「私の部屋をご存じなのですか」
「いいや。だが、部屋など余っている。どこでも好きなところを使えばいい」
「そうですか」
「そもそも、皆が総出で君を探しているのだよ。城は大騒ぎさ。たまたま私が通りかかったからいいようなものの、あんな人気のない場所でひとりきりになるのはやめなさい。不用心にもほどがある。もし外で寛ぎたいならば、誰か供の者をつけなさい。或いは私に声をかけてくれてもいい」
ミレは青年を見た。
青年もミレを見つめ返してきた。優しげだが、強い眼。どことなく威圧感がある。
「君の名は?」
「ミレ」
「私はアーティス。ユアンの兄だよ」
よろしく、と第一王子は屈託なく笑い、ミレの頬にキスした。
いろいろと、省いてます。
安芸にしてはめずらしく、やる気のない主人公ミレ。
明日もお付き合いいただければ嬉しいです。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。