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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第二章 王子殿下のお気に入り
29/101

四 聖職者は寡黙です

 *流血注意。


 苦手な方はご遠慮ください。

      三


 ミレがはじめて聖職者を見かけたとき、死神がいる、と思ったことは記憶に新しい。

 真昼の林、例によってダラダラと惰眠を貪っていたところへ、悲鳴を上げながら、血まみれの男が飛び出してきた。ミレを見つけるや、


「助けてくれ!」


 と、必死の形相で縋りついてくる。

 その後頭部へ、鋭い切り裂き音と共に細身の短剣が命中し、男はこときれた。

 凄惨な光景にミレが口もきけずに動けないでいると、林の奥から、悠然と聖職者が現れた。

 お仕着せの黒い聖衣装、黒い手袋を嵌め、胸にはシリン教の聖職者を示す天秤の形の首飾りを下げている。平均より背が高く、手足が長い。短い銀の髪、怜悧な青銅の瞳。美貌は怖いぐらい整っている。


「……」

 

 こちらを見た。

 ミレは動けない。無表情な瞳孔に射竦められた。肌が総毛立つ。他者と一線を画す威圧感にぞっとする。


「……」


 ミレは、このまま口封じに遭うかもしれない、と真剣に考えた。

 だが聖職者は死んだ男の頭部から短剣を回収し、血を彼の服で拭うと、ミレの横を通り過ぎて去った。

 二度目の遭遇は中庭だった。

 百花繚乱、赤い花で埋め尽くされた二の庭を散歩中、いきなり腕を取られ、シャレムに足止めされた。


「ご主人さまはここにいて」


 いつもの従順なミレの犬のシャレムではない。

 もうひとつの顔、国家の(ダベル・ダラス)のシャレムに切り替わっている。

 そのまま常緑樹、(くれない)の春椿の木立の向こうに姿を消した。

 しばらくはおとなしく待っていたのだが、ユアンのもとを訪ねる時間になっても戻って来ない。あまり気が進まなかったものの、様子を覗きに行った。それが間違いだった。

 白昼堂々、シャレムと聖職者が斬り合っていた。赤い花を散らし、武器はどちらも切っ先鋭いナイフで、互角の接近戦を繰り広げている。

 ミレがひょっこり現れたものだから、一瞬だけシャレムの気が乱れた。その隙を衝かれていたら死んでいただろう。

 だが、なぜか聖職者の気も乱れたので、余所見が命取りにはならずに済んだ。


 怖いひとには、近づかない。


 鉄則だ。

 ミレはナイフが後頭部に刺さって絶命した男を思い起こした。背中を向けるのは危険だと判断し、ジリジリと後退して、二人の姿が見えなくなったところで踵を返した。その日、シャレムは戻らなかった。

 そして、三度目の出会いは真夜中。

 ミレはいつも通り就寝の支度をして寝台に潜った。すぐに寝つけるのは得意技だ。眠りは深く、朝までぐっすりのつもりだった。

 安眠に邪魔がはいった。

 窓は閉めて寝たはずなのに、ヒヤリと風を感じた。

 ふと、眼を醒ます。はじめに見たのは、黒手袋を嵌めた手。シャレムだろうか。だがシャレムであれば、ミレを起こすような真似はしない。そっと抜け出て、そっと戻ってくる。

 不審に思い、ムクリと上半身を起こした。


「……」

 

 驚きのあまり、咄嗟に声が出てこない。

 半開きの窓から射す淡い月光の中に浮かぶのは、凄みのある美貌。

 ミレの枕元に腰を下ろし、片手をついている。やや首を捻り、一切の感情を欠いた眼で、ミレをじっと見つめたまま、動かない。

 聖職者がそこにいた。


 二人目の求婚者、聖職者登場。


 うんともすんとも言わず。次話、持ち越しへ。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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