表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第一章 王子殿下のお話し相手
25/101

二十四 対立しました

 男の嫉妬は見苦しいです。

「違います」

「なにが違う?」

 

 アーティスの眼が火のように燃える。下手な言い逃れなど許さない、そんなまなざしだ。

 シャレムを脇へ退かされ、ミレは壁際に追い詰められた。アーティスの両腕に挟まれた恰好となる。


「私が誘った夜会にはなおざりな化粧しかせず、私が選んで贈った衣装も突っ返したくせに、今日はまるで別人のようだ。白状したまえ。誰からの貢物だ? リュドーという男か? それとも別の? 言わなければ、問答無用で脱がせるぞ」


 本気だ。

 いまにもドレスをビリビリに引き裂かれそうだ。

 ミレはなぜ自分がこんな凶悪なひとに睨まれ、凄まれ、脅かされなければいけないのか、さっぱりわからなかった。


「これは、侍女の趣味です」

「は?」

「私の侍女が里帰りから戻りました。今日から私の身の回りの世話は彼女がしてくれます。この支度もそうです。全部、侍女が整えてくれました」


 アーティスの眼が丸くなる。


「では、いままではどうしていたと?」

「自分で適当に見繕っていました」

「適当すぎるだろう!」

「気にしません」

「気にしたまえ! 君がそんなふうだから、ガーデナー家の令嬢は変わり者だの、美意識に欠けるだの、ブサイクだの、あれでは嫁の貰い手がないだの、好き勝手に噂されるんだ!」


 本人を眼の前に暴露することでもないだろうに、アーティスは気が立っているためか、口が止まらない。


「君の良さや面白さなど、つきあってみなければわからないものを」

「別に、わかってもらわなくてもいいです」

「君が悪く言われるのは、私が嫌だ」

「なぜですか」

「知るものか」

「そうですか」

「少しは食い下がりたまえ! まったく、可愛げのない。むきになる私の方がアホウみたいではないか」


 そしていきなり、キスされた。

 顔が近くて嫌だなあ、とアーティスの逞しい胸を押し退けようとした矢先のことだった。

 アーティスの顔が傾いて近づき、身体ごと覆いかぶさってきた。きつく唇を塞がれて、息を奪われてしまう。柔らかい舌がするりと口腔内に入ってきて、巻くように絡めとられ、先端を吸われた。ビクリとする。まずい。こんなキスにはあまり免疫がないので、一瞬で意識をもっていかれそうになる。


「……ンッ……」


 抵抗すると、意外にあっさり解放された。

 遅ればせながら、シャレムが硬直した状態から、はたと我に返って叫ぶ。


「ご主人様に不埒な真似をするな!」

「キスをひとつ頂戴しただけだろう。まあ、犬風情には真似できまい」

「噛んでやる」

「うるさい。吠えるな。いいだろう、別に。減るものじゃなし。私を驚かせた罰だ」


 どんな罰だ。

 それに、減る。なにかが確実に。

 ミレは手の甲で唇をぐい、と拭った。無言の反意を込めて。

 シャレムがアーティスに牙を剥いて襲いかかろうとしたので、ミレはすかさず「おすわり」を命じた。

 さすがに王族に手を出しては、シャレムもただでは済むまい。そしてシャレムがミレの犬である以上、監督責任は自分にあるのだ。

 アーティスはシャレムを一瞥し、「ふん」と鼻を鳴らして、またミレを睨んだ。


「だいたい、極端すぎるだろう。急にこれほど愛らしくなっては、眼の毒だ。注目の的だ。噂の種だ。独身の貴族連中は放ってはおくまい。早急に対策が必要だ」

 

 ミレは首を傾げた。


「なんの対策ですか」

「迷惑防止だ」

「じゃあ、もう近づかないでくれますか」

「どうして私を見て言うんだ!」

「あっははははははははははは」

「笑うな、犬!」

 

 アーティスは怒り狂って喚いた。

 感情に任せて荒れるアーティスの様子が物珍しいのか、ユアンもヴィトリーも、呆気にとられた顔で口を閉じている。


「ご主人さまは渡さないよ」

「犬は引っ込んでいてもらおうか」

「さっきのキスといい、全然相手にされてないよね」

「対象外の貴様よりはましだ」

「でも僕はいつでもどこでも寝るときも一緒」

「なっ……っ、まさか、同衾(どうきん)しているのか!?」

「ご主人さまは寝台で僕は床。たまに布団に入れてくれるけど」


 アーティスはすらりと鞘から剣を引き抜いた。


「死んでもらおう」


 シャレムはナイフをすっと構えた。


「そっちこそ」


 ミレは騒々しく小突き合うアーティスとシャレムをぼーっと眺めた。

 いつまで続ける気だろうか、と呆れ半分、諦め半分の心地で。

 

 アーティスの懸念が的中したのは、ユアンの部屋を退出した、その直後。

 ミレは「主人の使いです」と色とりどりの大きな花束を抱えた従僕の集団に囲まれて、恐怖の花攻めに遭った。

 それがミレのモテまくる日々のはじまりだった。


 次話より第二章開始。

 迷惑な日々のはじまりです。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ