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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第一章 王子殿下のお話し相手
23/101

二十二 口論しました

 すみません、予告より、一話ずれ。

 

     十三


 なんでもないと言い張るユアンを念のため専属医師に診てもらい、軽い打撲と診断された。


「明日までは安静に」


 と、ユアンは半強制的に寝かしつけられたので、ミレも退出しようとした。


「では、私も失礼します」


 するとあからさまにユアンはうろたえた。


「えっ。も、もう帰ってしまうのか。いま来たばかりなのに」

「私がいてはお邪魔でしょう」

「邪魔ではない」


 むきになるユアンを援護するように、ヴィトリーにはしっと引き止められる。


「そうですよ。殿下にはこのまま横になっていただくので、ミレ殿は殿下のお話し相手になって差し上げてください。そうだ、いっそ看病のお手伝いもしてもらいましょうか。うーん、我ながらなんたる名案! いかがです、殿下?」

「ミレ殿に看病してもらえるのなら、コブのひとつやふたつ、すぐに引っ込むと思う!」

「ですよねっ。愛は万能の妙薬と申しますし!」

「愛か!」

「愛ですよ!」

「違います」


 ミレの突っ込みを、だが二人とも聞いていない。


「いいな、それ」

「いいですよね」

「よくないです」


 華麗に無視された。

 ユアンもヴィトリーもミレにはお構いなしに、大いに盛り上がっている。

 興奮し、頬を桃色に熱して照れまくるユアンを寝かしつけ、ヴィトリーはミレを手招きした。寝台傍の椅子を「どうぞどうぞ」と譲られ、氷嚢を渡される。


「患部にあてればよいのですか」

「そうです。タンコブは冷やすのが一番ですから」

 

 ミレは頷き、後頭部の腫れを氷嚢で軽く抑えるように冷やす。

 はじめ居心地悪そうにしていたユアンも、次第に緊張をほぐして、身体を楽にした。


「……気持ちいい」

「よかったです」

「あのう、手間をかけさせ、すまぬ」

「いいえ」

「ミレ殿は優しいな……」


 特に話題もなかったので、ミレは黙っていた。ユアンがうとうとしはじめた。瞼がくっつきそうになるのを頑張って開けている、という顔はあどけない。

 つられたのか、窓辺に佇むシャレムが「ふわぁ」と欠伸した。眠いのか、眼を擦っている。

 ミレはひそひそ声で「帰って寝てもいいよ」と促したのだが、シャレムは首を縦に振らない。


「ご主人さまをひとりきりになんてできない。なにかあったらどうするの? 僕が眼を離した隙に、すーぐさらわれるんだから」

「そんなことないでしょ」

「あるよ」

「ない」

「ある」

「ない」

「ある。しかも決まって、相手は奇人変人傍若無人な奴ときてる」

「最近は、ないでしょ」

「油断大敵。それに、僕が四六時中傍にいられればいいけど、そうじゃないときもあるしさ、気をつけてよ。ご主人さま、本っ当、危なっかしいんだから」


 人聞きの悪い。


 ミレはジロリとシャレムを睨んだ。警戒心皆無の赤ん坊じゃあるまいし、危険人物には近づかないよう、一応心がけてはいる。そうそうさらわれてなるものか。

 だがシャレムは悪気のない顔で、恍惚と言った。


「だから、ご主人さまには僕がついていないと」

 

 過保護で過激、おまけに盲目的な献身ぶりを発揮するシャレムは、父キャスの命令でミレの犬となった。はじめて会ったときから変わらぬ、主人第一主義だ。

 夕べ夜会のあと、シャレムに急な呼び出しがあり、戻って来たのは明け方だった。王宮に滞在して日は浅いがシャレムは、日中はともかく、夜は頻繁に姿を消している。

 疲れているんだろうな、と察しをつける。

 シャレムこそ寝かしつけたい。犬だって、睡眠不足では判断力も鈍るだろう。それこそ仕事に支障が出てはいけない。余計な危険を招くことになる。


「シャ――」

 

 ミレが肩越しに振り返り、シャレムへ部屋で寝るように言いつけようとしたそのとき、いきなり大きな物音をたてて扉が開いた。


 第一章も、あと二話です。


 次話、兄弟編。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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