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迷惑な溺愛者  作者: 安芸
第一章 王子殿下のお話し相手
2/101

一 無視されました

 まずは第二王子にご挨拶……は、できませんでしたね、はい。

 

      一


 カッセラー国南東、パティスの深い森にひらけた宮殿は、中央に王と王妃の住居棟、左右両翼に第一王子と第二王子の住居棟があり、中央は広大な庭園だ。

 他に王の庭、王妃の庭、第一王子の庭、第二王子の庭、使用人棟と使用人庭園、厩舎、運動場、離宮、温室などがある。


 細く薄暗い森の小道を抜けると、眼の前に突如広がる光景に誰もが息を呑む。

 天を衝くかの如く聳える、壮大華麗な白い城。

 優美な外観、豊かな緑と清らかな泉が織りなす景色は訪れる者の心を魅了した。

 ただひとりを除いては。


 王家の紋章が刻まれた馬車で宮殿へと運ばれたミレ・ルーエシュトレット・ガーデナーは、王と王妃に拝謁したあと、早速、第二王子のもとへ案内された。


「カッセラー国シゼー国王陛下がご子息、第二王子ユアン殿下でいらっしゃいます」

 

 ユアンは中央の中庭に面したバルコニーのすぐ傍の寝台に寝転がって本を読んでいた。

 金髪碧眼の子供だ。どこかひねくれた表情を浮かべている。

 ここまでミレの案内を務めてくれた第二王子付き側近のヴィトリーが話しかけても、眼もくれない。


「殿下」

 

 無視。


「殿下」

 

 無視。


「殿下」


 無視。


「殿――」

「しつこいぞ、おまえ」

 

 視線は落としたまま、叱責する声は苛立たしげだ。


「それが取り柄ですので」


 ヴィトリーが恭しく頭を下げる。

 ユアンは「ふん」と鼻を鳴らし、ようやくチラリとミレを一瞥した。

 すかさず、ヴィトリーがミレを紹介する。


「殿下の新しいお話し相手、ミレ・ル―エシュトレット・ガーデナー様です」

「おべっかつかいの話し相手などいらぬ」

「どうか、そうおっしゃらず」

「どうせ三日と持たない」

「そんなことはわかりませんよ。もしかしたら、とても気が合うかもしれないじゃないですか」


 ユアンは子供には不似合いな、(わずら)わしそうな大人びた表情を浮かべて、ミレをじっと見つめて言った。


「ブサイクな女だな」

「なんて失礼なことを!」


 ユアンの無礼極まりない発言にヴィトリーが泡を食う。

 だがミレ自身が動じなかったので、ユアンは面白くもなさそうに片眼を細め、ゴロッと寝がえりを打った。ミレとヴィトリーに背を向ける。


「そんな地味な女に用はない。出て行け」

「またそんなことをおっしゃって。せっかく遠路はるばるお越しいただいたのですよ、もっと誠意を込めて労うなり、なんなり――え。ええっ。え? え? え? ミ、ミレ殿! ど、どちらに行かれるのですかっ?」

「さあ」


 ミレは踵を返したまま、小首を傾げた。


「でも出て行けと言われましたので」

 

 と答えて、すたすたとそのまま退出した。


 あとに残ったのは、唖然と口をあける、主従のみ。


 

 続きはまた明日。

 次話、兄王子登場。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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