国王の使者
*当物語はR15指定です。
敬意に欠ける表現や、一部、物騒な主張、過激な発言があります。
閲覧の際はこれらの点をご了承いただいたうえでお読みください。
尚、更新は不定期です
「当家の姫を第二王子殿下のお話し相手に、ですか」
キャス・ルーエシュトレット・ガーデナーは気乗りしない声で復唱した。
目の前では、「左様でございます」と国王の使者が大きく頷いている。
「国王陛下及び王妃陛下より直々の仰せです。ぜひ、すぐにでもとお召しです」
「確か、第二王子殿下は病で長く床に伏せっておられるとか」
キャスの指摘に、国王の使者が慌てる。
「しっ。滅多なことを申しますな。快復が遅れているものの、大病ではないのです。そのような外聞の悪い風評が世間に広がったらどうします」
「ふむ」
応接間に沈黙が落ちた。
キャスの反応が芳しくない、と見た国王の使者が必死に言い募る。
「ともかく、王子殿下は退屈しておられるのです。それはもう、ものすごくものすごくものすごく、退屈しておられて、ただちに適当な暇潰し相手を――もとい、よいお話し相手を必要としておられるのです」
肘掛け椅子に深く腰かけ、腹の上で指を組みながら、キャスが問い質す。
「失礼ながら、王子殿下はお幾つでいらっしゃいますか」
「今年十歳におなりです」
「当家の姫は十六です。面識もなく、歳の差もありますし、殿下には相応しくないかと。同性同年代のお話し相手の方がなにかと気も合うのではないでしょうか」
「正直に申し上げますと」
国王の使者は盛大に溜め息を吐いた。
「同性同年代のお子様たちでは到底太刀打ちできません。それどころか、いい大人も含めて、もう何人泣かされたことか。高貴な身分をかさにきて、わがまま言い放題、し放題。無理難題を押し付け、嗤う、怒鳴る、苛める、からかう、引きこもる、挙句の果ては八つ当たり。被害者多数続出、その最たるものが私です」
「そんなにですか」
「そんなにです」
国王の使者はさめざめと泣き、ハンカチで眼元を押さえている。
キャスは困り顔をして嘆息した。
「しかし、言いにくいことですが、当家の姫は少々変わっておりまして、とても王子殿下のお話し相手がきちんと務まるとは思えないのです」
国王の使者の眼の色が変わる。
俄然、勢い込んで、椅子から身を乗り出してまくしたてる。
「ですからっ、白羽の矢が立ったのです! 普通でないとは、大いに結構。まともな神経ではやっていられません。どうか、これも人助けだと思って応じてください! 国王陛下も恩賞に糸目はつけないと仰せであります!」
恩賞など問題ではない。
問題は、正式な国王陛下の召喚である以上、よほどの事情がない限り、断わることは許されないということだ。
忌々しく思う一方で、ふと閃く。
キャスの脳裏を過ぎったのは、亡き妻の忘れ形見である、愛しい一人娘の顔。
結婚適齢期の年頃になったというのに、屋敷に引き籠り、犬と遊んでばかりいる。
そんな娘の将来を案じていたところへ、国王の使者が訪れたのだ。
もしやこれは好機ではないか、と考えたキャスは、一計を講じる。
「わかりました」
「おお! では、いらしていただけますか」
「はい。姫には早急に支度するよう申しつけます。が、つきましては、一筆いただきたく存じます」
「一筆?」
「姫と王子殿下の間でたとえなにがあっても、その責任を当方が負うものではない、と。このことを了承していただかなければ、私としては、このお話しをお受けするわけにはまいりません」
国王の使者は「全権依頼を託されております!」と胸を叩き、その場で一筆認め、捺印した。
そして準備が整いしだい迎えを寄こすと言い残し、意気揚々と帰っていった。
こんばんは、安芸です。
モチベーション向上のため、ほぼ衝動的に開始。
いつもより、まったく手軽に読めるはず。
安芸も気を抜いて書いてますので、皆様も気を抜いておつきあいください。
ただし、気を遣ってもおりませんので、注意書きはお読みください。
とりあえず、五話分はあるので、続きはまた明日。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。