不安すぎる序章
サブタイを「頼りにならない面子」とどっちにしようか悩みました。
え?あ、はい。どうでもいいですね。
「で、どれだ?」
「ど、どれとか言わないでよ!」
「はいはい、で?」
「あの、か、カーテンの手前の椅子に座ってる茶髪の……」
「あ~……そっか~」
現在、俺と依頼者・鈴沼友春は作戦会議の前の事前調査というやつを絶賛決行中だ。友達がいなかった俺はこうやって誰かとコソコソ隠れて行動するのに少し緊張している。
まぁ、それはおいておいて。
たった今確認した情報によると、鈴沼が好きになった相手というのはサッカー部の期待のエース、飯……飯田?飯嶋?どっちだっけ?とにかく運動できてルックス良くてのリア充の王座に輝く完璧超人だ。
彼の噂は深く広く世界に羽ばたき、噂話を聞かされることのない俺でさえ最近の飯……ヤツの靴のサイズまで知っているほどだ。
鈴沼も可愛い部類に入るのだろうが、いかんせん桁が違いすぎる。ヤツが「俺、誰々と付き合ってんだよね~」と人気モデルの名前をあげたとしても誰も疑わないだろう。
だから俺は悩んでいる。
「う~ん、飯嶋か~」
「吉井君だよ?」
全然違った。
でも謝らない!なぜならヤツも俺の名前を知らないだろうし!お、おあいこだよね?
「どう?」
どうって何が?
鈴沼には悪いが、どうしようもない。俺に恋愛経験がある、なしの問題は関係なく、……ぶっちゃけ釣り合わない。
あ!だから柊に相談したのかな?ヤツならなんとかしそうだし。
「とりあえず部室に行こうぜ」
「まぁ、これ食って元気だせ」
「え?ありがとう。あれ?なんか諦めムードじゃない?あれ~?」
気づけ鈴沼、お前は手の届かない星に思いを馳せてしまったんだ。誰にでもある間違いさ。そうやって人は大人になるんだね。
「あ、おいし……。これどこのドーナツ?ファンになっちゃうかも」
「三河屋っつードーナツ屋だ。うちの店なんだけどな。どんどんリピーターになってくれ!友達も連れて来てくれると助かる!……俺には連れてく友達いないし……」
「わ、分かった!いっぱい連れてくね!というかこれ……
「関口」
そう!関口君ちの店のなんだ!凄いね!」
「いいやつだなお前。新作あるから食ってくれるか?うちで頼まれたんだけど……あげる友達いないからさ」
「うわぁ……」
鈴沼の視線が干からびたミミズを見るような目になったので逃げるように目を逸らすと柊と目が合った。
「え、何?」
「新作……」
「え?」
「コホン、新作の味見係は多い方がいいと思わない?」
「まぁな、けど俺知り合いいないし」
「私がいるじゃない」
不覚にもドキッとした。
「……柊?」
「私、これでも舌には自信があるの」
「……あぁ」
うっかりメモリアルしちまいそうになった俺のトキメキを返せ!
ホイと新作ドーナツを柊に渡すとかわりに数枚の紙束を差し出された。
「……一応、私なりに対策を考えてみたわ」
「おぉ!助かる!」
「正直、こういうのは苦手だから、あまり期待されても困るけれど」
いやいや、ご謙遜ご謙遜。
さて、じゃあ、この完璧な作戦をもとに完璧な計画を……計画を……けいか
「お前これデートコースじゃねぇか!」
「えぇ、そうね」
何このゴミ虫と語る視線を無視……できずに涙目になりながら反論する。
「鈴沼はここに行き着くまでの過程がおぼつかないんだよ!」
「何を言っているの?彼女の気持ちを伝えれば済むじゃない」
あ、分かった。
コイツ、断られるという現象を知らないんだ。
好きになったことがないだとかそんな陳腐な理由ではなく、コイツに告白されて断るヤツなんていないのだろう。
そもそも性格が残念でなければ、リア充の頂点に君臨するようなヤツなのだ。
下地民の悩みなど知る余地もない。
誰かが言った。
「彼氏がいないなら、夫を作ればいいじゃない」と。
……初めての依頼、こんな面子で大丈夫かな~
次は『空白の7日間』を掲載いたします。
彼が入部してからの一週間を短めにお送りいたします。




