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三河屋ドーナツと恋愛相談

誤字・脱字があったら教えて下さい。

「知ってるか?この学園にどんな後処理も引き受ける始末屋がいるらしいぜ」


教室の隅でライトノベルという名のバイブルを熟読していると、後ろの方からそんな噂話が耳に入ってきた。


「なんでも?」

「あ、ああ……でな?その始末屋の一人は超可愛い女の子らしくて……」

「……らしくて?」

「い、イタシちゃった後処理も受け持つらしいぜ?」

「マジで!?」


うおおおおおおお、と雄叫びを上げる男子ばか共を後目に俺は思考の世界へとレッツ トリップ


可愛い女の子、ね。

うん、間違っちゃいない。ただし外見は、と条件を付けなければならないが。

あれから一週間、担任に脅さ……薦められて、毎日部室に顔を出していたんだ。

そこで新入部員の研修という名目で色々とこき使われ、やれゴミだしだ、やれ飲み物だと右へ左へ大わらわ。

対する名誉部長様は(俺の献上した)トロピカルジュースを傍らに、優雅に読書三昧な毎日を《快適に》お過ごしになられたようだ。クソッタレ



「ねーねー、ボッチ、あんたドッチボールとサッカーどっちがいい?ちょうど半々だから決めちゃって」うわ~最悪。どうせどっちに決めてもクラスの半分に恨まれるんだ。メンド!いつも聞かないんだから話を振るんじゃねーよ!俺みたいなヤツは話すのに心の準備体操しないとつっちまうんだよ!何をとは言わないよ?ヒントは縄とか丈夫なワイヤーとかかな。


「ねー、はやく!待ってんだけど」

「……どっちでもいいんだけど」

「うざっ!!!一番うざい返事が来た!あんた母親にご飯何がいい?って聞かれた時に何でもいいって答えるタイプだろ」

みょ、妙な具体例を……。

まぁ、うちの場合、聞いてくるのは姉ちゃんだけどな。

この世界で俺に優しいのは自分と姉ちゃんだけな気がする。


「それじゃあドッチボール」

「あ、そ。みんなー、ドッチボールに決定!」

一応俺の票がクラスの行動を決定したことにちょっと優越感。

みんなは、え~、とかやった~、とか騒いでいるが俺に因縁をつけてくるやつはいなかった。眼中にないそうで。いや~、良かった良かった……。

ちなみにドッチボールを選択した理由は奇跡的にも読んでいたラノベの挿し絵に、ボールが女の子のボインにバインしたものがあったからだ。



ラジオ体操を終え、男女混合チームを作った。

ちなみに俺は審判をかってでた。いや出てない。何か言われる前に赤と白のフラッグを手に、審判の位置につく。

試合が始まって15分ほどすると程よく盛り上がってきた。

見よこの旗捌き、とふざけていると顔面に途方もない衝撃が走り、薄れゆく意識の途中、いっそギャグに思える程の鼻血が噴水のごとく吹き出していた。





「うんん」

意識が蘇生して伸びをして体をほぐそうとするとジャリ、と小気味いい音が聞こえた。コートには誰もいない。つまり、

「見捨てられた……か。期待はしてなかったけど。鼻血だってちゃんと死ぬんだぞ?クソッ」

時計を見ると5時間目の体育が終わって大分たっていた。教室に今から向かって目立つのもヤダし、部室に行くか……。



ガチャ、とドアを開くと柊雫が脚組みをして本を読んでいた。

「おろ?いたのか……。柊って授業出ないのか?」

「……」

「はいはい読鬼モードね」

柊はたまに(2日に一回の確率で)読書の鬼と化す。その勢いやまさに鬼。みる者を戦慄させる。

しかし読鬼モードだから無視しれているわけではない。普段から無視されている。もう慣れた。


余りにも暇なので部室を出て、部室棟を歩き回ってみると、少し大きめの給湯室があった。推測に過ぎないが、合宿を行った際にここで料理を作ったのだろう。

更にみると未開封の小麦粉やらなんやらがたくさんでてきた。使わない手はないだろう。よしっ!作るか!



クッキングに勤しむこと1時間。どうでもいいけどクラスのみんなはそろそろ帰りの挨拶をしている頃だろう。

渾身の揚げたてドーナツを持って部室に戻ると柊雫が目を見開いていた。

「……どした?」

「三河屋……ドーナツ」

「!?なぜそれを!」

「匂いで分かるわ」

「凄いなお前」

「差し入れ?有り難くいただくわ」

「読書しかしてないお前に差し入れとか超不本意だけどくれてやる」

「一文多いわね。彼女できないわよ?」

「半端ねぇな、お前。あと、彼女以前に友達もいねぇし」

柊雫は一瞬腐ったみかんを見るような視線を向け、告げた。

「別に恥じることではないわ。人とつるむだけが人間性ではないのだから。むしろ協調性などという戯言に踊らされずに孤高を生きるアナタはフナムシたちの中ではマシな部類よ」

「斬新な慰めありがとう。同時に自分を正当化できるし画期的だな。」

「本当に一文多い男ね」

拗ねた様子でパクとドーナツをくわえる柊雫はなんだか猫みたいな印象を受けた。

「む?」

「どうした?」

「違う……?いやしかし、匂いは」

柊雫は唸りながらドーナツに鼻を近づけてスンスンと匂いを嗅いでいる。

「これ、本当に三河屋で買ったの?味も近いけど何か違う……」

「小麦粉も油も違うんだから仕方がないよ」

「どういう意味かしら?」

サッパリわからないという様子の柊雫は首をちょこんと折り曲げ、聞き返す。

ああ、ほんとしゃべらなければうちのショーウィンドウに飾っておきたいくらい可愛いのに……。

「家で揚げるーー三河屋ドーナツの材料とここにあった材料は違うんだから味は変わるさ」

「ちょっと待って、家で揚げる?」

「あ、三河屋ドーナツ経営してんのうちの親父」

「神は死んだ」

「……おい」


「おろ~!?いい匂いがするぞ?」


部室と廊下を隔てた扉の磨り硝子に人影がうつっていた。

少しの間の後、ゆっくりとドアが開き、中から少女がおどおどしながら入ってきた。

「ノックくらいはして欲しいものね」

「あ、ごめんなさい」

入ってくるなり謝るはめになった女子生徒は「……お邪魔しま~す」と小さな声で呟き、部室内を興味深げに見回しいた。

「あ、あの。ここは始末部であってますか?」

「えぇ」

「よ、よかった。えっと、依頼があるのですが……」

柊は興味を失ったのか、元々興味を持たなかったのか、再び文庫本を読みながらドーナツをかじっている。

立ったままおどおどしている少女を見かねた俺がパイプ椅子を引き寄せて譲ると少女はビクッと体を震わせた。

心が痛い……。

「あなたの目は誘拐犯のソレなのだから仕方がないわ」

柊はノールックで死球を提供する天才だな。

しかし、依頼者に目を向けずに応対なんて非常識じゃないか?

お客様相談窓口に連絡されかねない。

「で?」

「あのですね。す、好きな人にこ、告白ーー」

「却下」

「ーーしたい……え?ええっ?」

相変わらずのバッサリに女子生徒は目を見開いて驚嘆を表現していた。

この子は柊とは正反対で表情豊かだな~。

「あ、あの」

「ここの部活の目的はあくまでも後始末。自分で何もしていないのに頼ってくるのを受け止める場ではないわ」

柊の毒舌は更に続く。

「ついでに言うと、私もそこのフナムシも恋愛経験、……以前に対人経験が皆無なのだからそんな未知のものに手を出せるわけがないでしょう?」

ですよね~。こっちが相談したいくらいだもん。

「でもでも!柊さん男子に人気あるでしょ?だから」

ここまで言われてめまだ引き下がらない女子生徒。意外に頑固だったりするんだな。少しズレてるけど……。

「私に寄ってくるのは外見につられてくる低俗な者だけよ。蛾が光に集まるのと同じようにね。逆に私が下手に手を出してあなたの慕う相手に気をもたせたら元も子もないでしょ?」

「は、はぁ……」

むかつくことにコイツ、自画自賛は嫌みにならない。真実だから……。

「と、いうことで私は協力できないけれど」

チラと俺に一瞥くれ、

「そこのは好きに使っていいわ」

と言い放った。

「はぁっ!?」

「研修よ。この依頼であなたを正式に始末部の一員と認めてあげるわ。良かったわね」

よかねぇよ、クソアマ。俺の手に負えるわけねぇだろ!さっきもいったが、俺が相談したいくらいだっつの!

「ぇ、この人、あてにして大丈夫なんですか……?」

依頼者の言葉に、俺は声を殺して涙を流した。

毒舌でもいい。

話す相手が欲しい。

そんな方に読んで欲しい……。

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