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まだ遠い、未来へ

まだ遠い、未来へ 〜 進みすぎないように 〜 

作者:
掲載日:2026/04/17

「円華ちゃん、在庫確認した?」


「あ、はい。」


「今、注文してあるって、お客様がいらっしゃってるけど。」


「え……。」


「とりあえず、……本社に、注文書送っておいて。

お客様には、私が対応するから。」


「……はい。すみませんでした。」


頭が、真っ白だ。


「お疲れさま。

今日は直帰で大丈夫だから。


次からは、ダブルチェックでいこう。」


「はい、本当にすみませんでした。

お疲れさまでした。」


「はーい、お疲れ。」


「お先に失礼します。」


なんか、ふわふわする。


言われたばかりだったのに——


「円華ちゃん、数字ってね、

ずっと見てると見間違えちゃうの。


塊で見えちゃうっていうのが、あるみたい。


だから、二人だと安心。


焦らなくていいし、頼ってくれていいんだからね。」


「はい。これからは気をつけます。」


——自分が、自分じゃないみたいだ。


歩いてるのに、前を見ているのに、

足が動いていないみたいで、


見えない。


先輩のことも……。


駅に向かう道のりを、景色を見渡しながら、ゆっくりと歩いた。


今日を、上書きしていくみたいに。


早く、奈帆に会いたいな。


一度止まりかけてしまった足を、少し早める。


ホームで電車を待っていると、

2人組の女子高生が大声で笑いながら話している。


私たちの、高校時代——


「円華、またそれ食べてんの?」


「なんかハマっちゃって。」


「これからご飯食べに行くんでしょ。」


「行くよー。それよりさぁ、もうすぐ夏休みだね。

どっか行くでしょ?」


「海以外ね。」


「えー?なんで。」


「日焼け痛いから。」


「じゃあ、プールだ!」


「一緒じゃん!」


「あ、ははは……。奈帆は、考えすぎだよぉ。

夏を楽しまないと。」


「楽しむよ〜。

花火見に行ったり、かき氷の美味しいお店行ったり。」


「え、それあたしも行きたい!」


「ほらね。」


——昔から、私と奈帆は、少し違ったかもしれない。


進むって、難しいな。


電車を降りて、時間を確認する。


まだ結構時間あるなぁ。


少し、奈帆が働いてるカフェ見にいこうかな。


スマホで場所を確認しながら、お店に向かって歩いていると、

テラスがおしゃれな、深い緑のテント屋根のお店が見えてきた。


あそこだ。


お店に入るのは、ちょっと急かしてるみたいだよね。


ていうか、待ち合わせまで結構時間あるもんなぁ。


少し、店に近づいて中の様子を見ると、


白いシャツに、黒いタイトスカート。

制服かな。


あれ、奈帆だ。


奈帆は、お客さんに呼ばれたのか、テーブル席に近づいていく。


ん、あ、何か言われてる?


え……?

しゃがんだ?


膝ついて、話聞いてる。


目線、合わせてるのかな。


……。


奈帆は、少しして立ち上がると、

少し長いなと感じる程度のお辞儀をして、戻っていく。


私の知らない奈帆。


大人っぽいなぁ……。


……夜まで、買い物でもしてようかな。


その場所から引き返すように、駅に向かった。


デパートで時間を潰すことにした。


店の中を歩いていても、目に入ってくるのは、

そこにいるお客さんの顔ばかりだった。


なんで……。


カフェの時の奈帆が、焼きついて離れない。


奈帆はいつも言っていた。——


「私、気づくのが遅いのかも。

もっと、周り見て早くできたら、

円華みたいにどんどん進めるのかなぁ。」


それが、自分の弱点みたいに……。


けど、奈帆は……逃げない。


きっと、自分からも、相手からも。


私は、急いで……進もうとしてた……?


周りなんて、見てたのかな。


何を、見てたんだろう。


気づいたら、デパートのベンチに座っていた。


動いてしまう前に、立ち止まれなかった。


しばらくぼーっと時間を過ごした後、時計を確認すると、

19時半を回っていた。


待ち合わせのファミレスに行こう。


店に入って席に着くと、注文用のタブレットが設置されていた。


ドリンクバーだけでいっか。

奈帆が来てから、注文しよう。


メニューを見ながらぼーっと待っていると、

店の扉が開く時の、音がした。


すぐに入り口に目をやると、


奈帆だ。


私は嬉しくて、笑顔で手を振った。


奈帆は、落ち着いて手を上げて、

こちらに向かって歩いてくる。


やっぱり少し、元気ないな。


なんだか、私を通り過ぎてるみたい。


「ひさしぶりー。奈帆、元気だったぁ?」


「うん。円華は元気だった?」


「元気だよ。

今日は、営業先から直帰だったし、早く終わったんだ。


だから服買って、着替えちゃった。」


仕事は終わったって、感じたかったから。


奈帆、昼間のこと……辛いのかな。


それでも、会いに来てくれた。

なのに、私は何かを求めてるみたいに……。


食事を終えて、席を立った。

少し、自分を落ち着かせたい。


飲み物取りに行こう。


ドリンクバーでは、店員の女性が機械をいじっていた。

私の姿に気づいた女性が言った。


「失礼いたしました。

マシンの調整中なので、

もうしばらくお待ちいただいてもよろしいでしょうか。」


「大丈夫です。温かいのにします。」


「申し訳ありません。

あ、ちなみに、ホットチョコレート。すごいおすすめです。」


笑顔で教えてくれた。


彼女の笑顔が、また私の中に、残ってしまった。


ホットチョコレートを入れて、

席に戻った。


奈帆に会えて、それで十分なのに、

やっぱり、考えてしまう。


そう思った時には、溢れる言葉を、止めることはできなかった。


「私ね……ちょっと、仕事で失敗しちゃって。」


また、自分のこと……。


そう思ってるのに。


心配そうに私を見つめながら聞いてくれるのが心地よくて、

涙が流れるのを止めることもできずに、

話してしまっていた。


「あのさ、それって、円華が先輩に信頼してもらってたからじゃないかな。」


……。


そうか、奈帆はいつもこうやって、

見えないところ、拾い上げてくれる。


見えてないのは、奈帆じゃない……。


彼女の、ゆっくりと静かな声が、落ち着かせてくれる。


私は、早かった鼓動がゆっくりになっていくのを感じた。


「……ふふ、奈帆はほんと、優しいね。

なーんか、説得力あるから不思議。」


奈帆も辛いはずなのに、それでも優しいんだね。


こうやって、一緒に話すことで、

奈帆も元気になれたらいいな。


「私……カフェの仕事好きだし、続くかはわかんないけど、

資格の勉強してみようかな。」


「えー!かっこいい。コーヒーの資格だよね。」


そっか、働きながら資格か……。


やっぱり、奈帆のペース。


私も、何かできること……。


今はただ、振り返りながら、ゆっくり。


もう一度、先輩と話そう。

目線を合わせられるように。


「円華、ありがとう。今日、会えてよかった。ほんと。」


私も、立ち止まれそう……。


よかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


学生時代とは違う、少し大人になった友情の距離感を感じながら描いた作品です。




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― 新着の感想 ―
仕事とプライベートでは同じ人でも別人に見えることがありますよね。 ミスして落ち込んでも、自分のペースで焦らずに。そんな大切なことを教えてもらった気がします。
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