まだ遠い、未来へ 〜 進みすぎないように 〜
「円華ちゃん、在庫確認した?」
「あ、はい。」
「今、注文してあるって、お客様がいらっしゃってるけど。」
「え……。」
「とりあえず、……本社に、注文書送っておいて。
お客様には、私が対応するから。」
「……はい。すみませんでした。」
頭が、真っ白だ。
「お疲れさま。
今日は直帰で大丈夫だから。
次からは、ダブルチェックでいこう。」
「はい、本当にすみませんでした。
お疲れさまでした。」
「はーい、お疲れ。」
「お先に失礼します。」
なんか、ふわふわする。
言われたばかりだったのに——
「円華ちゃん、数字ってね、
ずっと見てると見間違えちゃうの。
塊で見えちゃうっていうのが、あるみたい。
だから、二人だと安心。
焦らなくていいし、頼ってくれていいんだからね。」
「はい。これからは気をつけます。」
——自分が、自分じゃないみたいだ。
歩いてるのに、前を見ているのに、
足が動いていないみたいで、
見えない。
先輩のことも……。
駅に向かう道のりを、景色を見渡しながら、ゆっくりと歩いた。
今日を、上書きしていくみたいに。
早く、奈帆に会いたいな。
一度止まりかけてしまった足を、少し早める。
ホームで電車を待っていると、
2人組の女子高生が大声で笑いながら話している。
私たちの、高校時代——
「円華、またそれ食べてんの?」
「なんかハマっちゃって。」
「これからご飯食べに行くんでしょ。」
「行くよー。それよりさぁ、もうすぐ夏休みだね。
どっか行くでしょ?」
「海以外ね。」
「えー?なんで。」
「日焼け痛いから。」
「じゃあ、プールだ!」
「一緒じゃん!」
「あ、ははは……。奈帆は、考えすぎだよぉ。
夏を楽しまないと。」
「楽しむよ〜。
花火見に行ったり、かき氷の美味しいお店行ったり。」
「え、それあたしも行きたい!」
「ほらね。」
——昔から、私と奈帆は、少し違ったかもしれない。
進むって、難しいな。
電車を降りて、時間を確認する。
まだ結構時間あるなぁ。
少し、奈帆が働いてるカフェ見にいこうかな。
スマホで場所を確認しながら、お店に向かって歩いていると、
テラスがおしゃれな、深い緑のテント屋根のお店が見えてきた。
あそこだ。
お店に入るのは、ちょっと急かしてるみたいだよね。
ていうか、待ち合わせまで結構時間あるもんなぁ。
少し、店に近づいて中の様子を見ると、
白いシャツに、黒いタイトスカート。
制服かな。
あれ、奈帆だ。
奈帆は、お客さんに呼ばれたのか、テーブル席に近づいていく。
ん、あ、何か言われてる?
え……?
しゃがんだ?
膝ついて、話聞いてる。
目線、合わせてるのかな。
……。
奈帆は、少しして立ち上がると、
少し長いなと感じる程度のお辞儀をして、戻っていく。
私の知らない奈帆。
大人っぽいなぁ……。
……夜まで、買い物でもしてようかな。
その場所から引き返すように、駅に向かった。
デパートで時間を潰すことにした。
店の中を歩いていても、目に入ってくるのは、
そこにいるお客さんの顔ばかりだった。
なんで……。
カフェの時の奈帆が、焼きついて離れない。
奈帆はいつも言っていた。——
「私、気づくのが遅いのかも。
もっと、周り見て早くできたら、
円華みたいにどんどん進めるのかなぁ。」
それが、自分の弱点みたいに……。
けど、奈帆は……逃げない。
きっと、自分からも、相手からも。
私は、急いで……進もうとしてた……?
周りなんて、見てたのかな。
何を、見てたんだろう。
気づいたら、デパートのベンチに座っていた。
動いてしまう前に、立ち止まれなかった。
しばらくぼーっと時間を過ごした後、時計を確認すると、
19時半を回っていた。
待ち合わせのファミレスに行こう。
店に入って席に着くと、注文用のタブレットが設置されていた。
ドリンクバーだけでいっか。
奈帆が来てから、注文しよう。
メニューを見ながらぼーっと待っていると、
店の扉が開く時の、音がした。
すぐに入り口に目をやると、
奈帆だ。
私は嬉しくて、笑顔で手を振った。
奈帆は、落ち着いて手を上げて、
こちらに向かって歩いてくる。
やっぱり少し、元気ないな。
なんだか、私を通り過ぎてるみたい。
「ひさしぶりー。奈帆、元気だったぁ?」
「うん。円華は元気だった?」
「元気だよ。
今日は、営業先から直帰だったし、早く終わったんだ。
だから服買って、着替えちゃった。」
仕事は終わったって、感じたかったから。
奈帆、昼間のこと……辛いのかな。
それでも、会いに来てくれた。
なのに、私は何かを求めてるみたいに……。
食事を終えて、席を立った。
少し、自分を落ち着かせたい。
飲み物取りに行こう。
ドリンクバーでは、店員の女性が機械をいじっていた。
私の姿に気づいた女性が言った。
「失礼いたしました。
マシンの調整中なので、
もうしばらくお待ちいただいてもよろしいでしょうか。」
「大丈夫です。温かいのにします。」
「申し訳ありません。
あ、ちなみに、ホットチョコレート。すごいおすすめです。」
笑顔で教えてくれた。
彼女の笑顔が、また私の中に、残ってしまった。
ホットチョコレートを入れて、
席に戻った。
奈帆に会えて、それで十分なのに、
やっぱり、考えてしまう。
そう思った時には、溢れる言葉を、止めることはできなかった。
「私ね……ちょっと、仕事で失敗しちゃって。」
また、自分のこと……。
そう思ってるのに。
心配そうに私を見つめながら聞いてくれるのが心地よくて、
涙が流れるのを止めることもできずに、
話してしまっていた。
「あのさ、それって、円華が先輩に信頼してもらってたからじゃないかな。」
……。
そうか、奈帆はいつもこうやって、
見えないところ、拾い上げてくれる。
見えてないのは、奈帆じゃない……。
彼女の、ゆっくりと静かな声が、落ち着かせてくれる。
私は、早かった鼓動がゆっくりになっていくのを感じた。
「……ふふ、奈帆はほんと、優しいね。
なーんか、説得力あるから不思議。」
奈帆も辛いはずなのに、それでも優しいんだね。
こうやって、一緒に話すことで、
奈帆も元気になれたらいいな。
「私……カフェの仕事好きだし、続くかはわかんないけど、
資格の勉強してみようかな。」
「えー!かっこいい。コーヒーの資格だよね。」
そっか、働きながら資格か……。
やっぱり、奈帆のペース。
私も、何かできること……。
今はただ、振り返りながら、ゆっくり。
もう一度、先輩と話そう。
目線を合わせられるように。
「円華、ありがとう。今日、会えてよかった。ほんと。」
私も、立ち止まれそう……。
よかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
学生時代とは違う、少し大人になった友情の距離感を感じながら描いた作品です。




