第參話、「今すぐにアメリカを打ち殺せ(一)」
今は亡き西暦に換算して1933年3月16日、戦争開始から僅か数日の経過に対して帝国陸海軍が成し遂げた偉業は、あまりにも膨大なものであった。後代行われる「大東亜共栄圏」構築に匹敵する、或いは凌駕する程のその偉業は、間違いなく千年の陰謀と五百年の侵略を行っていた南蛮紅毛……つまりは白人種に対する決起として今なお名高い。
その決起の黎明が明治三七、八年戦役――読者の方の中には「日露戦争」と習った方もいらっしゃるかも知れない――であることは疑いようもないが、本戦役、つまりは「前九三年の役」を以てそれが成就されたと考える方は、あまり多くはない。
何せ、帝国陸海軍は本物の常勝軍であると同時に、世界政府を守衛する任も存在するわけで、その辺りの苦境に関して書かれていることは、あまり多くはない。
だが、「前九三年の役」、仮に「日米戦争」とでも名付ける本戦役は、核兵器を使わざるを得ない程に当時の首脳陣が苦悩した戦争である、それが苦境でなかったとしたら、なんだったのだろうか。
……まあ、一節には、当時の首相は「仇討ち」の為だけにアメリカ合衆国に対する核攻撃を実行した、という言説もあるが、何に対する「仇討ち」なのかはまだ証拠が揃っていないため、苦悩の末の判断としておこう、という動きも、あるのだが。
さて、話をこの当時の暦で3月16日に戻そう。菊水作戦――合衆国西海岸に対する奇襲上陸作戦――から端を発した天号諸作戦――その数十三号に至るまで――を成功させたことにより、太平洋の合衆国軍は一時的に機能不全に陥った。
慌てて合衆国は非難声明とヨーロッパ諸国に対する借款の棒引きを条件とした援軍を依頼したが、ヨーロッパ諸国の多くは静観、同盟こそ無くなった状況であったものの反米国家の代表格であるイギリスなどは大日本帝国に対してアメリカ合衆国に対する当てつけかの如くあけすけに日英同盟の再構築を打診する有様であった。
アメリカ合衆国は事、ここに至って誰を怒らせたのか理解し、恐怖した。
大日本帝国の外交はあまり上手ではない、という認識は、決して間違っているものではないのだが、こと、前九三年の役に限って言えば、その全てが合衆国を破滅させるためだけに、ありとあらゆる外交手段を使っており、後代言われる「寝惚国家」と囁かれる遊星統括帝国――説明する必要は薄いが……まあ要するに、太陽暦28世紀現在の大日本帝国政府である――と対比して、その鋭さ、激しさは同じ国家体系かと思える程度には英俊明敏であった。
……そして、白人種に対する歴史的裁判は、これより始まる。




