第4話:北の孤児院と、差し伸べられた手
1. 北上する旅路
玄武との遭遇から数日。リリアンは、魔導船を次元収納に収め、陸路で北へ向かっていた。東方大陸の海岸線から、かつて追放された王国の国境付近、白虎が暴走しているとされる北方荒廃地帯へと進む。
リリアンは、旅の途中で、玄武が語った四聖獣の均衡の崩壊について改めて考えていた。
(白虎を呼び出すなんて、正気の沙汰じゃない。アルベルト王子は、目先の魔物対策に、どれほどの危険を冒したのか理解していない。権力に溺れた傲慢さは、本当に厄介ね)
リリアンは、自分を追放した人間たちに情け容赦はしないが、白虎の暴走が招く世界の危機は見過ごせなかった。これは復讐のためではなく、ただの世界の保全、そして自分の居場所を守るための行動だった。
2. 廃村と見捨てられた子供たち
王国の国境に近づくにつれて、荒廃の度合いは増していた。魔物の影響で放棄された村が点在し、人影はほとんど見当たらない。
リリアンは一つの小さな廃村で、微かな魔力の痕跡を『鑑定』した。
痕跡:治癒魔術(低レベル)、防護魔術(崩壊寸前) 魔力源:子供三人分の極めて微弱な魔力
「こんなところに……」
リリアンは、崩れかけた教会の地下室に隠れている集団を発見した。五人の子供たちと、一人の若い修道女。彼らは、リリアンの姿を見ると、恐怖と警戒の眼差しを向けた。
修道女は震える声で言った。「あ、あなたは……旅の方ですか? ここは、王都から見捨てられた孤児院の生き残りです」
彼女の名前はシスター・エリス。子供たちを守りながら、わずかな治癒魔術で細々と命を繋いでいた。
リリアンは淡々と質問した。「なぜ、王都に戻らないのですか?」
「……戻れません。魔物の襲撃が激しくなり、王国は騎士団の配置を王都周辺に集中させました。王からの通達は、『辺境の民は、各自で自衛せよ』。私たち孤児院は、役立たずと見捨てられました」
エリスは悔し涙を流した。
「聖女様も、王も、私たちのことなど気にも留めない。治癒魔術しか使えない私には、子供たちを守る力がないんです」
3. 見過ごせない現状
リリアンは、その言葉を聞いて、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
(相変わらずね、アルベルト王子。自分たちの城と命しか守らない。そして、イザベラが「聖女」として王都に居座っている間に、辺境では多くの命が見捨てられている)
リリアンは、シスター・エリスと子供たちを『鑑定』した。誰もが栄養失調と魔力枯渇状態。このままでは、次の魔物の襲撃で全滅するだろう。
リリアンは、彼らの命を救うことに、何のためらいもなかった。それは、王族への復讐心とは別の、純粋な怒りから来る行動だった。
「あなたたちは、この廃村を出なさい」
リリアンは、懐から取り出した金貨をエリスの手に握らせた。それは、王族がリリアンに投げつけた、たった一枚の屈辱の金貨だった。
「これを使い、南の安全な町へ向かいなさい。そして、これを」
リリアンは、無詠唱で一つの魔法陣を起動した。それは、古代魔術を応用した『魔力供給』の魔法陣。彼女の魔力の一部を、子供たちの生命力へと変換し、体力を回復させる。
子供たちは、久しぶりに感じる温かい魔力に、安堵の表情を浮かべた。
「あ、あなたは……聖女様のような、いえ、それ以上の力を……」エリスは驚愕した。
4. 守護の置き土産
リリアンは、エリスの言葉を否定しなかった。彼女は、王族の評価など気にも留めない。
「私は聖女ではない。ただの魔導師よ。そして、あなたたちに置き土産をしていく」
リリアンは、教会の地下室の入口に立ち、地面に緻密な魔法陣を刻み始めた。それは、古代魔術を応用した『永続防護結界』。一度起動すれば、リリアンの魔力を供給しなくても、周囲の自然魔力のみで数ヶ月間、高レベルの防御力を維持できる。
結界が完成し、起動する。地下室全体が淡い光に包まれ、安定した温かい魔力が満たされた。
「この結界は、並の魔物には破れない。あなたたちが南の町に到着するまでの時間稼ぎにはなるはずよ」
リリアンは、エリスと子供たちに背を向けた。彼女の使命は、これ以上、白虎の暴走による被害を拡大させないこと。
「あなたたちを見捨てた王国の愚かさを、私はこれから証明しに行くわ」
リリアンの冷たい瞳の奥には、確かな正義の炎が灯っていた。彼女は、北方の荒廃地帯へ向かって、一歩を踏み出した。その先に待つのは、暴走する四聖獣と、傲慢な元婚約者たちだ。
第4話も読んでくれてありがとうございます!
今回、リリアンちゃんはついに王国の腐敗を目の当たりにしましたね。王都では「偽聖女」がチヤホヤされてる裏で、辺境では無力な子供たちとシスターが見捨てられてるなんて、本当に胸糞悪いです! アルベルト王子、やっぱり許せない!
でも、そこでリリアンちゃんが取った行動がカッコイイ!
屈辱の金貨を子供たちの旅費に!
超チートな古代魔術の永続結界をプレゼント!
見捨てるどころか、規格外の力でしっかりと守護してあげるところに、リリアンちゃんの優しさと、王族に対する無言の「ざまぁ」が詰まってますよね。
さあ、いよいよリリアンは白虎が暴れる北方荒廃地帯へ! 王都への復讐と、世界を救う使命が絡み合って、物語はクライマックスに向かいます! 次話では、いよいよ傲慢王子と偽聖女が、リリアンの存在を認識するかもしれませんよ! お楽しみに!




